作品タイトル不明
107話 温泉バカンスと貞操危機①
野生のガンギマリがPOPしたことによりスチームパンク・ガンギマリ・マッドシティになることが確定した北ポンペイ。
そんな胃薬需要と二日酔い治療薬需要が急増しそうな北ポンペイから目をそらしつつ、元プッさんの俺LLMトークン使用枠の半分を役得で使用したドミさんへの応答も終え、本来のスケジュールよりも前押しで北ポンペイを出立し、そのまま次の目的地へ向かったのが数日前の事。
そして現在、北ポンペイでのガンギマリによる狂乱が錯覚だったかのような気すらする 風光明媚(ふうこうめいび) な光景を前に、俺はリラックスタイムとしけこんでいた。
今俺が 浸(つ) かっているのはアルベニャ川の上流、エトルリアの丘陵地帯に湧き出すサトゥルニア温泉。
俺の視察についてきたルクレティアお嬢様とルシアの本来の目的地と言っても良い。
わずかに硫黄臭のするぬめりのあるその泉質は、永い時をかけて石灰棚を作り、白く巨大な階段に湯船を掘り、青白い宝石を流し込んだかのような幻想的な光景を形作っていた。
立地としては数キロ先にサトゥルニアの集落はあるが、それ以外の人の手が入った構造物は温泉を囲む木々の向こうにある数件の宿と別荘、そして温泉へのか細い道だけどいう、ちょっとした秘湯といった趣。
そしてそんな数件ある宿は、俺たち一行の歓待のために宿の人たちがデキムスさんの伝手で借りた温泉近くの別荘に集まっている関係で臨時休業となっており、今この温泉にいるのは俺とルクレティアお嬢様とルシアの三人だけの言葉通り独占状態。
そんな大自然を独占した青白く濁った湯に二人を差し置いて一足先につかりながら、俺はここ数日の出来事について思索に耽っていた。
まずはガンギマリによって勝手に進みだした北ポンペイの産業革命。
まあこれは考えてみれば当たり前の話で、ゲームじゃないんだから俺以外が技術革新をしないなんてことはないってだけではある。
元々空気、ひいては蒸気が強い力を持っているということは既にヘロンなどの学者は知っており、それを活用した機械も生み出されていたわけだ。
そら鋼鉄という蒸気の力を十全に引き出しても壊れない丈夫な素材が出来たら活用するわな。
輸送の問題という需要があり、ヘロンという蒸気機関の概念を理解している知識があり、大量の鋼鉄という蒸気機関を実現できる素材もある。
ゲームみたいにプレイヤー以外が自動で動かないなんて縛りが現実に存在しない以上、勝手に蒸気機関がPOPするのはある意味必然ともいえる。
これから北ポンペイはガンギマリによって勝手に技術ツリーが進んで行くことになるのだろう。
そしてそれは何も鋼鉄にかかわる分野にとどまらない。おそらく有機化学の分野にもそれは波及するだろう。
既に近代の基礎化学で必要なフェノール、エチレン、トルエン、ベンゼンといった芳香族物質がコークス製造の副産物として製造できているのだ。
燃料気化爆弾もどきや塩素ガスなどの兵器利用にはすでに着手してるわけだし、有機化学方面への興味も遠くないうちに爆発しだすだろう。
動機という面ではすでにアゾ染料で工廠周辺に 染色加工業(金の生る気) が成り立ちつつあるし、基礎知識は俺がディオスコリデス様達用に書き溜めた基礎化学の知識が多分プッさん経由ですでに漏れてる。
流石に史実でも数十年レベルで発展に時間を要した有機化学が数年でどうこうとは思えないけど、化学構造という概念までは多分知ってしまっている気がするから油断はできない。
というか考えてて思ったけど、リドカイン作るための出発物質のトルエンとか普通に石炭乾留経由で作れるしダキアの石油、必須じゃ無くね?
……。
ま、まあダキア遠征そのものは黄金の指輪獲得RTAに必須だし、石油はいくらあっても困らないからいいか。
それにガンギマリが勝手に技術ツリー進めるのも、特に俺にデメリットはないし、まあ、いいか。
よく考えたら政治がお嬢様の力でオートに進むようになったのと同じで、一部の技術開発もオートで進むようになったと思えば、ある意味で俺のスローライフが近づいたともいえる。
つまり北ポンペイは何でもかんでも俺がやってたことがオートで進むようになったという、うまあじイベントということだな。
とりあえずクロロキンかピリメタミンの合成手順でも後で投げて興味を引いておくか、デキムスさん経由で。
覚えてって言ったら覚えそうだもんね、デキムスさん。
そして時折致命的な公害が発生しないように軌道修正しておけば良いだろう。
なお細かい酷い公害は避けられないので無視する。
日刊レベルでの爆発もまあ止めるのは無理っぽいので無視する。
うん……ヨシ。
北ポンペイの約束された惨状に目を背けつつ、自分自身の中で整理がついたので北ポンペイの件はとりあえず心の中の『そっとしておく』棚に格納する。
「よっ……あー……いい感じに寒い」
そして体温より少しだけ高い湯から上半身だけ起こし、石灰棚に腰かけて体を冷やしながら次の問題を考える。
こちらは現状グッドイベントなのかバッドイベントなのかの判断がつかない案件。
そう、あの夜、花火を前にしたときにルシアの口から出てきた『たまや』という言葉。
久々の日本語の単語を聞いてあっけにとられたのと、直後のガンギマリのマシンガントークで流されそうになったものの、何とか振り切って花火が終わるくらいのタイミングでルシアに聞きなおしたところ、ルシアはそもそも自分が『たまや』と言った事そのものを覚えていないようだった。
つい数分前に言った言葉を覚えてないってあるか?
ちょっとしつこく追及をしたものの、どうやら嘘を言っているわけでもなさそうだった。
正確には『何か言った気もするけど何を言ったかは覚えてない』ということ。
俺を挟んでルシアの反対側に居たルクレティアお嬢様にも聞いてみたが、お嬢様的には春の女神マイヤに聞き取れたらしく「例えとしてはちょっと稚拙じゃない? やっぱりルシアはまだまだね」といった感じだった。
いや、確かに『たまや』って聞こえたと思うんだけどなぁ。
その後もルシアが転生者の可能性もあると思って、ルシアが引っかかりそうな料理の話題などでトマト(この時代にはない)の話題などを出したりしてカマをかけてみたが引っかからないし、本当に何なんだろう。
「まあそもそもルシアが転生者だったとして何が変わるって話でもないんだけど」
俺のように科学系配信者とかならともかく、そうでない一般人の場合は正直野生のガンギマリより役に立つ保証はない。
政治枠はお嬢様がいるし、商業面はポンペイオールスターズのおっさんたちに任せればよい。
そして直近のゴールである俺の解放とお嬢様との婚姻に必要なダキア遠征だって、ほぼほぼこれからはオートで進んで行くし、攻撃力に差がありすぎて負けようがない。
だから別にルシアが転生者だろうが変な電波受信しただけだろうが変わらないと言えば変わらないんだけど……。
なんかもにょる。
これはどっちかわからない事への気持ち悪さだろうか? それとも……。
「ルーシーウースー君!」
「うおっと!?」
そんな答えのない思索の海に沈みかけていると、後ろからもやもやの原因であるルシアの声と共に、背中に柔らかい感覚。
「ルシウスっ!!」
ふにっ。
それに振り向こうとしたところで視線にお嬢様の顔をとらえたかと思うと、顔面にのしかかる布越しの柔らかい感覚とバランスを崩してしまう。
「!?」
「「キャー」」
バシャーン!
そして二人分の衝撃を受けてそのまま湯の中に倒れこんでしまう俺。
「ゲホットゴホッ……なんぞ!?」
湯がちょっと鼻に入ってせき込みながら立ち上がる。
そこには、
「おぉぅ……」
「どう!? ルシウス君!? ぐっとくる!?」
「聞くまでもないでしょルシア。こーんな可憐な美少女二人の柔肌を見て惚けない男なんていないわ。ねっ、ルシウス?」
ビキニ状の、運動時にも使われる腰布と胸当てであるスブリガークルムとストローピウムというスタイルで、身体のラインを露にしたルクレティアお嬢様とルシアが立っていた。