軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100話 接待過労ってきついのに同情されないよね

さて、製鉄プラントの建設が終わったら次は完成品である銃火器の製造と、それに付随する弾薬、そしてダイナマイトの製造だね!

銃はドミさん、ティトゥス殿下、ウェスパシアヌス帝の面談時に提示した当初案では職人を酷使して(まあ今も酷使してるけど)鍛造を頑張ってもらい、ローマにある既存の鉄で前装銃を作る気だった。

何故かというと、前装銃であれば底部は構造上かなり頑丈なので現状の製鉄技術でもなんとかなると見込んでいたのだ。

しかしそれはトリガーハッピーになったドミさんが試作品を酷使した結果難しいという事実が判明。

まあ実際は寿命が予想以上に早かったのは、途中からドミさんが威力欲しさに火薬を増量してたからなんだけど。

ドミさん曰く『実際の戦場でもやるやつはいっぱいいるから何とかできないか?』とのこと。

……確かにあり得るよなぁこの時代だと。

熟練ほど基本人の言うこと聞かねえんだもん。

火薬工房みたいに週一で行程ミスをわざとデモンストレーションして爆発したらどうなるかを見せるとかも難しいからなあ……。

そして、そのフィードバックを受けた職人たちも『鉄に要求する耐久性の水準が高すぎる、そんなものは作れるわけがない』と言い出していた。

確かにこの時代の製鉄技術では軍に配備できる銃の製造は難しい。

ローマ軍への銃の配備は頓挫したかに思えた。

だが鋼鉄を量産できるようになった今は違う(ギュッ)。

良質な鋼鉄が入手できるようになった現在。

前装銃の耐久力の問題は 易々(やすやす) と解決ができる。

それどころかわざわざ腐食性の高い黒色火薬を使ったり、二重装填のリスクがある前装銃を使ったり、装填に時間のかかる紙薬莢を使う必要はない!

というわけで前装填銃はポイーで、金属薬莢を実装したリボルバー拳銃とボルトアクション式ライフルとダイナマイトを標準装備にしたいとぉー思います!

まずはリボルバー拳銃とボルトアクション式ライフルを作るのに必要なものは?

そうだね! 旋盤とプレス機だね!

というわけで、製鋼時の炭素量を調節すれば炭素工具鋼も作れるので水力で動く刃物台付きの旋盤を作った。

流石にポンペイの職人では作るのが厳しかったので養蜂業用の遠心分離機を量産して色々技術蓄積が出来ているローマの職人を恩と金に物を言わせて拉致動員してだが、何とか物になったのではないだろうか。

なおこの旋盤を作る時点でも職人を酷使無双したので、例によってフェリクスのおっちゃんを始めとする何人かの都市参事会員が旋盤で加工される最初の製品になりかけたが些細なことだ。

そんなわけで炭素工具鋼による刃を持つ工作機械も入手。

プレス機についても同様にフレームは低炭素鋼、スライドは炭素工具鋼と使い分けて活用することにより、高耐久力の水力稼働のプレス機を実装。

これで真鍮製薬莢の量産も可能になったわけだ。

そうしたら最後に中に詰める無煙火薬と、もう一つの目玉であるダイナマイトの製造になるわけだが、これもまた前提技術が必要になる。

何かというと、ガラス。

今回製造する史実ではB火薬と呼ばれる無煙火薬の原料となるニトロセルロースやエーテルの製造にも、雷管の材料である雷酸水銀の製造にも、ダイナマイトの原料であるニトログリセリンの製造にも、熱膨張に強いガラス、つまりホウケイ酸ガラスの製造が不可欠な訳だ。

で、ホウケイ酸ガラスの製造には高耐熱のるつぼが必要。

珪石レンガにカオリナイトと似た成分であるギリシャ近辺の白い粘土でるつぼは作れるのだが、ガラスの成分と一部同じなので溶ける。つまり使い捨て。

はい、レンガ職人さんたちの酷使無双です。で、以下略。

こうしてホウケイ酸ガラス容器の量産が出来て初めて火薬や爆薬の量産ができるようになるわけですね。

工程をまとめるとこんな感じ。

~銃火器製造まで~

①焼成前珪石レンガ+石炭+レンガ職人酷使=暴動+珪石レンガ→コークス炉→コークス

②焼成前ドロマイトレンガ+コークス+レンガ職人酷使=暴動+ドロマイトレンガ

③ドロマイトレンガ+大工酷使=暴動+高炉&転炉→鋼鉄

④鋼鉄+木工職人&鍛冶職人酷使=暴動+旋盤

⑤旋盤+鋼鉄+鍛冶職人(酷使しない)=後装式リボルバー&ボルトアクション式ライフル

~弾薬&爆薬製造~

⑥珪石レンガ+カオリナイト+レンガ職人酷使=暴動+ホウケイ酸ガラス

⑦ホウケイ酸ガラス+各種原料+火薬職人(酷使しない)=雷酸水銀&無煙火薬&ダイナマイト

⑧プレス機+真鍮+雷酸水銀+無煙火薬+金細工職人(酷使しない)=弾薬

ごらんのとおり暴動多発。

この暴動に対応するために旧ポンペイ上流階級とフェリクスのおっちゃんを犠牲に捧げる必要があったわけですね。

……ヘイトコントロール先がなかったら詰んでたわこれ。

危ない危ない。

そんな感じで主にレンガ職人さんを中心とした職人の酷使無双と、それのヘイト先としての旧ポンペイ上流階級とフェリクスのおっちゃんの犠牲の上に武器弾薬製造を開始した北ポンペイ。

本日の俺は稼働後の製造進捗確認のため半月ぶりにその北ポンペイを訪れていた。

目の前にはアルベニャ川を挟んだ対岸に煙を吐き出す高炉や工房群。

視線を遠くに向けると爆薬の材料を製造する工房が点在している。

ちなみに今回はルクレティアお嬢様とルシアも(主に近隣のサトゥルニア温泉目当てに)視察に同行している。

そのため、先ほど脳内リスナーに行ったのと同じような解説を行っているところだった。

「――で、3か月のスクラップアンドビルドの末に稼働が開始したのがあちらの製鉄 工房(プラント) 群になりまして」

「ふーん」「へー」

俺の説明に対し、俺の視察に同行しているルクレティアお嬢様とルシアは全く興味のなさそうな返事、

「で、その結果できたフェリクスのおっちゃんが、あそこで吐しゃ物まみれの肉塊」

「あっそ」「へー」

そして道端でちょっとお高めそうな 食堂(タベルナ) の前でぼろ雑巾のようになっているフェリクスのおっちゃんを指さすと、一瞥すらしない二人。

「ねえそれよりルシウス君! あっちのお店になんかすごい珍しい形の宝飾品がいっぱい並んでるの何!?」

「え!? どこ!?」

そして、ルシアが発見した宝飾店に興味が移る二人。

「あの、二人とも……もうちょっとこう『なんで街の要人のフェリクスがぼろ雑巾になってるの!?』とかそう言う興味とか……」

おそらく職人の親方衆への接待を終えたのであろう、連日の宴会オール明けでグロッキーになってるおっちゃんにもうちょっとこう、ねぎらいとか。

「まだ寝れてるってことでしょ? 余裕あるじゃない、もっとこき使っていいわよ」

鬼かな?

「ルシウス君を刺そうとしたんでしょ? じゃあ残念でもなく当然な報いかなって」

まあ、そうなんだけど、こう……あまりにも不憫というか。

ほら、未遂だったわけだし、ね?

「大体あの店、 食堂(タベルナ) じゃなくて 給仕付き飲食店(テルモポリウム) でしょ? それも私たちくらいの女の子の給仕付きの。ポンペイで見た名前だもん」

ルシアの指さす先には、店先にでかでかと書かれたスミリナ、エーグル、マリアなどの女性の名前。

現代人に分かりやすく言うと、その……キャバクラのパネルとかそう言う感じ。

ちなみに古代ローマに給仕だけなどというぬるい風俗は少ない。

つまりはそういうことでして。

まあ、接待な訳で、そういうお店を選定することもあるわけで……。

激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム状態の親方衆や職人連中を食欲だけでなく性欲でなだめるってのもまあ、ありだとは思う。

そもそもあそこで轟沈してるってことは 楽(・) し(・) む(・) 余裕はなかったってことだろうし。

だがそういう店の前でつぶれてる状態を見て女性が同情心が湧くかというと、うん、まあ、うん。

なんかいい大義名分はないかともう一度フェリクスのおっちゃんの方を見ると、壁に名前が書かれた給仕の少女と思われる十代半ばくらいの複数の美少女に介抱されていた。

……やばい、なんもいえねぇ。

「それよりルシウス君! あのお店! 琥珀みたいだけど、ここって琥珀が名産なの!?」

黙り込む俺に対し、ルシアは話は終わったと言うかのように、本来の次の興味の向け先である宝飾品が軒先に並べられた店の方を指さす。

「あ、あれはコールタールから生成されるフェノールという素材から作った合成樹脂でジュエリーを作っているお店がある一角で――」

「「見たい!!!」」

「……ちょっとこの後に俺、昼くらいまで視察なんで、その間お嬢様とルシアはお店巡りでもします?」

あの店に限らず、ちょうどフェリクスのおっちゃんが行き倒れている店を境に、この先はフェノール樹脂を使った宝飾品やネイルチップ、他にもアニリン由来の合成染料で着色された衣類など、女性向けの店が並んでいる。

品質も超絶有能おばさんことフォルトゥナータさんが仕切っている一帯なので折り紙付きだ。

俺の言葉に、二人の目がキランと光った。

二人の頭からは完全におっちゃんのことは消えているようだった。