軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者は少女(?)の相談に乗る

扉や窓の枠部分の歪みを直し、板壁の隙間に粘土を詰めていく。それだけでかなり居住環境は改善された。

が、見た目がよろしくない。

いかにも『補修しました』と主張しているからだ。

小屋の外側は補強も兼ね、板壁を重ねて張ることにした。

すぐ側には森がある。木材は豊富だ。しかし勝手に伐採してよいものかわからず、問い合わせてみると。

『一定量以上の伐採は申告が必要だ』とのこと。

聞いておいてよかった。もらった当面の生活資金と、王国でもらった金貨があったので、それで資材を購入する。

ついでに、小さな荷馬車と馬を一頭買った。

ちなみに、この国では『毛長馬』と呼ばれる特殊な馬が一般に利用されている。

名前の通り全身長い毛で覆われ、王国の馬よりも一回りほど大きい。最高スピードは劣るものの、持久力に勝る。

最果ての森に生息する種で、実のところ攻撃力はかなり高い。しかし飼い慣らすのは簡単で、つまりは狼程度なら自身で撃退してしまう使い勝手の良い馬なのだ。

ひとまず小屋の横に柵を作り、そこに毛長馬をつなぐ。

思ったより時間がかかったが、次はいよいよ小屋の外側の壁張りだ。

寸法を測りもせず、ガリウスはのこぎりなど大工道具で板を加工した。

壁の上下には支えるための横板を釘で打ち付け、固定する。それぞれギザギザしたくぼみを作っておいた。

そこへ、くぼみと同じ形を上下に作った板を当て、木槌で叩いて嵌めこむ。

ガタつきはなく、歪みもない。

「すごいわね。傍から見てたら、適当に切ってるだけなのに」

呆れたような感心したような声はリリアネアだ。十分ほど前に現れたのだが、作業の邪魔になると思っているのか、馬に草を与えながら見物している。

「それもあなたの 恩恵(ギフト) の力?」

「そのようだ。実のところ驚いている。短剣で作業したなら、ここまではできなかっただろうな」

専用の 道具(アイテム) を使うと、完成イメージが漠然としたものでも、かなり高い完成度で実現できてしまうらしい。

これまでも薬の調合や調理で実感していたはずだが、注目していたのは武具での斬った撃ったばかりだったので気づかなかった。

「大工でもなんでもいけるわね。よかったじゃない。仕事には困らないし」

たしかに、道具を使う仕事なら、なんでもできそうな気がする。

しかし問題もあった。

そもそもガリウスには希望する職業がない。なのに選択肢は多くなったので、どれを選んでいいかわからなくなった。

贅沢な悩みではあるのだろうが。

「あなたを薬師としてスカウトしたかったんだけど、どうなんだろ?」

「今日はそれを言いに来たのか?」

「へ? ああ、うん、まあ、そんな感じ……?」

リリアネアは曖昧に答えて目を逸らす。

どうやら本題は別にあるようだが、言いにくいことらしい。

ならば、とガリウスは話題を変えるべく質問を投げた。

「この森の奥に、意思疎通できる魔物がいるそうだが、知っているか?」

「ええ。あたしも驚いたけど、詳しく聞いたらなんか納得しちゃった。たぶんだけど、精霊昇華したんだと思う」

「精霊昇華?」

ガリウスは作業の手を止める。

「精霊というのは、君たちが信仰する『形なき集合意識』というものだったか」

特定概念が意志を持ったもの、と人族は認識している。

森だの火だの大工道具だのの精霊がいる一方、木だのノコギリの精霊もいるらしいので、唯一神を信仰する王国の人々は鼻で笑っている。

しかし実際には、亜人たちは彼らと契約して魔法なりを使っていた。

恩恵(ギフト) を与えるとされる唯一神はそれ以外の実在証明が見当たらないが、亜人たちは精霊と契約すればその姿が見えるという。

「で、例の意思疎通できる魔物ってのは、細かな条件はあたしもよくわかってないから省くけど、野生の獣が精霊と同格の力を得て、ヒトや亜人並の知能を獲得した、ってところかな」

「王国はもちろんだが、以前の君たちの国にもいなかったのだな?」

「そうね。さすがは最果ての森ってとこかしら。 町長(まちおさ) が知る限り、十二はいるそうよ」

魔物と同等かそれ以上の力を持つものが、精霊格に昇華する。

そうとう危険に思えるが、テリオスが『話はついた』と語ったところから、すくなくとも現時点では敵対していないし、脅威にはなっていない。

ろくに説明しなかったのもそれが理由か。

(ならば、やはり気にしても仕方がないな。注意されたように、森の奥に行かなければ出会うことすらないだろう)

そう考え、作業に戻る。

しばらく没頭していると、背後からため息が聞こえた。

ガリウスは振り向いて、

「リリア、悪いがすこし手伝ってくれないか」

「へ? あ、あたしに? でも、あたし不器用だから……」

「軽く木槌を振るうだけだ。どうだ?」

「う、うん……」

リリアネアはためらいがちに寄ってきて、予備の木槌を手にした。ガリウスがあてがった板を恐る恐る打ちつける。

「で? 何か俺に話があって来たのではないのか?」

「ぅ……、お見通しか……。てか、そんな大した話じゃないのよ。ただちょっと、ガリウスが羨ましいなあって」

「俺が羨ましい?」

「あたしね、今何もやることがないの。お仕事、どうしようかなって悩んでて……」

聞けば、彼女はずっと魔法の訓練、しかも攻撃魔法ばかりをやっていたから、手に職がない状態だという。

エルフたちは主に薬の調合をして生計を立てている。そのために必要な薬草の採取も行う。

森の中で狩りをする者もいるが、魔法をぶっ放すのは例の魔物との取り決めに反するらしい。

「あたしってほら、不器用じゃない? 力仕事も得意じゃないし、はぁ……」

「ミゲルはなんと言っているんだ?」

「お兄様はお兄様で悩んでるのよね。この町の各居住区から代表をひとり議会に送るって話は、知ってる?」

「ああ。聞いている」

居住区にはたいてい単一の種族が住んでいるから、実質は各種族の代表が議会を形成している。

「その代表に、お兄様を推す声があるのよ。特に、現代表のラルソンが」

ラルソンとは町に最初に訪れたとき、町長たちと同席していたエルフ族の男性だ。

「ミゲルはエレンフィールの 里長(さとおさ) の息子なのだから、当然出る話ではないのか?」

現エルフ族居住区に住むのは、ほとんどがエレンフィールの里出身者だった。

「でも、あたしたちは新参だし、お兄様はご自分を『まだ若輩で半人前だから』って躊躇してるの」

あの辛い旅路を乗り越えてきた彼のリーダーシップは十分だとガリウスは感じていた。

ただ、やはり長年この町で暮らしてきた者たちに遠慮しているのだろう。

「ジズルが言っていた。故郷という礎を失った者たちは同族の絆を拠り所にする、と。元からここに暮らすエルフたちにとって、その絆の象徴が君たち 兄妹(きょうだい) なのだろう」

だから、ミゲルは代表を受けるべきだとガリウスは言う。

「ミゲルが『半人前』と自己評価するなら、もう半分は君が補ってやればいい。あの旅でも、君たちはそうしてきたじゃないか。きっと君の役割はそういうところなのだと思う」

リリアネアはきょとんとしてから、じわじわと喜色が美貌に湧く。

「そう、か。そうよね。うん、そうだわ!」

ぱっと笑みを咲かせると、

「ありがとう、ガリウス。あなたに相談してよかった」

「力になれたなら俺も嬉しい」

「それと、ごめんね。作業の邪魔して」

「気にしないでくれ。一人で黙々とやっているからな。ときどき話し相手がいるといい気分転換になる」

「じゃあ、これからも来ていいの?」

「 君の仕事(・・・・) に支障が出ないのならな」

「ふふ、そうね。そうするわ」

リリアネアはガリウスの話を兄にすべく、身をひるがえして駆けていった。

その背を見送りながら、思う。

(半人前、か……。そういえば、彼らの年齢はいくつなのだろうか?)

エルフは長命である。見た目で年齢は計れないとも聞いていた。

リッピの性別といい、またも謎に悩まされるガリウスだった――。