軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小指の約束

リーナは、ふとジュードの様子に気がついた。

フォークを置いたまま、視線を落としている。さっきまでの明るさが、少しだけ影を落としていた。

ああ、まずい。二人で盛り上がりすぎた。ジュードを置いてけぼりにしてしまった。

「ごめんね、ジュード。料理の話になるとつい夢中になっちゃって」

リーナが言うと、ジュードははっとして顔を上げた。

「いや、別に。大丈夫だよ」

リーナは申し訳なさそうに笑った。ハルトも少しばつが悪そうに、カップの紅茶を一口飲む。

「いや、本当に。クレープ、美味しかったから。ありがとう」

「でも……あ! 今度ジュードの好きな肉料理作ろうか?」

リーナの問いかけに、ジュードの顔がほんの少し明るくなった。

「肉料理? やった!」

リーナの顔がぱっと明るくなった。

「じゃあ、約束ね」

リーナはにっこり笑って右手の小指をすっと差し出した。

その瞬間、ジュードの動きが止まった。琥珀色の瞳が差し出された小指を凝視している。

この仕草――記憶の底から、古い景色が浮かび上がってくる。

夕焼けに染まる庭。まだ幼かった自分と、隣にいたハルト。

『これ、なあに?』

幼い自分が問いかけた。

『僕が昔いた場所の、おまじない。こうして指を絡めて約束すると、絶対に破れないんだ。すごく、すごく大事な約束の仕方』

ハルトはそう言って優しく笑い、そっと小さな指を絡めた。

『昔いた場所』

その言葉の意味を、ジュードはずっと考えていた。そして薄々、感じていた。ハルトは他の誰とも違う。今まで誰も考えつかなかったような発想を、自然に口にする。まるで、それが当たり前にある世界を知っているかのように。ハルトの言う「昔いた場所」とは、この国のどこでもない、もっと遠い場所なのだろうか。

そして今、リーナも同じ仕草をした。もしかして、リーナも? 二人とも同じ場所から?

ジュードの視線が、ゆっくりとリーナからハルトへと移る。ハルトは少しだけ青ざめた顔で、カップを握りしめていた。

リーナも自分の仕草に気づいたのだろう。小指を差し出したまま、固まっている。ジュードは、ゆっくりと息を吐いた。そして、小さく笑う。

「……ハルトの、昔いた場所のおまじない?」

リーナの目がわずかに見開かれた。ハルトは何も言わず、ただ視線を落としている。ジュードは、それ以上何も聞かなかった。

問うべきではない。

二人には、きっと言葉にできない秘密があるのだろう。打ち明けられぬ理由がある。

それでいい。語るべき時が来れば、聞かせてもらえればそれでいい。

「約束、だろ?」

ジュードはそう言って自分の小指を差し出した。リーナがほっとしたように微笑み、二人の小指がそっと絡み合う。

「うん。約束」

リーナの声は少しだけ震えていた。

「そういえば」

リーナが話題を変えるように言った。

「ハルトさんから材料もらって、ボアカツっていうの作ったの」

「ボアカツ?」

「うん。アースボアの肉を叩いて、衣をつけて揚げたの。サクサクで、すごく美味しかったよ」

「へえ。俺も食べてみたかったな」

ジュードが残念そうに言う。リーナは少し考えてから、提案した。

「それを卵でとじて、かつ丼にしようか?」

「かつ丼?」

ジュードが首を傾げる。ハルトも興味深そうに身を乗り出した。

「うん。薄くスライスした玉ねぎとボアカツを甘辛いタレで煮て、溶き卵を回しかけて火を通すの。それを丼に盛った温かいご飯の上に乗せる」

リーナが説明すると、ジュードの目が輝いた。

「その甘辛いタレがたっぷり染みた玉ねぎと、とろとろになった卵が、ご飯に絡むんだろ? それ、絶対美味いやつだ!」

「でしょ? 煮込んだ玉ねぎの甘さも、アクセントになって美味しいの」

「いつ作ってくれる? 今?」

ジュードが前のめりになる。リーナは笑って首を横に振った。

「クレープ食べたばかりだよ?」

「でも、聞いたら食べたくなった!」

「じゃあ、今度ね。ちゃんと作るから」

「約束だぞ」

ジュードがもう一度、小指を差し出す。リーナはくすくすと笑いながら、それに応えた。

「はい、約束」

二人のやり取りを、ハルトはにやにやしながら見ていた。さっきまでの気まずい空気は、もうどこにもない。

ジュードの明るい声が、店内に響く。リーナが楽しそうに笑っている。

(ありがとう、ジュード。お前は本当に優しいな)

ハルトは紅茶を一口飲む。カップを握る指先に、わずかなぬくもりを感じながら、小さく息をついた。