軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世にも不純な動機【後】

はっきりとそう言うと、国王はにやりと笑った。

「近衛がいいと言えば、そなたは姫の警護を任されてくれるんだな?」

「そうですね。まぁ、いいと言うわけがありませんが。彼らは職務に誇りを持っていますから、私が行っても嫌がられるでしょう」

まだこの話が続くのか、とため息交じりにそう言ったアレンディオを見て、国王は笑った。

「問題ない!近衛はすでに全面的にそなたを受け入れると返答が来ている」

「は?」

驚いて目を見開くアレンディオ。ルードは微動だにせず、沈黙していた。

「将軍に憧れを抱く者も多く、ぜひアレンディオと共に任務に就きたいとのことだ!」

「…………」

「それに警護といっても、姫はしばらく城内でしか行動せん。姫が勉強中は、そなたは書類仕事に励むといい。それに訓練や後進育成の時間も確保しよう」

意気揚々と語る国王に、アレンディオが断るという未来はないらしい。

苦い顔をしたアレンディオは、ぎりっと歯を食いしばる。

そして国王は、彼の弱点をさらについてきた。

「そなたの仕事の一部を、近衛の補佐官と事務官を異動させて請け負うことにする。姫の護衛をすれば、今よりも邸に早く帰れるぞ?」

「なっ!?」

アレンディオは衝撃を受けた。

早く帰れる。その言葉に、まるで光が見えたような気持ちになった。

「早く、帰れる……?」

「あぁ、そうだ。妻と過ごす時間が増えるだろうな」

「ソアリスと過ごせる!」

呆然とするアレンディオに、ルードは世にも残念なものを見る目を向け、やはり沈黙を守っていた。

国王は追い討ちをかける口を休めない。

「それにな、妹が見つかったそもそもの原因はそなたにあるのだ」

「私、ですか?」

思い当たる節がないアレンディオ。

ルードは「まさかアレか?」と表情をかすかに変える。

「我が妹は、それはそれは美しい娘だそうだ。飴色に近い金髪に抜けるような白い肌、青い瞳は夏空のように澄んでいると評判の美女だと報告が上がっている。妹と会った者は、皆があれほどの美女はなかなかいないと口を揃えて言うのだ」

「はぁ」

「そして、妹はつい最近まで強欲な貴族に目をつけられ、妾になれと脅されていたらしい。だが、偶然にもその貴族の悪事が露呈し処分されたことで、被害の確認に調査部の者が派遣され、妹の素性が明らかになったわけだ」

アレンディオとルードの脳裏に、1人の男の名が浮かぶ。

マルクス・エバンディ伯爵。

ソアリスの母に対する恋情を拗らせ、かつて姉妹を金で買おうとした貴族だ。

彼はアレンディオの指示で、ルードが徹底的に調べて悪事を暴き、領地と爵位を没収。

現在は監獄暮らしで、絶賛奉仕労働中である。

肥太った身体は、さぞスリムになっているだろうとルードは思った。

まさかその男が、密かに暮らしていた王妹に目をつけ妾にしようとしていたとは。

「そなたのおかげで、ローズは見つかった。だが、そなたのせいで彼女の未来が大きく変わったのもまた事実。哀れな姫の味方になってやってくれたら、私も安心できるんだが」

「…………」

アレンディオは、早く帰れるという条件で9割ほど心が揺らいでいたが、ここにきて自分のせいでもあると言われるとさすがに白旗を上げた。

「わかりました、お受けいたします」

国王は、思い通りに事が運び満足げに頷く。

「では、10日後からよろしく頼む」

複雑な気分になるアレンディオだったが、最後に念は押しておく。

「騎士団の任務を優先しますから。そして早く帰りますので、それだけは譲れません」

「わかった」

こうして、世にも不純な動機で王妹を警護する将軍が誕生した。

国王は諦めにも似た感情で、クックッと笑いを漏らす。

「それにしても、妻のために将軍を辞めようとするなど前代未聞だ。そんなにも妻が大事か」

自分もそれなりに愛妻家だと自負してきたが、この男の執着は異様だなと国王は笑う。

アレンディオは真顔で淡々と返事をする。

「もちろんです。妻がいたから私は騎士になろうと思ったのです。妻がいなければ、今頃は領地で細々と暮らしていたでしょう」

「ははは、そなたが細々と?それは想像もできんな」

「あぁ、でもソアリスがいない人生はあり得ませんでした。私たちは政略結婚なので……。つまりどうあがいても私と妻は一緒になる運命で、騎士にならずとも文官になっていただけで、ソアリスへの愛は何一つ揺るがないと思われます。報告は以上です」

そんな報告はいらん。国王は思った。

「すべては妻のおかげなのです。10年も待たせたからには、誰よりも幸せにしなければと思っています」

「そうか。しかし、そんなにも惚れこむほどそなたの妻は美しいのか?第一王女の金庫番をしていると聞くが、将軍をそこまで骨抜きにした才女に会えるのが楽しみだ。舞踏会では、ぜひとも我が前に連れて来い」

アレンディオは不服そうに顔を顰める。

「正式な場でなければ、本当にそなたは感情が顔に出るな。軍議ではあれほど顔に出さんのに」

国王は呆れるが、アレンディオがこうして内面を曝け出す相手は少ない。

「軍議で本性を現すと、数字だけで物事を判断する管理官などはもうこの世にいないと思いますよ?表情より先に手が出ます」

「気持ちはわからなくもないが、今後も斬るのはやめてくれ」

ため息をつく国王に、アレンディオは言った。

「舞踏会では、もちろんご挨拶には参ります。ですが妻はとても控えめな性分でして、華やかな場は苦手としております。それに、あまりに素晴らしい女性ですから周囲の男を警戒しなくてはいけませんし、私は今から案じています。陛下も、どうかご挨拶だけでご勘弁願えれば……」

「わかっている。そなたらの邪魔はせん」

本当かどうか怪しい、とアレンディオは警戒する。

「ローズの披露目にはさすがに早すぎるから招待できなかったが、いずれは顔見せをすることになるだろうな」

「半年から1年、それくらいはかかるでしょうね」

きっとダンスも踊ったことがないはず。

日々、ユンリエッタに厳しく指導されているアレンディオは、市井育ちの姫に少しだけ同情した。

「教育係の選定はすでに終えた。警護につく顔触れは、そなたと近衛で話し合って決めてくれ。そなたや姫に好意的でない者は、容赦なく外して構わん」

「かしこまりました」

今後のことは、追って連絡を。

話が終わると、アレンディオは涼しい顔で部屋を出て行った。

険しい顔つきや振る舞いは、どこからどう見ても頼もしい将軍だ。

だがその中身は、妻を溺愛する男として上層部から国民にまで知れ渡っている。

(我が娘をもらって欲しかったが、さすがに10歳では……。いや、適齢の王女がいて縁組をなどと言った日には、それこそ国外逃亡されていたかもな。これでよかったのだ)

国王は、己の願望をそっと胸の内に留めた。

(そうだ。舞踏会では何としてもアレンディオを繋ぎとめよと、妻に念を押しておかねば。あれが国外へ行くなどとんでもない。しかも、特務隊はアレンディオでなければ束ねられん……。あんな狂人集団が野に放たれたらどうなるか。城内で 反乱(クーデター) でも起こされたら堪ったものでない)

貴族で構成されている近衛隊と違い、アレンディオ直属の特務隊は素性よりも実力主義で人員が選ばれている。

一歩間違えればならず者という気性の荒い者もいるため、戦が終わったとしてもその扱いはむずかしい。

彼らが騎士でいるのは、将軍直属の部隊であるという誇りがあるから。忠誠を誓うのはあくまで将軍であり、国王の命令では半分も動かせないだろうと予想できる。

何としてもアレンディオに将軍を続けさせなければ。国王は改めて策を練った。