作品タイトル不明
105話 外れた頭のネジとあるか怪しい良心
ドミさんの裁定が下ったのち、プッさんとヘロンの顔がモノすっごいへこんだ表情のままでいるのを無視しつつ話は兵站関係やヘロンが発明したほかの品々に移っていく。
そして、そこは流石歴戦の高級官僚であるところのプッさんらしく、へこんだ表情でもきちんとした説明を行っていく。
プッさんの話で判明したのは、蒸気船による輸送がダキア遠征でも必須だったという話。
ローマって結構遠くまで普通に遠征してるから兵站はしっかりしてるんだし、別に今回もその延長でいいんじゃないの? と思っていたらどうやら話はそう簡単ではないらしい。
プッさんの話によると、そもそもローマ軍というのは兵站物資の全てを自軍で運んでいるわけではなく、無視できない割合を現地市場での調達で賄っており、それ故調達用に莫大な貨幣を輸送していってそれで買い付けを行うことによって柔軟に兵站を維持するという性格なのだそうだ。
つまり金こそパワー的な形での自己完結性で強みを出す軍隊ということらしい。
それは武器についても同じで、修理などは進軍地域の鍛冶職人などへの発注で行っている。
侵攻先に道作って武器食糧を全部自軍で輸送する形の現代式パワープレイで兵站維持していたと思っていたので意外だった。
で、食料等や武具の場合はそんな感じで不足分を現地の民間市場で調達できるが、今回の遠征では話が変わってくる。
「銃火器にしろ、弾薬にしろ今現状で作れるのはこの街だけですからな」
「いつもは使える複数路による兵站という手段が使えない、ということか」
「そうです。そこがいつもと違うところで、今回の遠征の厄介なところなのです、殿下」
武器弾薬工場という始発点と中継基地という終点が常に固定なのだ。
これは、輸送路を分割する等の負荷分散はできるが、いつもは使える『足りないから 近く(現地市場) で補充する』という主要な補充方法が取れないことを意味する。
つまり代替手段がないので中継基地までの輸送を太くしなければいけないということだ。
そこで外輪蒸気船による河川輸送の出番ということらしい。
黒海経由で ダヌビウス(ドナウ) 川に複数の中規模外輪蒸気船をローテさせ河川に沿って中継基地を再編する。
そこから山間部へは既存の兵站組織を活用する。
つまり中短距離のロジスティクスは既存のローマ軍の制度を使い、長距離を蒸気船輸送によって解決するというのがプッさんによる案だった。
兵站の話題がプッさんとドミさんの間である程度まとまると、バトンはヘロンへと移っていく。
結果、プッさんが話している間に気を取り直したっぽいヘロンによって始まるマシンガントーク。
話の内容から見えてくるのは、まあ酷いやりたい放題な所業。
プッさんによって招致されたヘロンを始めとするギリシア人ガンギマリ学者どもは、工廠で作られる強靭で粘り強い鋼鉄と、コークス副産物として産出されるさまざまな化学物質、そして一部の揮発性物質を保存するために俺が作ったボンベを見て目を輝かせたと言う。
そしてブレーキと常識と頭のネジと良心をアレクサンドリアに忘れてきた一行は、はっちゃけた。
それはもうはっちゃけた。
金属薬莢への転換によって不要になった大量の黒色火薬で大量の謎物質を作り始めるわ、可燃性のガスでガス爆発起こして工廠の一部を吹き飛ばすわ、鋼鉄を使ってでかい銃火器(大砲)を作るわ、大砲を作ったら作ったで『これ今回の遠征に持ってくの重くね?』とか言い出した挙句に、『じゃあ大砲側を敵にぶっぱなす形なら軽いもの作れるんじゃね?』という斜め上の発想をした結果、大砲に爆弾を乗せて筒側の火薬は推進材として使うという案を思いつくわ……。
大砲を作るところまではまあわかる。銃をデカくするだけだからね。
何故それを反転させてロケットを作り出してるのこのガンギマリ共。
そして挙句の果てには『あれ? このロケット、大砲より威力ないなぁ……せや! 前に実験に失敗してガス爆発起きた時酷い事になったし、弾の代わりにガス爆発する装置つければロケットでも威力出るんじゃね?』と思いついたガンギマリによって、着弾と同時にダイナマイトで沸点の低い物質と低圧でも液化するガスを混合したボンベを意図的に爆散させる武器が完成。
昼、倉庫で転がっていた破裂した配管のようなものはその成れの果てということらしい。
なんで燃料気化爆弾っぽいものまで作ってんのこいつら……。
「で、それはダキア遠征までに使えるものになるのか?」
とりあえず二人への制裁として話の輪に入らないようにしている俺の代わりにドミさんがヘロンに聞く。
「ちぃーと取り扱いが難しい武器でしてなぁ……敵の城などに着弾させれば、城の中にいる敵ごと粉みじんにできると思うのじゃが、それ故自陣で爆発すると 大隊(コホルス) ごと消し飛ぶ恐れがありましてな。この前の実験でも発射直後に暴発して倉庫が一部吹き飛びましたからの」
「……ヘロンよ、お前は戦場で死の神オルクスの口の中でも再現しようとしているのか?」
「ご安心ください殿下。さすがにダキア遠征までに安全性を確保するのは難しそうということで一時開発を凍結しております。代わりにこの 噴進弾(ロケット) の弾頭には、城壁内の兵士を殺傷する兵器として塩素ガスというものを装填するものの計画を進めているところですぞ」
ドミさんの疑念に対し工廠責任者としてプッさんが補足する。
「大丈夫か? それも自軍への被害が出るものではないか?」
「信管式の ガス爆発爆弾(燃料気化爆弾) と違って、着弾の衝撃でようやく破裂する仕様での実装が可能ですから、まあ弾薬の輸送と同程度には安全でしょうし、仮に事故が起こっても黄色い煙が見えますのでそこから逃げればある程度安全かと」
「そしてこの塩素ガス、どうやら液体と反応して毒性を発する性質らしくてですな、これを吸った者は痛みに悶え苦しみながら最終的に肺に水が溜まり、陸の上で溺死するというモノとなりますぞ。いやぁ、ワシならこんな死に方はごめんですな」
「お前たちは戦場をどういうモノにしようとしているのだ……復讐と狂気の女神フリアエでももう少し慈悲のある死に方を選ばせてくれるぞ……。私はローマの栄光を確かにするためにこの遠征を行うのであって、一部の邪教の者どもが言うような『この世の終わり』とやら顕現させたいわけではないぞ?」
銃の影響で爆発好きに目覚めかけているドミさんもさすがにヘロンの生み出した終末兵器にはドン引きしていた。
ヘロンは作れるから作ったんだろうけど、そう言う事故の動画を前世で見慣れてるならともかく、初見だとアレ、人……っていうか生物がしていい死に方には見えないものだよ?
動物でやったのか囚人でやったのか分からないけど多分毒ガスの実験やってるよねこれ。
少しは良心とかそう言うの無いの?
……ないんだろうなあ、古代ローマ、結構死が身近だものなぁ。
そんな俺の心の中のツッコミをよそに、ドミさんはヘロンに念押しの確認をする。
「で? お前たちが作ったものはそれで全部か? ほかに隠してるものはないな?」
「いえ! 宴の最後のためにこのヘロン、とっておきをご用意いたしましたぞ!!」
「あるのか……」
うんざりした顔のドミさんに対し満面の笑みでまだ隠し玉があるというヘロン。
「さあさあルシウス殿、貴殿はこれを、ご存じかな!?」
俺に対してイタズラ気な視線を向けながら、食堂の外に待機していた自身の弟子らしき人に対してなにかの合図をするヘロン。
おい、これから何をやらかすつもりだ。