軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10. ほんわか令嬢は嗤う

「フローラ、お前に縁談が来ている」

数日後、珍しく本邸に呼び出されたフローラ達に、伯爵はそう告げた。思いもよらなかったことに、フローラの母は目を見開く。フローラも驚いたような表情を作りつつ、策略が上手く行ったことを確認した。

「フォード家の次男からだ」

「っフォード伯爵家が!?」

「……我が家より格が高いし、条件も申し分ない。ただ、この婚約を受けるにあたってひとつ問題がある」

家名を聞いて大喜びの母を見て、伯爵は悩ましげに葉巻を吹かす。フローラはいまだに驚いた顔を保ったまま。裏ではすべてうまく行っているほどの単純さに大笑いしているが。

「向こうはまだ気づいていないようだが、第三夫人の娘ではこの話はなかったことになるかもしれん」

なるかも、ではなく、なる。

元高級娼婦の妾、第三夫人の娘だなんて、伯爵家であって伯爵家じゃない。嫁ぎ先としても、子爵家の、それも下の方がせいぜいだ。酷ければ庶民に嫁がされることもある。

元妾であることを完全に伏せ、第二夫人に上げたとしてもギリギリだ。

「だから、お前を第二夫人の娘ということにする」

……フローラは思わず舌打ちをしかけた。サッと困惑の顔にすり替えられたからよかったものの、このままでは中指を立てているところだった。

フローラは自分の父がここまで馬鹿だと思っていなかった。

「……お父様、失礼ながら申し上げますが、少々厳しいかもしれません」

苛立つ時ほど、よりほんわかと。声は明るく華やかに、しかし震わせて戸惑いを見せる。目は少し潤ませ、上目遣いで伯爵を見つめる。

「私はお母様とよく似ております。特に、瞳の色は誤魔化せません」

あんなデブスのクソババアの娘とか無理だわ、という意味である。

そもそも、フローラの美貌は、高級娼婦だった母譲りだ。その上、第二夫人とは、髪色、瞳の色、体型、顔立ち、所作全てが異なる。異母姉ともだ。こんな嘘はすぐにバレる。

伯爵は少し納得した。

「しかしそれならどうしろと言うのだ」

「……私にはよくわかりませんが、順番が問題なら、変えてしまえば良いのではないでしょうか?」

フローラは、まるで子供の思いつきのように口元に指を当てる。伯爵は少し悩んだ。

ああ見えて、裕福な商家の娘なのだ。もう商会ごと懐に入れたとはいえ、面倒なことにはしたくない。

「ああ、そうですわ! お姉様のお加減はいかがでしょうか?」

「……怪我は何ともなかったようだが」

そんな伯爵を見て、フローラは尋ねる。心配しているフリをして、異母姉の話題に変えた。

「食べ過ぎでお腹が痛くもなっていらしたので……。侯爵様に恋煩いもしていらっしゃいましたし、犬に追いかけられてたくさん走っていらっしゃいましたから、筋肉が痛んでいるかもしれません。しっかりお医者様に診てもらった方が良いのではないでしょうか?」

話したことは、異母姉の悪行全てである。王女様のパーティーであれだけ派手にやった奴に、婚約者なんて見つからないと暗に伝えた。いくら馬鹿でも流石にまずいことはわかったらしい。

伯爵は夫人の序列を変えることにした。母は歓喜し、フローラは策略の成功に安堵した。

数日後、フローラと伯爵は、フォード家に出向き、婚約の書類にサインをした。ウィリアムは唖然とした。彼の見たフローラはフローラではなかったのだ。……可哀想に。

そして、立場の逆になった親子は別邸に住むことになった。婚約者のできない娘と、庶民上がりの第三夫人なんて、利用価値がない。

「あら、どこかへお引越しでもされるのですか?」

「なっ!!」

たまたま通りかかったように、フローラが尋ねる。別邸へ向かう裏口には、荷物に押しつぶされた第二……いや、第三夫人がいた。

「きっと素敵なおうちなのでしょうね」

直接的な恨みはあまりないが、夫人のせいで母の機嫌が悪くなり、その吐け口がフローラだったことは確かだ。

フローラはニコリと笑って、あとはもう振り返らなかった。豚親子はブヒブヒ鳴いていた。