作品タイトル不明
片栗粉の魔法~とろみ編~
大根の皮を、いつもより厚めに剥いていく。スルスルスル~と白い帯が伸びていく。
(調理実習とかで誰が一番長く剥けるか選手権とかやったよな~。やったのはリンゴだったけど。懐かしい)
この剥いた皮は、あとできんぴらにするので置いておく。
鍋に、すりおろしたショウガとフェングリフのひき肉を入れる。そこにウミクサで取っておいた出汁を少しずつ注ぎ入れる。
(冷たい出汁の中で肉をほぐす……見た感じは泥遊びっぽいかも。でもこれでパラパラになるはず)
肉がしっかりとほぐれたのを確認してから、酒と半月に切った大根を入れた。
「下ごしらえ完成~! 火にかけるぞ!」
火を入れたかまどに鍋を据える。
温度が上がるにつれて、白く濁っていた汁が揺れだしてポコポコ沸き上がってきた。同時に灰色の膜―― 灰汁(あく) が浮いてくる。
(すくってもすくっても出てくるんだよね。いつまで出てくんの? って思うけどこれやらないと味が雑になっちゃうし)
黄色いのは美味しいフェングリフの脂なので、そこは避けなければならないのが非常にめんどくさい。
(ちょっとぐらい灰汁が残ってても愛嬌ってことにしよう)
ある程度取ったところで蓋をして、弱火にかける。
途中蓋を開けて火通りを確認してみると、大根にスッと菜箸が入る。
「よしよし、 醤(ジャン) と砂糖いれよう」
醤(ジャン) を回し入れ砂糖を加える。少し黄みがかった煮汁が、一瞬で濃い茶色に染まっていく。
そこから上がって来る湯気も、丸みを帯びた甘い香りから香ばしくてコクのある香りへと変化した。
全体を軽く混ぜて、また蓋をする。
リーナはかまどの前から少し離れて、窓の外を眺めた。
今日は片栗粉の「つなぎ」と「とろみ」、二つの使い方を試している。さっきの芋もちもうまくいった。このそぼろあんかけもうまくいけば、料理の幅がぐんと広がる。
(でもなぁ、作るのがさ……)
結局ここに行きつく。あったら便利なのだ。
この店の人気メニューの唐揚げ。今でも美味しいけど、片栗粉を使えばもっとカリカリに仕上げられる。
(天津飯も作りたいな……)
ふわふわの卵の上に、とろりと甘酢餡がかかっているやつ。前世で大好きだった。
茶碗蒸しに餡をかけるのも美味しいし、あんかけチャーハンも……。
(だめだ、お腹が空いてきちゃった……)
作りたいものはいくらでもある。問題は片栗粉をどう確保するかだ。
(団長に話してみようかな……)
バルトロメオ団長は、この領地の領主でもある。ジャガイモの活用法の一つとして興味を持ってくれるかもしれない。余らせてダメにしてしまうぐらいなら粉にするのはどうかと。
(片栗粉使ったスイーツとかお土産にする? ミルクプリンとか……)
なんちゃってわらび餅も出来るかもしれない。次にプリンを届けるときに相談してみよう。
「お? そろそろ出来たかな?」
ボワッと上がる湯気と共に、煮物の甘辛い香りが顔を包む。湯気の向こう側には煮汁の色を吸って大根が飴色になっていた。
(ここからが、大事なとこなのよ)
小皿に片栗粉を出し、水で溶く。鍋の中をゆっくりとかき混ぜながら、白い液体を少しずつ垂らしていった。
まぜまぜ……変化はない。
(入れすぎると固まり過ぎちゃうし、いきなり固まり始めちゃうから気をつけてやらないと)
慎重に加えながら混ぜていくと、手ごたえが変わった。
さっきまで「しゃばしゃば」だった煮汁が、木べらにまとわりつき、煮立つ音がポコポコからボコッとした重たい音へ変わっていく。
気がつけば艶やかな餡が、大根とそぼろを包み込むように絡んでいた。
火から下ろし、皿に盛り付ける。湯気が逃げ場を失って、皿の上でゆらゆらと留まっている。
スプーンですくい上げると、とろりとした飴色の煮汁がついてきた。
(大成功なんじゃない? っと、味見しなくちゃ!)
ふー、ふー、と念入りに息を吹きかけてひと口。
「ん、熱っ! ……っふ、はふ」
慌てて口の中で転がす。舌に絡む出汁と 醤(ジャン) の味。噛むと大根からもうま味が溢れてくる。
「……おいひい」
喉を通った後も、お腹がぽかぽかと温かい。最高だ。口の中もとろみのおかげで美味しい時間が長く続いている。
「とろみって最高だわ。片栗粉、作って良かった~」
リーナはスプーンを置き満足げに息をつくと、まな板の隅に残っている皮を見つめた。
(さて、次は残った皮できんぴら作ろーっと)