軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十一話(カイル歴508年:15歳)窮地からの脱出

王都への帰路の途中、俺たち一行はゴウラス騎士団長が手配した、早馬に出会うこととなった。

「ソリス男爵へ、ゴウラス閣下からの急使としてまかり越しました。

ご一行には、急ぎ王都にお戻りいただくこと。

お戻り次第、学園のクライン閣下をお訪ねいただくよう、至急の伝言をお預かりしております!

長旅の途中、何かとお疲れでしょうが、火急の件とのことですので、よろしくお願いいたします」

王都から?

しかも騎士団長自らが何故?

そして学園長に?

俺は、状況が掴めず、混乱していた。

「何はともあれ、騎士団長自らがご使者をを立てられたこと、これは非常事態と考えます。

急ぎ、王都に戻りましょう」

アンの提案で、そこからは騎馬の足を速め、大急ぎで王都まで向かうことにした。

2日後、予定より早く王都の門をくぐった俺は、旅装を解かず、その足で学園へと向かった。

「男爵よ、待ちかねておったぞ。今の其方はとても危うい状態でな。

ゴウラス殿に頼み、早馬を送って貰ったのじゃ。

予定より早く帰参できたということは、無事知らせは届いたということかの?」

「はい、帰路の途中でご使者とは出会えました。

所で、私が危ういとは……、一体何が起こったのでしょうか?」

「早速で悪いが、先ずは男爵の不在中、何が起こったか説明するかの……」

学園長の話してくれた内容は、驚くべきことだった。

悪意ある、事実無根の噂がこの王都に広がっており、俺の立場は非常に危険なものになっているのを、この時初めて知った。

これまで俺たちが、いかに呑気な悩み事を議論していたか、思い知らされることになった。

「この件では、辺境伯も騎士団長も手が出せん。

彼らも当事者として、監督不行き届きを責められておる立場でな……」

俺はその2人も、多大な迷惑を掛けているということか。復権派の動きを、甘く見すぎていた。

「そもそも、事の発端は其方の迂闊さが招いた結果。それは分かるかの?」

「はい、わが身の不徳と、至らなさを、改めて恥じ入っております」

「魔法士の価値を一番知っている其方が、その価値を一番軽んじておった。そういう事じゃな。

遅ればせながら、途中で対策を採り、教会には蓋をした。それは良い。

だが、既に流れ出た情報への対処を怠り、そして謀略というものに対し、甘い考えで放置した。

それが、この結果じゃの。

明るみになっておる26名の魔法士、これだけでも十分な脅威というものよ。

本来なら、王都に来た折、我らと知己を得た際に、何よりも先に助力を乞う。そうすべきじゃったの」

俺は項垂れて、学園長の言葉を聞いていた。

確かに、迂闊すぎる。世の中の動きを、自身の物指しで判断していた。

宮廷闘争、政治闘争、そういったものに対し、何の知識も無かったにも関わらず。

「まぁ、我々も対策はしておったが、今回は奴らに一歩先んじられた。そういう事だな。

して男爵よ。この失点、どうやって挽回する所存かな?」

「はい、まず第一に、自身の迂闊さと甘さを猛省いたします。

次に、学園長を始め、皆様にご迷惑をお掛けした件、深く陳謝いたします。

そして、この件で策を講じていただいていたこと、そのありがたさを深く胸に刻み御礼申し上げます」

いったん言葉を切り、学園長には深く、心を込めて礼をした。

「今更ながら、ではありますが、私共としては、皆様のお力添えを、改めてお願いします。

ソリス男爵家は、現状抱える37名、全ての魔法士を、勅令魔法士として申請したく思います。

ただ、それだけでは芸がないと考えます。

現在噂になっている26名は公開で、残りの11名は、その数と詳細も含め、非公開で申請が叶えば、そう思っております」

「ほう! 37名もおったのか。流石にそこまでは儂の諜報も及ばんかったぞ!」

「はい、形式上、ソリス男爵は全ての魔法士を勅令魔法士として申請した。この事自体は、事実に基づいた噂として、流していただきたいと考えております。

そして、26名に関しては、どのような魔法士であるかなど、情報を公式のものとします。

残りの11名は、私共とクライン閣下、王権派の方々のみ知る情報として、活用いただければと思います。

既に、全ての魔法士の詳細と、26名と11名に分けた資料はこちらにご用意しております」

そう言って、俺は資料を学園長に差し出した。

早速、学園長はその資料に目を通し始めた。

「ほう、今回の件を知らぬ状態ですら、我らに全てを預ける気でいたということか!

それは感心なことじゃの。我らも守り甲斐があると言うもの……

なっ! なんと! 重力魔法士じゃと!」

学園長は、ヨルティアの資料を見て、驚愕の声を上げた。

「王国に、重力魔法士は絶えて久しい。

元々、重力魔法を司っておった氏族の末裔、その公爵家でも、重力魔法の血統は絶えてしまった。

貴族の中で重力の血統魔法が絶え、今はどの家でも、他の属性の血統魔法が受け継がれておるというのに。

其方は、まことに……」

「はい、彼女は現在私の妻の一人として、テイグーンの護りに従事しております。

昨年は、陛下にもその運用の一端を御覧いただきましたが、帝国軍数万を撃退する切り札として、日々魔法の研鑽を積んでおります」

「なるほどな、それで陛下が……

今だから話すが、此度の勅令魔法士の件、陛下の発案での。ソリス男爵家の魔法士を何としても守れ。

そう我らに厳命されておったのじゃ。

これで合点がいったわ。

其方、陛下に大きな借りができたこと、改めて心に刻むようにな」

「はっ! 心に深く刻み、感謝を忠誠として、今後も王国に対し尽くすこと、お約束いたします」

やはり陛下はヨルティアの事が分かっていた。

俺はそう確信し、陛下の配慮と庇護に深く感謝した。

「魔法士の件、其方の進言通り取り計らおう。

この重力魔法士を含む11名の情報は、当面我らが隠し持つ。いずれ大きなカードとなろう。

26名の氏名と魔法属性を公開すること、全ての魔法士を申請したという事実のみ、公表するものとする。

恐らく多くの者は、その26名が全て、そう思うであろうな。

これで其方の嫌疑はひとまずは晴れるだろう」

「ありがとうございます」

「だが、嫌疑は晴れても、脅威と不安は残る。それが新たな策謀の温床となる。それは分かるかの?」

「はい、私はこの先、王国への忠誠を示す証として、何をすればよろしいでしょうか?」

「其方には気の毒だが、現在東の国境の雲行きが怪しくてな。春から夏に掛けて戦になる可能性が高い。

そこに、其方が魔法士を引き連れ援軍として馳せ参じることになろう。王国を守る盾としてな。

そうすれば、不安や疑念を口にする者の、立つ瀬もなくなるであろうな」

「はっ! 承知いたしました。

私共はどれだけの兵を率いれば宜しいでしょうか?」

「其方は本来は、東の戦局には関わりのない立場。されど、魔法士を活用した軍の運用には実績がある。

それを、防衛軍に伝え、現地で影ながら助力する。そんな立場で良かろう。

率いるのは魔法士10名程度、軍はそなたの護衛として、100名もいれば体裁はつくであろう」

「畏まりました。この件、早速配下の者と協議し、準備を進めます」

「うむ、其方のこれまでの功績、忠誠に疑いのないことは、我らも重々承知しておる。

だが、敵はそんな事も邪な目で見てくること、心しておくことじゃ。

我らも、其方の申した【大掃除】、徐々に進めておるでな。本件も儂らに任せてもらおう。

遠路疲れておるところ、すまんかったの。戻ってゆっくり休み、この先の英気を養うがよい」

「ありがとうございます。なにとぞよろしくお願いいたします。閣下にも改めて感謝いたします」

こうして、俺は学園長の前を辞した。

多分、これで窮地からは脱することができたと思うが、行き掛かり上、俺たちは新たな試練を抱え込むこととなった。