軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これもすべて平和のため

王城に用意されていた客室に戻った私たちは、王家のメイドたちによって瞬く間に着替えさせられ、ローズ様のお誕生日祝いに相応しい装いになった。

アレンに抱えられてやってきた私を見て、メイドたちは「もしやおケガでも!?」と慌てていたけれど、何もないことがわかったときのあの生温かい目といったら……。「あー、そうなんだ~。運びたかっただけなんだ~」という心の声が聞こえてきて、今すぐ逃げたいと思った。

マリーゴールドの花に似た美しいオレンジ色のドレスに着替えた私は、アレンにエスコートされて祝宴会場へと向かう。

そこにはすでに正装に着替えたルードさんがいて、その隣には水色のドレスを着たユンさんがいた。

「ローズ様は無事に控室に入られました」

ユンさんはついさきほどまで、王妹殿下の護衛についていた。

私たちと一緒に行きたいと言っていたけれど、ローズ様の身辺も警護を手厚くしておかなければ……ということで、五人の女性騎士と共に王城内にいたのだ。

「では、まいりましょう」

満面の笑みで手を差し伸べられると、反射的にそれを取ってしまいそうになる。

アレンはすぐに私の手を掴み、ユンさんを睨んだ。

「ソアリスはおれの妻だ!油断も隙もない……」

「あら?そうでしたか?では仕方ないので、ルードさんにエスコートしてもらいます」

「そうしろ。再婚約してまだ挨拶回りもしていないだろう」

この二人も、護衛としてしか夜会やパーティーに参加しない。

だから私たち以上に、今日の参加はめずらしい。

ルードさんは苦笑いで言った。

「反逆者を捕らえるより、祝宴の方が疲れそうですよ」

そんな彼の腕にするりと手を回したユンさんは、にぃと口角を上げた。

「王妹殿下とダンスを踊って、王家と将軍が懇意であると知らしめないといけませんね。あぁ、アレン様は踊らなくていいです。威厳が損なわれますから」

それは、こんなに大きな祝宴の場でダンスがヘタなことが露見しては困るということだろう。

私も苦笑いになる。

「アレン、これから時間をかけてゆっくり練習しましょう。きっと何年か後にはうまくなっているはずですから」

未来に期待するしかない。

アレンは無言で頷き、微笑み返してくれた。

祝宴は予定通り始まり、陛下と王妃様、そしてジェイデン様とローズ様が壇上に現れると大きな拍手で迎えられた。

初めての大規模な宴に、ローズ様は少し緊張気味で。けれど、背筋を伸ばしご立派な姿だったと私は思う。

しばらくすると国の重鎮たちが陛下のそばへ向かったが、いつもなら一番に挨拶をするヴォーレス公爵がいないことに貴族たちはざわめいた。

陛下はヴォーレス公爵が病で療養することになったと告げ、娘のマルグリッド様が当主代理を務めることを発表した。

貴族の間では、いずれマルグリッド様がジェイデン様の第二妃になるのではという噂もあったので、これは自分の娘を売り込むチャンスかも……という期待が高まったのがわかる。

これからどうなるのか、はジェイデン様次第だろう。

私とアレンは陛下に挨拶をし、ローズ様にお祝いの言葉を伝えて今宵のメインの仕事を早々に終えた。

一曲だけダンスを踊り、どうにか体裁を保ってホールを後にする。

テラスにあるテーブル席へ移動すると、そこにはニーナとエリオットが寛いでいた。ヒースラン伯爵家でのお披露目の際にローズ様たちと街へ出たので、弟妹もこの場に招待されている。

「姉上、もうこんなところに来たの?」

「もう、って……。あなただってここで休憩しているじゃない」

自分のことは棚上げしてそう言うエリオットを見て、私は笑ってしまった。

将軍の妻の弟、ということでエリオットにもご令嬢方の興味は多少は集まっている。無関係な顔をしていられるなんて、我が弟ながら逞しい精神力だわ。

ところがそこへ、なぜか逃げるようにしてローズ様がやってくる。

「ソアリスさん……!」

「ローズ様!?主役がこんなところに来てはいけませんよ……?」

驚いて目を瞠ると、彼女はふにゃりと顔を歪ませた。

「ゼス様が……!祝宴の最後のダンスパートナーにして欲しいとおっしゃられて」

「まぁ」

婚約者がいないとき、最初と最後のダンスパートナーは特別だ。

今夜の最初のダンスのお相手はジェイデン様だったから、最後の相手に立候補するっていうことは、向こうは婚約に前向きだと言う意思表示だと思える。

ローズ様はどう接していいかわからず、逃げるようにしてここへ来てしまったらしい。

「キラキラしすぎて……!普通に顔を見て話せないんです!」

私も、アレンが戻ってきてすぐの頃はそう思っていたので気持ちはわかる。

でも慣れるしかないわけで。

何の助言もできずに困っていると、エリオットがふいに口を開いた。

「そんなに相手の顔って気になりますか?どうせいつかはみんな 爺(じじい) なんだから、性格がよければ大差ないと思いますよ?」

初対面のときはあれほど王族の存在に怯えていたのに、一緒に街を歩いたことですっかり普段のエリオットになっていた。

本来であればこんな態度は失礼なのに、ローズ様はまったく気にも留めず、むしろ前のめりでエリオットに尋ねる。

「どうせいつかは、みんな爺?」

「あの、ローズ様、爺なんて言葉を……」

教育係の方々がいたら卒倒しそうだわ。

けれどローズ様は突然目に力が宿り、真剣な顔で言った。

「光が見えました!私、ホールへ戻ります!」

「え!?」

よくわからないけれど、元気が出たならよかった。

茫然とその姿を見送っていると、隣で空気になっていたアレンがぼそっと呟く。

「何にせよ、健やかなのはいいことだな」

「アレン、あなたローズ様のことを10歳くらいの子どもだと思っています?」

まさかね……。でももしかして。

ちらりと見上げると、アレンが目を丸くして私を見ていた。

「え?もしかして、本当にそうなんですか?」

「今気づいたが、そうかもしれない。ローズ様のことを大人として扱ったことはないな、しまった。いくらなんでも失礼だった」

本当に子どもだと思っていたのね!?

びっくりして私も目を丸くしてしまった。

夜の時間はゆっくりと流れていき、顔見知りの方々やアレンの知り合いと話をしているうちにお開きの時間が迫っていた。

ローズ様はゼス様とダンスを踊っていて、それを確認した私たちはちょっと安堵した。

合流したルードさんやユンさんとシャンパングラスを手にして談笑していると、そこへすっかり自信を取り戻したマルグリッド様がやってくる。

「皆様、こちらで密談ですか?」

いつも悪巧みをしているみたいな言われようである。

ルードさんは笑顔で受け流し、「たまには雑談もしますよ」と返すからさすがだった。

「あら?レイファーさん、そのお姿は」

マルグリッド様と一緒に歩いてきた彼は、いつもの女医スタイルではなく男性が着る正装になっていた。この姿もとてもかっこいい。

「ヴォーレス公爵は医局のトップだったから、後始末が大変よ。おかげさまで、私がこんな格好して挨拶周りや各方面への根回しをしてるってわけ」

「それは大変でしたね」

王弟という立場があっても、まだ若いレイファーさんが医局をまとめるのは反発する人もいるらしい。

すぐには無理だろうけれど、何年かかけて体制を整えていくと彼は話した。

「マルグリッド様、皆様の反応はどうでした?」

女性が当主代理の座に就く。

ヴォーレス公爵家の関係者がたくさん処分されたことには変わりないので、何か事件があったことはわかる人にはわかるだろう。

「ええ、おもしろい反応でしたわ。小娘をいいように扱って利を得ようという下心が透けて見える方々がたくさんいて、とても充実したお話ができました。家ごと取り込んでやろうと、婿をぜひにと言ってくる方もいましたわ」

マルグリッド様は従兄と婚約しているけれど、彼は跡取りなので婿には入れない。

となると、婚約は解消し、新たな婿を探さなければいけないということになる。

「困りましたわ。どれほど将軍に解体されかかっても、名家は名家ですから。それなりの身分のあるお相手を選ばなければなりません」

「解体?自滅した、の間違いだろう」

アレンが苦笑交じりにそう言った。

「あら、そうでしたわね。失礼を」

オホホホと上品に笑うマルグリッド様は、色々と吹っ切れたようで明るい。

「迷惑をおかけしましたが、ついでに誰か婿を差し出してくださいません?」

彼女がそう冗談めかして尋ねると、ルードさんが何かに気づいてじっとレイファーさんを見た。

「何よ」

「ヴォーレス公爵家は医師の家系ですよね。それなりに身分があって、独身の男で……となると」

私たち全員の目がレイファーさんに集中する。

まさかルードさんは、レイファーさんにマルグリッド様の婿になれと!?

「王弟で軍医で、婚約者もいない二十九歳って貴重だと思いませんか、マルグリッド嬢」

ルードさんに尋ねられ、マルグリッド様は深く頷いた。

そしてレイファーさんに向き直り、真顔で告げる。

「私、あなたが欲しいです」

「何言ってんのよ!?バカじゃないの!?」

逃げようとするレイファーさんを、間髪入れずにルードさんが捕まえる。

「なぜ今まで気づかなかったんでしょう?これってけっこう大きな利があると思いません?王弟であり軍医であるあなたがヴォーレス公爵家に入れば、余計なことを仕掛けてくる家はないでしょうし、上流貴族の権力争いが一気に沈静化します。素晴らしく健全化できそうです」

「大きな利って騎士団と将軍に、でしょう!?私の利益は何なのよ!?」

ごもっともなお答えだった。

権力志向ならともかく、軍医で気ままな立場を気に入っているとしたらメリットがない。

ところが、ルードさんは彼の腕をしっかりと捕まえたまま端的に言った。

「国の安寧」

「!?」

「レイファーさんは、国が乱れるのを望みませんよね?だからこそ、私たちに協力もしてくださる……。将軍を旗頭にして、ヴォーレス公爵家を手元に置き、この国や貴族界に安寧をもたらしませんか……?」

悪魔のささやきをまともに受けてしまったレイファーさんは、苦渋の決断といった風に頷いた。

「仕方ないわね……!前向きに検討するわ」

即決はしなかったけれど、多分落ちそうな気がする。

これでいいのかしら、と思っていると、ユンさんが笑顔で言った。

「ルードさんは、人柱を捧げるのが得意なんですの」

ついには人柱まで……。

うちの悪魔は積極的に生け贄を取り込んでいた。