軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101話 全然足りねえじゃん!!

北ポンペイの科学の産物である煌びやかな色とりどりの宝飾品や衣類に目を輝かせるお嬢様&ルシアと別れて、ドミさんと合流してから30分後。

ここ、帝立 工廠(こうしょう) の管理棟 執務室(タブリウム) では、部屋にドミさんの声が響いていた。

「ライフル、『 着(ちゃく) (意味:月間製造数着地見込)』、いくつ? 今」

「いや……『 着(ちゃく) 』、830でございます」

「『 予(ヨ) (意味:月間予定製造数)』は?」

「『 予(ヨ) 』は、えっと……2900でございます」

「まったくダメではないか」

「いや、申し訳ございません……」

青筋を立てながら問い詰めるドミさんに対し、大テーブルを挟んだ反対側で縮こまりながら回答をしているのは、ライフル生産ラインの責任者であるニギディウス・ワックラ。

現在、ドミさんによるパワハラ視察の真っ最中だ。

30分前、俺は美少女二人によるキャピキャピした場に居たのに、今は 美丈夫(イケメン) によるパワハラ視察の場にいる。

落差がひどくて風邪ひきそう。

「全く」

「いや、申し訳ございません」

「なー?」

「いや、あの本当、申し訳ございません」

「何やってんだぁ、お前ェ?」

「いや、間に合わせます」

「なぁ?」

「いや申し訳ありません」

「よぉ?」

「いや殿下、申し訳ございません、間に合わせます」

「全然足りねえじゃん!?」

「いや申し訳ありません!」

「全然!!足りねえじゃん!?」

「いや申し訳ありま「全然足りねえじゃん!?!?」」

千数百年後の高利貸しの営業所で繰り広げられるような妙に小気味の良いペースで、ワックラを激詰めし続けるドミさん。

そんなドミさんの激詰めを受けて、ワックラは滝のような脂汗をテーブルに滴り落としながら同じ言葉を繰り返すだけの壊れた蓄音機のような状態になっている。

ちなみにワックラの前にリボルバーの製造数着地見込(未達)報告をしていた別の責任者は、同じようなノリで詰められた結果、過呼吸を起こして倒れてしまい、床に転がっている。(一応脈と呼吸に問題はなさそうなので足だけ高くして放置中)

「この銃の量産はダキア遠征成功の肝なのだぞ、わかっているのか!?」

「そ、それはもちろん……! で、ですがその……」

「ですが、なんだ? ……まさか職人連中が、ルシウスが組み立て工程を手配したことに不満があるとでもいうのではあるまいな?」

「い、いえ! 滅相もございません! この冬、我が 被保護者(クリエンテス) の職人たちが飢えなかったのはサギッタ家の皆様の支援あってこそ! そんなルシウス殿の手配に不満なんて、そんなそんなッ!!」

床に沈したリボルバー製造ライン責任者とは異なり、ドミさんのパワハラ下問にギリギリ持ちこたえているワックラだが、先ほどから震えがひどくなっており、若干ふらついてもきている。

「殿下、ここは私が、工廠責任者の皆様に1つづつズレの要因となりうる部分の確認をする形のほうが良いかと思いますが、いかがでしょうか?」

このままドミさんに圧をかけ続けられるとリボルバー担当者の二の舞になって、単にドミさんが多少留飲を下ろすという何の生産性もない結果にしかならないと思った俺はワックラに助け舟を出す。

「む……? まあ、ルシウスがそう言うのであればよかろう。奴隷だからと言ってルシウスに舐めた返答をする者はここには居ないだろうしな」

そう言って、一旦パワハラ詰問を停止して、目による圧だけに切り替えるドミさん。

蛇に睨まれた蛙状態なのは変わらないため、カタカタと震え続ける各ラインの責任者たちに、俺は順番に確認をはじめた。

まず、このライフルの製造数着地見込830丁というのは、実際問題『量産』としてはおかしい数字なのだ。

ライフルにしてもリボルバーにしても、化粧品製造や養蜂用の遠心分離機の製造で得たノウハウを元に、部品標準化と作業の細分化と分業、そしてマニュアル化までは落とし込んでいる。

根本的に製造体制に問題がある場合はそもそも数百丁も作れないし、製造体制に問題がない場合はこれの倍はいっていないとおかしい。

じゃあ職人の士気の問題かというと、それも違うと予想している。

ワックラが自分で言っていた通り、被災直後から新都市への移住までの支援についての恩は多分まだ続いていると思う。

輿での移動中、特に職人と思われる人からの歓迎っぷりはすごかったし。

そう考えると、原因は製造の前工程、つまり材料不足か、製造に使う旋盤で何か問題があり歩留まり(良品率のこと)が悪いか、もしくは単に予実管理が未熟で月中に正しい着地が出せていないかのような気がする。

ただ、最後のは精度が低いなら、2月中旬の今なら、ワンチャン実績を聞かれなければラッキーの精神で間に合いそうな着地を出してくるはず。

なのでおそらく問題なさそうな予実見込ずれのほうから消していくことにする。

「とりあえず、実績の方は何丁です?」

「えっと……昨日時点で450ちょうど、です」

月半(つきなか) ばでその数なら着地計算は正しそうな気がする。

「じゃあ、次ちょっと前工程から確認したいんですけど……鋼鉄製造高は予実どうなってますか?」

「あぁ、それは製鉄部門を所管してるこのウェディウス・シリクスから――総製鋼高は予定量33万4千リブラ(約109トン)に対して着地見込は34万リブラ(約111トン)となってい、ます」

製鋼については予定数を上回っているようだった。

銃の製造に使う鋼鉄は1丁当たり12リブラ位なので、計算するまでもなく製造に必要な鋼鉄は製造できている。

「とすると……工作機械に問題が? それで製造時間が長かったり、歩留まりが悪かったり? もしくは特定の部品でリードタイムがあるとか?」

「いえ、試運転時の最初の数週間程こそ職人たちも手間取っていたようですが、現在は安定して加工はできています。歩留まりも計画内にとどまっています」

「……?」

「……じつは、その……職人も機械も、万全の状態で稼働を続けております。ですが……鋼鉄が足りないのです」

ワックラの言葉に、俺とドミさんは顔を見合わせた。

「おい。鋼鉄の生産は、予定通り進んでいるはずだろう?」

「は、はい、先ほど報告した通り、製鉄部門は予定を超える生産高の見込みとなります」

ドミさんの刺すような視線に、若干言葉に詰まりながらも明確な返答を返す製鉄部門責任者のシリクス。

両者の回答を聞いて、よくわからなくなってきた。

「シリクス殿の製鉄部門の2月着地見込は34万リブラですよね?」

「えぇ、間違いありません」

「でも、ワックラ殿のラインには必要数が届いていない」

「はい」

「ライフル1丁当たりの鋼鉄の使用料は精々12リブラです。計算上は予定数ベースで製鋼高の1割強程度しか使用しない」

「そ、そうですが……その」

「なんといいますか」

俺の淡々とした確認に、何かを言いよどむワックラとリシウス。

そういえば、気になることと言えばもう一点ある。

プッさんどこ行った?

というのもこの工廠、途中のコークス製造の副産物として様々な基礎化学原料が取れる関係で、プッさんの私財を溶かして作る(最終的には製薬プラントも作るが、その前段階となる)デキムスさんとプッさんの 合弁工房(ソキエタス) である化学プラントも併設している。

その関係で、工廠全体の総責任者はプッさんなのだ。

なお、余談だがプッさんもかなり大規模に被災民への支援は行っているので、職人や市民へのブラック労働を強いている立場にもかかわらずヘイトは向いていなかったりする。

世の中の不条理を体現した町、それが北ポンペイだった。

そんな感じで、本来ならばそう言えばこの場にいるはずのプッさん。

いないじゃん。どこ?

「――そもそも、工廠の総責任者のプリニウスはどこにいる? 各責任者のお前たちで分からぬなら、もう奴に聞いた方が手っ取り早いのではないか?」

同様の疑問はドミさんも思ったようで、俺の代わりにドミさんがそれを二人に問い詰める。

「「っ!!」」

ドミさんの言葉に、二人がぴしっと固まった。

あ、これ多分原因プッさんだわ。

そしてまるでそれとタイミングを合わせるかのように、工廠の奥のエリアの方向から大きな歓声が上がりだした。