軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十話(カイル歴516年:23歳)更なる情勢変化

当初とはうって変わり、応接室で対談する空気は腹の探り合いのギスギスしたものから、少しだけ和やかの方向に変わった。

「さて、我らの期待通り公王の叡智で二つの課題は道筋が見えることとなり、改めて感謝申し上げます。ここから先は内々のお話、カイル王国の南部辺境公として相談させていただいてよろしいかな?」

元より俺に異存はない。

既に筋は通したし、ここに至って我を張る必要もないしな。

「ふふふ、お手柔らかに頼みますよ。それに今の俺は王国の事情に疎いですからね。その辺りも踏まえてもらえると助かります」

ただこの話題に入った時点で、狸爺の目付きが変わっていた。

もちろん鋭い方へと……。

もしかしてこれからの話が本命なのか?

「国防については相手があることゆえ、な。実は東で、いささか予想外のことが起こっておるのじゃ」

東だと? となるとイストリア正統教国とイストリア皇王国の 諍(いさか) いか?

どちらも共食いするように自滅し、もはや死に 体(てい) となったと聞いていたが?

「先ずは時系列を 遡(さかのぼ) って説明せねばならんじゃろう。昨年晩秋のころじゃが、イストリア皇王国からハミッシュ辺境公に使者が参った」

「ほう、それは援軍の依頼ですかな?」

あの時点で皇王国はイスラを含めた中央四郡を正統教国に奪われ、北三郡に後退していたはずだ。

しかも北の三郡のうち一郡はカイル王国への割譲地と緩衝地帯になっており、実質的に二郡に 逼塞(ひっそく) せざるを得なくなっていたことだろう。

片や破竹の勢いで領土を拡大していた正統教国も、リュート・ヴィレ・カインの各国で敗戦を繰り返し、最終的にトライアを含む南四郡の全てを失って、ほうほうの体で中央四郡に逃げ込んだと聞いている。

両者ともまともな兵力もなく、共食いを繰り返して消耗しており脅威ではなくなったと報告を受けている。

「そうじゃ。じゃが我らは断った。北三郡の一郡だけは兵を出し、中立地帯として安全を保障する旨を先方に承諾させたうえで、な」

ははは、これは相手の足元を見た 体(てい) の良い切り取りだな。実のところ緩衝地帯も含めた、一郡を丸ごと接収する形になるからだ。

皇王国はこのエゲツナイ申し出を火事場泥棒のように思ったかもしれないが、最後の安全地帯は確保しておきたい。そのため渋々承諾したということか?

「一方で正統教国側も我らの中立地帯宣言に同意した」

これも思惑は別にあるだろうな。

北の二郡を侵攻するにあたり、中立地帯を取り囲むように支配地域を北に広げれば、最終的に皇王国を最北の一郡に押し込むことができる。

「事態は我らの予想通りに展開し、本格的な冬が来ると皇王国は最北の一郡に押し込められて自壊した。食料が足らず、飢えた兵や民が反乱を起こして、な。じゃが……、ここで予想外のことが起こっての」

「予想外ですか?」

「そうじゃ、正統教国もまた滅んでしまったのじゃ」

は? どういうことだ?

勝っていた側の正統教国が皇王国と同じく滅んだというのか?

「その話は初耳ですね。そのような大事が密かに進行していたとは……」

「正確に言えば器と形態こそ変わったが中身は変わらんでな。新たに勃興したイストハーリアス聖教国では国教は変わらんが皇王制度が廃され、教会を統括し独自の権限を持つカストロ大司教と、軍事を司るハーリアスという王を仰ぐ二元君主体制の国家へと、な」

「ハーリアス……、ですか? 聞いたことのない人物の名ですが」

「我らも知らぬ名じゃ。しかも聖教国は、我らに対しこうも申してきおったわ。『貴国に迷惑を掛けた過去の侵略国家は双方とも討ち滅ぼした。今後は隣国として不戦の協定と友誼を結びたい』とな」

なかなか虫の良い話だな。

だたあの四カ国包囲網以降は、現実的にカイル王国は彼らと直接交戦していない。援軍として俺たちに参戦していたが当事者ではないため、彼らも揺さぶりを掛けてきたのか?

だとしたら食えない奴らだな。

「信用できると?」

「我らも信用はしておらん。故に東の新領土を含む中立地帯には、東部貴族連合軍に加え王都騎士団第三軍を派遣しておる。念のために、ではあるがな。ただ……、後日になって奴らが送って来た書状には気になる点もあっての」

どういうことだ?

展開が早すぎて話に付いていけないし、この辺りは俺も兄からも聞いていない。

「奴らの言葉に依れば、『長年カイル王国に 蠢動(しゅんどう) していた闇の氏族、その氏族長と生き残った手勢は全て討ち滅ぼした。併せて帝国で反乱を企て、逃亡を続けた第一皇子グロリアスも討ち取った』とな」

いや、この話は結構大きな話だぞ!

事実であれば、と前提が付く話ではあるし 俄(にわ) かに信じられる類のものではないが。

「俺としてはちょっと信じがたい話ですね。逃亡していた第一皇子が彼らの元に居たことも驚きですが、彼らが闇の氏族について知っていることも変な話です。これは我らと同盟する関係各国でも、首脳部しか知らぬ話ではありませんか?」

それに俺たちはリュグナーとアゼル、この二人を戦場で取り逃がしている。

彼らが知らぬ間に正統教国に帰還していたとでも?

彼らが討った『生き残った手勢』に奴らも含まれているのか?

「我らとて訝しいと思っている。なので取り急ぎ休戦はしているものの、帝国側へ報告するかも判断に迷っておるのが現状でな」

「兄……、いえ、ハストブルグ辺境公やクラリス公妃はこの話を?」

もし知っていたら公国にて何らかの共有があったはずだ。

俺に隠していてもメリットはなく、デメリットの方が大きいからな。

「知らせておらん。ある程度の真偽が分かるまで、王国内でも当事者たる東と北の辺境公しか知らん話として伏せられておる」

そうだろうな。第一皇子の件も闇の氏族の件も、前線で戦う彼らに次ぐ当事者と言えば俺になる。

その俺にさえ伏せられていた話なのだからな。

「内々に公王には相談したかったが、この多忙な時期でもある。おいそれと使者に託して相談できる話でもないからの。なのでどうしても直接話せる機会が必要じゃった」

なるほどな。相談の内容は彼らの思惑と情報の信憑性について、そして帝国側にどう対応するか、か?

王国と帝国は腹を割って話ができる関係にも至っていないしな。

なんとなく俺は、今回の呼び出しの意図が見えてきた気がした。

「その前置きを踏まえて、北の話になるのじゃが……」

げっ、それが前置きかよ!

この短期間に一体何が起きているんだ?

「皇王国を滅ぼし正統教国を引き継いだ聖教国は、我らと停戦する傍らで北へと侵攻していったのじゃ。

儂が公王に書状を送った時点では不穏な動きであったが、最近になって北の辺境公から届いた早馬によると、隣接するピエット通商連合の二国が併合されたらしい」

「なんと!」

「同じくピエット通商連合に属する別の二国からは援軍派遣の要請が来ておる。これが昨日のことじゃ」

そもそもビエット通商連合は名前の通り六つの小国が連合した寄合国家だ。その中で併合されたという二国は、おそらく聖教国と国境を接するウロス王国と最も東にあるイモータル王国だろう。

援軍を求めた二国とはカイル王国と国境を接し、長年にわたって友好関係にあるエテルナ王国とレトナス王国だろうな。

「それを……、受けられると?」

「この二国は友好国ではあっても同盟国ではないからの」

うん、この狸爺の言葉が全てを語っているな。

以前にカイル王国が四面楚歌に陥った際も、この二国を始め通商連合は中立を宣言して援軍を出してくれなかった。あまつさえ通商連合の中からウロス王国は、イストリア皇王国の尖兵として王国に侵攻してきた敵側だ。

そんな相手を助ける義理は俺達にはない。

「我らは専守防衛を宣言しておるでな。ホフマン軍団長に命じ王都騎士団第二軍をモーデル辺境公の元に送ったが、それはあくまでも北の新領土防衛のため。国境を超えることはまかりならんと伝えておる」

ははは、これは痛烈なしっぺ返しだよな。

通商連合全体に取っては切り捨てられた意味を持つが、少なくともエテルナ王国とレトナス王国は新領土が壁となって立ち塞がることで国家は守られる。

カイル王国が戦後交渉で譲渡した、通商連合の共有所有地である旧ウロス王国の中央部は聖教国の餌になるけどね。

「通商連合も一枚岩ではないからの」

狸爺の言葉通り、あの大戦前から通商連合では三つの勢力で分断されていた。それぞれが地政学上の理由で、隣接する国を優先していたからだ。

・中立を宣言しつつも 敵側(イストリア) に寄り添っていたウロス王国とイモータル王国

・援軍は出さずとも通商面で密接な関係にあり、友好的であったエテルナ王国とレトナス王国

・フェアラート公国の反乱軍と通じ、外交では王国側に非を鳴らしたインフィニ王国とパルフェクト王国

「この状況を読み切って東側二国を抑えたとなると、ハーリアスという人物も食えない男ですね」

おそらく聖教国は今の時点でカイル王国側の新領土、ウロス王国より割譲された地域には手を付けないだろう。東国境で結ばれた不戦協定を維持する形で。

そうなるとカイル王国側は手を出せず、聖教国は新たに得た二国を固めることができる。

「まったくじゃ、せっかく王国周辺が安定し一息付けたと思ったが、我らも対岸の火事と座視する訳にもいかんじゃろう。だからこそ我らは、リュート・ヴィレ=カイン王国とは密接な関係を構築せねばならん」

ははは、ここでまた元の話題に戻る訳か。

聖教国と南で国境を接するリュート・ヴィレ=カイン王国とカイル王国が密接な関係にあれば、聖教国は今後もずっとカイル王国に敵対できないからな。

「では将来の話はさておき、取り急ぎ通商連合と聖教国とは外交面で戦うことになりますね。外務卿の手腕を期待させていただきますよ」

「ほっほっほ、儂も周辺国の調停者として名を上げられた、稀代の英雄の手腕に期待したいのだが?」

誰だよそれ! 褒め殺しもいいところだぞ。

俺は無用な争いに兵を派遣するつもりもないからな。もちろん『手を出せば此方もやるよ』程度の脅しはするけどさ。

「そうですね、辺境公の職責は領土の違いこそあれ辺境伯に同じ。俺は王国の臣という立場でも南国境と周辺国との関係を維持する責務にしかありません。王国が侵攻を受けない限り、できることは後ろから声を掛けるのみ」

それ以前の問題は、外交に関することは王国で対応してくれ。

そんな安請け合いをする気はさらさらない。

「ふふふ、そうじゃったの。我らも建前は守らなくてはならないからの。それで、ここからが本題じゃが……」

は? これもまだ前振りに過ぎないのかよ?

一体俺を呼び出した真の意図は何だ?

俺は自身の読みが外れたことに動揺していたが、狸爺は満面の笑みを浮かべている。

どういうことだ?