作品タイトル不明
131 完成予想図
「こんな感じだけど、どうだろう?」
オレは自分の思い描く日本のスーパー銭湯について、パスカルに伝えた。
パスカルは目を白黒させたり、難しそうな顔をしたり、逆にハッと何かに気が付いたような顔をしたりしながら、オレの計画について質問してきた。
二人で話していると、あっという間に時間は過ぎていった。日の高いうちに店に入ったというのに、もう夕方だ。
パスカルは最後、興奮を隠しきれない様子で語り出す。
「ジャック様のお考えはわかりました。冒険者や職人たちをターゲットに据えた意味もわかります。なるほど、庶民向けの入浴施設ですか。そこに飲食施設も併設してしまおうとは。これは完全に盲点でした。お風呂といえば、どうしても高価な印象が付きまといますが、これを薄利多売で補おうとする考えは素晴らしいものです。そして、これならば、入浴施設の内装を豪華に飾る必要もなく、経費の節約にもなります。ただ……」
そこまで一気に語ったパスカルだったが、今度は一転、難しそうな顔で、しかりハッキリとした口調で語り出す。
「ジャック様はすでにスライムや水を温める魔道具を注文されたようですが、このように大きな施設となりますと、どうしても多額の費用がかかります。正直に言いますと、ジャック様の資産ではお話にならないくらい足りません」
「そうか……」
資金面ではオレも不安を感じていた。土地を買うだけでもけっこう散財してしまったしね。でも、パスカルに言わせると、まったく足りないみたいだ。
オレはこれでもレアポップモンスターを倒しまくって、かなりの財を持っているはずなんだが……。やはり、大きな施設を作ろうとすると、重機などがないこの世界では、それだけ多くの職人を雇わなくてはならないというのがネックなのだろう。
それに、材料費の問題もある。スーパー銭湯を作れる材料がすべて王都に転がっているわけではない。王都以外から運ぶものもあるだろう。大型トラックのないこの世界では、運ぶ手段は人力か馬車だ。それも工事費が嵩む原因であると思う。
「ですから、まずは冒険者の方用に装備を洗う施設と、足湯でしたか? それを作ってみましょう」
「なるほど」
まずはできるところから作っていく作戦か。たしかに、その二つの施設を作ることができるかもしれない。
それに、この二つなら冒険者が利用する施設として印象付けられるだろう。そのまま冒険者が入浴施設を使ってくれたら万々歳だ。
そして、冒険者たちの口コミによって、新たな冒険者や客層を広めていく。
「上手くいっても真似されないようにダンジョン近くの土地はすべて押さえました。時間をかけてゆっくりいきましょう。急いで失敗するのは避けたいですからね」
「そうだね!」
やっぱりパスカルを仲間に誘ってよかった。パスカルの先見の明に感謝だ。
「ジャック様には完成予定図のようなものを用意していただきたく。それをもとに私が職人を手配しましょう」
「ありがとう、助かるよ」
元々商会を運営していたパスカルだ。その時の独自の伝手を持っているのだろう。商人ギルドにも依頼を出すこともできるが、手数料が取られるからね。やっぱりパスカルに頼んだ方がいい。その方が僕の意を汲んでくれるだろうしね。
「完成予定図は近日中に用意する。あとは何かあるか?」
「今のところは……。今日のところはこのあたりでいいでしょう。ジャック様は何か質問などはありますか?」
「ないかな」
「では、解散にしましょう」
そうして、オレたちは次回の会議の予定を取り付けて別れる。
「では、失礼いたします」
「ああ、今日はありがとう」
去っていくパスカル。その背筋は伸び、肩で風を切るように歩いていく。その姿からは、あの冴えない疲れ切ったサラリーマンみたいだった面影はない。そのことがなんとなく嬉しかった。
「なるほど。完成予定図か……」
『優しい止まり木』に帰ったオレは、自室で机に向かう。
オレの抱くスーパー銭湯のイメージ。それを余すところなく伝えるためにはどうしたらいいだろうか?
「やっぱり、増改築を繰り返して大きくなっていくわけだから、それを見越して作った方がいいよな……」
装備を洗うエリア。ここは冒険者をメインターゲットにする限り、スーパー銭湯になっても必要だろう。だが、冒険者以外には無用の施設ではある。入り口に欲しい施設であるし、いらない施設でもある。
「足湯だけなら気軽に立ち寄れるよな。なら、足湯は最初に欲しい……。でも、装備を洗うエリアこそ最初に必要だ……」
どちらを優先するか……。
そうだ!
「分けてしまえばいいのか!」
装備を洗える店と、足湯の店、両方作ればいい!
どうせ土地はいっぱいあるんだ。どうせなら贅沢に使ってしまおう。後々に冒険者用の入り口と一般人向けの入り口にしてしまえばいいのだ。
「オレってば冴えてるー!」