軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9. 誰も知らない七変化

二人の視線の先には、一人の使用人がいた。

どこか消えてしまいそうな、それでいて何とも言えない慎ましやかな色気のある女性だ。

「……君も、そう思うか」

「! ええ。お初にお目にかかります、私はフローラ・スペンサーと申します」

……かかった。フローラは独り言を拾われてしまったのを恥ずかしそうにする。故意と気づかれてしまっては困るので。

ウィリアムはやはり気付かず、未亡人の使用人から目を離さずに会話を続けた。

そう、ウィリアムは年上の未亡人が好きだった。だから、フローラは彼を選んだ。自分を本気で好きにならない相手を。

どこが美しいのか、立ち振る舞いはどうなのか、なぜここまで魅せられているのか、などなど。本来なら初対面で性癖語りをする人など気持ち悪くて仕方がないが、フローラはとにかく肯定した。人というのは、話を聞いてくれる、そして自分を肯定してくれる人が好きだ。

「私もそう思いますわ」

何より、勝手にヒントを漏らしてくれるなら、これほど楽なことはない。フローラは頷きながら、似た雰囲気を作り上げていった。

「君とは話がよく合うな」

「……本当ですね」

当たり前だ。合わせているのだから。

「なぁ、やはり」

「……すみません、もう私は戻らないと。お姉様のお加減も、そろそろよろしくなったでしょうから」

大人らしく、でもどこか頼りなく。薄幸と死の雰囲気を漂わせる。表情は淡く、立ち姿は凛として。華奢な体と小さい身長を誤魔化すために、背筋を伸ばして動作は嫋やかに、気づかれない程度に背伸びをする。

「今日はお姉様の婚約者探しに来ていたのです」

フローラは知っている。今ウィリアムが、フローラと別れたくないと思っていることを。もっと話したいと思ったところで切り、初めてこちらをしっかり見たところで雰囲気を切り替えた。

ここで最後の一手、婚約者という言葉だ。

彼は今、婚約者になればもっと話せると考え始めたところだ。スペンサーの家柄や、フローラの存在……。

「私はもう、このようなパーティーに出ることはないでしょう。……から、さようならウィリアム様。とても楽しい時間でした」

その備考を、全て壊す。

もう二度とないかもしれないという危機感は、焦りは、正常な思考を崩す。

「ま、待って」

「……はい、なんでしょうか?」

「君、婚約者は?」

「いると……思われますか?」

まるで、もういないのを知っているでしょう、といった空気だ。実際は最初からいないのだが。今日の真なる目的は、婚約者探しなのだが。

「では、僕の婚約者にならないか?」

「……しかし、それではウィリアム様が」

「今日帰ってすぐに、お父様に話をする。少し、待っていて欲しい」

「……はい」

諦めているような、寂しげな笑みを浮かべる。きっと無理でしょうけども、といった具合だ。ウィリアムは余計躍起になった。頭の中がピンク色だ。これはいくら伯爵が言ってもきかないだろう。フローラの予想では数日後には婚約の申し込みが送られてくる。

「……さて」

もうこの会場に用はない。さっさと豚を叩き起こし、去るのみだ。

フローラは未亡人の皮を脱ぎ、また妖精に戻った。あどけない純粋な顔で、医務室のドアを叩く。

「お姉様、お加減はいかがですか? もし良くならないようでしたら、家に帰った方が良いかもしれません」

誰も知らないフローラ七変化。

婚約の書類にサインをした途端に、もっと話したかったはずのフローラが消えることを、ウィリアムはわかっていない。第二夫人親子だって、散々馬鹿にしていた自分達が別邸に住まうことになるとは思ってもいないだろう。

「もうすぐ馬車がきますよ、ふふ」