作品タイトル不明
トツトツの採取
王都から北西にある林に俺たちは空間魔法でやってきた。
高い樹木がいくつもそびえ立っている。
秋が深まり、木々の葉はあちこちで紅葉が進んでいた。
「ここでトツトツが採取できるんですよね?」
「その通りです。それと同時にトツトツの木の周辺に棲息するアカリリスも駆除します」
今回の依頼はトツトツの採取と、その周辺に棲息する魔物の討伐だ。
「アカリリスというのはどんな魔物なんですか?」
「……すばしっこいリスの魔物。戦闘力は高くないけど、頭上からトツトツを落としてくるから注意が必要」
どうやらトツトツを採取するのに邪魔な魔物らしい。
「でしたら、帽子を被っておいた方が良さそうですね」
アカリリスにトツトツを落とされるのは勿論危ないし、自然に落下してくることだってあり得る。頭に落ちて刺さったら大怪我をしそうだ。
「……いざという時は私が魔法で守るけど、念のため被っておいて」
皆の様子を見てみれば、ヘレナは帽子を被り、レイドはローブのフードを、ロックスはヘルムを被ってと完全に備えていた。
俺も慌てて亜空間から帽子を取り出して被っておく。
アルナは魔法で防ぐ自信があるのか、特にフードを被ったりはしないようだ。
ヘレナ、レイド、ロックス、俺、アルナといった順番で林の中を進んでいく。
地面には多くの落ち葉や枝が落ちているが、ヘレナたちはそれらを無造作に踏み砕いたりはしない。できるだけ気配を出さないように歩いている。
それが当たり前のようにできていることに冒険者としての格を感じる。
俺なんて落ち葉や乾いた枝を踏みまくりだ。たまに落ち葉に隠れている木の根に引っ掛かりそうになる。今度、アンドレに森の中での歩き方でも教わっておこうかな。
「えっと、確かこの辺りにあったよな?」
「……あそこ」
そんな風に考えながら奥に進んでいくと、アルナが斜め左を指さした。
そこに並んでいるのはまさに栗の木。
近づいて落ちているものを観察すると、ぱっかりと開いたイガの中にはぷっくらとした茶色い木の実。栗が入っていた。
「これがトツトツか」
やっぱりトツトツというのは栗だったようだ。
お米がないので栗ご飯はできないが、塩茹で、素揚げ、焼き栗などと色々と楽しみ方はあるだろう。栗料理を考えるだけでお腹が空いてくる思いだ。
「……早速、採取する」
手袋を装着し、籠を背負ったアルナが火ばさみをカチカチと鳴らしながら栗拾いを始めた。
「なんだか今日はアルナさんがやけに行動的ですね?」
いつも眠たげな瞳をしており、何をするにも今一つやる気がないアルナ。勿論、きっちりと己の役割を果たしており、パーティーに貢献しているのだが、今日はいつになくやる気を感じられた。このように一番に動き出すというのは、ちょっと見たことがない。
「アルナはトツトツが大好きだからな」
「なるほど」
「普段もこれくらい行動的だと嬉しいんですけどね」
苦笑しながらのロックスに俺は納得した。
パーティーのまとめ役のような位置にいるレイドは頭が痛そうにしていた。
アルナに続いて俺たちも手袋を装着すると、籠を背負って、採取用の火ばさみを手にする。
「トツトツの採取の仕方はわかりますか?」
「教えてください」
念のためにレイドに採取のやり方を教えてもらうと、前世の栗と変わらない採取法だった。
靴の端でイガの両側を踏んで押さえる。
開いたイガの部分から、火ばさみで栗を取り出す。
それだけだ。特に難しいわけではないので一度見せてもらえばすぐに真似でき、レイドからお墨付きをもらった。
各々が火ばさみを手にして落ちている栗を採取していく。
黙々と作業しているとコツンッという金属音が響き渡った。
「がはは! どうやら俺の頭にトツトツが落ちてきたみたいだ!」
フェイスガードを開けながら豪快に笑うロックス。
頭上で成熟したトツトツが下にいたロックスのヘルムに当たったようだ。
こういうことがあるので栗拾いをする時は、しっかりと帽子を被っておくのが望ましい。
単純な採取作業ではあるが、イガを開くのは意外と楽しい。
栗にも色々な大きさのものがあり、中を開ける度に様々な大きさの栗が出てくるのが面白い。
ガチャを引くような気分でイガを開けていると、やや萎んだような栗が出てきた。
「……そのトツトツは水分が抜けて古くなっている。やめておいた方がいい」
まじまじと眺めていると、いつの間にかアルナがやってきて言った。
トツトツが大好物だけあって良し悪しにも詳しいようだ。
「なるほど。美味しいトツトツの特徴はわかりますか?」
「……表面がしっかりと茶色く色づいているもので、つやと張りがあるものがいい。後は実がしっかり詰まっているかも重要で、指で押してみて硬くて詰まった感覚があるか確かめるといい」
尋ねてみると、想像以上に詳細なアドバイスをくれた。
思わずまじまじと見つめると、アルナの眠たそうな目がこちらを向いた。
「……なに?」
「いえ、アルナさんがここまで饒舌に喋ってくれるのは初めてだったので驚きまして……」
「…………そう」
ちょっと恥ずかしかったのだろう。アルナの頬は少し赤みを帯びていた。
「……あっ、アカリリス」
そっぽを向いたアルナがポツリと呟いた。
視線を辿ってみると、トツトツの木に茶色と赤色の体毛をした大きなリスがいた。
くるりと丸まった尻尾は自分の体よりも大きく、毛皮も随分と分厚そうだ。
こちらが気付いたことに気付いたのだろう。
アカリリスはその尻尾でトツトツの木を強かに打ち付けた。
小さな身体に秘められているとは思えないパワーだ。
木になっていたトツトツが衝撃で次々と落下してくる。さすがにこれだけ数が多いと、帽子だけで防ぐには不安がある。
「『風の障壁』」
転移で後退しようかと思ったところで、アルナが杖を掲げて叫んだ。
すると、俺たちの頭上に緩やかな風が流れて落下してくるトツトツを見事に受け止めた。
魔法で守ると言ってくれたのは、こういうことだったのだろう。見事な使い方だ。
俺が感心していると、一筋の光が煌めいた。
「ちっ、外したか!」
ヘレナがナイフを投げたようであるが、アカリリスは木の裏側に回って躱した。
続けてレイドの土槍が放たれるが、アカリリスは別の枝に移って回避。
体よりも大きな尻尾を持っているようだが、重さを感じない軽やかな動きをしているな。
確かにすばしっこい魔物だ。
ヘレナの三つ目のナイフが木に突き刺さる。
アカリリスはすっかり避けるのが楽しくなっているようだ。当ててみろと言わんばかりにちょろちょろと枝を移ってヘレナを挑発している。
「あんにゃろう、調子に乗りやがって!」
「落ち着いてください。冷静に追い詰めましょう」
青筋を立てているヘレナを諫めるレイドだが、彼も若干イラついているようだ。
広範囲で威力の強い魔法を放てばすぐに仕留められるだろうが、このような林の中では二次災害の可能性があるので使えないのだろう。
なんだかハウリン村の森で遭遇したエビラモンキーを彷彿とさせる光景だな。
あくまで俺の仕事は転送なのだが、今回はトツトツの採取に同行させてもらっているし少しくらい手伝ってもいいのかもしれない。
「空間歪曲」
そう思って空間魔法を発動させる。
足場になっている枝を破砕させると、アカリリスは落下した。
「『水牢球』」
地面に落下する前にアルナの水魔法が発動し、アカリリスを水球が包み込む。
アカリリスが手足をバタつかせるが、いくら水をかこうとも逃れることはできない。
しばらくすると、アカリリスは完全に動きを止めた。
「さすがですね、アルナさん」
「……クレトの魔法のお陰」
殺傷力が低く侮られがちな水魔法であるが、使い方によっては恐ろしい効果を発揮するんだな。
「おいおい、なんだよさっきの魔法は!?」
「魔法でちょっと足場を崩したんですよ」
ああいった素早い手合いは、足元を崩してやるに限る。エビラモンキーとの戦いで学んだことだ。
周囲にアカリリスがいないことを確認すると、俺たちはトツトツの採取を再開した。