軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106話 ちょっと後にしてくれます!?

ヘロンの合図を受けて、中庭から川岸に向けて、筒に火を放り込むヘロンの弟子。

ドォォォォォオオオン!!!

それと同時に筒から轟音が響き、火の玉が川に向かって飛んでいく。

「きゃっ!?」

「な、なに!?爆発!?」

唐突に発生した轟音に、ルクレティアお嬢様とルシアが俺に抱き着いてくる。

そんな俺たちと同様に、唐突な轟音に寝椅子から上体を起こしたドミさんはもう(宴の食事以外で)お腹いっぱいといった表情でヘロンに問いかけた。

「これから何をやろうというのだ。もう日も沈んでいて何も見えんぞ?」

「日が沈んでいるからこそ 映(ば) えるものもあるのですよ殿下」

「日が沈んでからこそだと?」

「むしろワシとしてはこれこそがこの宴のメインの見世物と言っても過言ではありませんぞ!」

「さあさ、殿下、そして友ルシウスよ。中庭の方まで」

「なんだというのだ……」

自信満々のヘロン、そしてプッさん促される形でドミさんと俺、そしてお嬢様とルシアは寝椅子から起き上がり、食堂を出る。

「ねぇルシウス……あの老学者、コスムス殿と同じ匂いがしてすっごく嫌なんだけど」

「ちょーっと、今後 おうち(デキムス邸) に招くのはやめてもらえると嬉しいなーって私も思うかな」

「ああいう毛色の人たちを家に上げるのを防げるんだったら中庭が講堂になってないんだよなぁ……」

俺だってできないことは多いのだ。

二人のクレームに、不本意なゼロ回答を返しながら中庭から目の前に広がる光景を眺める。

川の向かいに広がる製鉄プラントと工房群。

当然ながら工房群は夜間は稼働していないので明かりが落ちており、唯一稼働している高炉と転炉の一帯から漏れる微かな明かりと月明りだけが、川向いの街並みの輪郭をかろうじて映し出している。

その上には、もう見慣れた光景となった煌びやかに輝く星々の海が広がっていた。

月明りがあるとはいえ、現代とは違い地上のあかりがほとんどない古代。

目視でも見える星の数は段違いだ。

「さあ殿下にルシウス殿、それに可憐なご令嬢よご覧あれ!」

そんな漆黒に浮かぶ星座を背景に、俺とドミさんに相対するような形で爛々と目を輝かせながら叫ぶヘロン。

「これがワシがこの街に訪れて生み出した発明の中での最高傑作! ローマの祭りに欠かせなくなるであろう夜に咲かせる花々じゃ!」

そう言ってヘロンが両手を広げるのに合わせるように、川岸から複数の火の玉が空へと打ちあがる。

シュルルルルルルルッ!!!!

その火の玉から数秒程度遅れて飛翔音が耳に届く。

先ほどの信号弾もどきのようなそれは、そのまま漆黒の夜の空に飲まれて消えていく。

パッ

そして、そこから一拍おいて夜空にオレンジ色と青色の大輪が空に咲き誇り、空から地上を明るく照らす。

その明かりの直後に、胸に直接響くような衝撃と、ドォォン!! という破裂音。

「え!? 何あれ!?」

「なっ!?」

「わぁ……!!」

ヘロンの発明、その中で一番と彼が言ったものは、花火だった。

ドシュゥゥゥッ!! ピュルルルゥゥ……

ドォォォォン!

パラララ……

ババババババンッ!!

ドォン! ドォン!

パラパラパラ……

三人の驚きに比例するかのように打ちあがる花火の勢いは増し、前世の花火大会のクライマックスのような様相で次々に打ちあがっては夜空に大輪と煙を咲かせては消えていく。

「なんと、なんと美しい……ウェスタとフローラが夜空で宴を開いたのならば、このような景色もあり得るだろうが……これは、現実か?」

初めて見るあまりに美しい光景にふらふらと少しでも花火に近づこうとドミさんが中庭の先に歩み出る。

「すげぇ……黒色火薬をみて初見で花火を思いつくとか。しかも単色じゃない」

俺は俺で、ヘロンという野生 (都市型)の天才がものの数か月で花火までたどり着いたことに驚愕していた。

「すごいわ……夜空こんな美しくて明るい花を咲かせるなんて」

「すごいすごーい! ねっ! 綺麗だねルシウス君!!」

そして俺の両脇で俺の手をつかむルクレティアお嬢様とルシアも初めて見る花火の美しさに魅了されているようだった。

「――たーまやー」

ん!?

俺の腕に身体を絡ませ始めたルシアが何かすごく違和感のある単語を言った気がする。

「なあルシア――」

そう思い、ルシアに聞き返そうとする。

「友ルシウスよ! どうだヘロンが生み出した炎が作る夜空に咲く大輪の花は! これは流石の友ルシウスでも驚いたのではないか?」

しかしその言葉は後ろから俺をのぞき込んできたプッさんによって遮られた。

「あー……そうですね。あれは黒色火薬で飛ばしているんですか? 青色は銅とかを混ぜている?」

「さすがは友ルシウス! 初見でそこに気づくか! 火薬で色々と実験をしたときにそのままだとオレンジ色に、銅などの粉末を混ぜると青色になるのを見て、空に花を描くというのを思いついたそうだ。さすがに蒸気機関とかの研究に追われていた中での片手間の研究だからか、あまり検証は進んでおらんようだがな」

すげえ、片手間で花火を生み出した挙句、炎色反応まで自力で特定してオレンジ色以外の花火でお披露目するとか。

……いやそれもすごいんだけど、今はちょっとプッさんにかまってる暇はないんだよ!

なにか聞き流してはいけないことを聞いた気がするんだけど。

ルシアさっき『たまや』って言ってなかった??

何で日本の花火の掛け声をルシアが言うの?? なんか変な電波受信した?

「あぁプリニウス殿! ずるいですぞ! 殿下が花火に気を取られている間にこの花火でもっとやりたいことについてルシウス殿の意見を聞きたいんじゃ!!」

「おぉそうでしたな! さあ友ルシウスよ! 本当は一週間みっちり聞きたかったが仕方がない。花火が続く間に聞きてしまおう!」

「ちょっと後にしてくれます!?」

鬼の居ぬ間にのノリで俺に群がるガンギマリ二人に叫ぶ声は、花火の轟音で打ち消されていった。