軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十話(カイル歴508年:15歳)一の矢:策謀の始まり

「子爵よ、其方には十二分に時を与えたはず。この辺りで、そろそろ成果を見せてもらいたいものだな」

王都の【復権派】が催す園遊会で、主要メンバー、四名の侯爵と一人の伯爵、そして彼らに礼を取る一人がサロンの一室に集まっていた。

そして、氷の様に冷たい声で淡々と進捗を確認する。

「はっ! 矢は3本用意しております。一の矢と二の矢は準備も整い、ご裁可いただき次第……」

「遅いっ! 我らに 累(るい) が及ばぬようであれば、其方の差配で勝手に進めよ。

我らが欲しいのは、報告や確認ではない。結果だ!」

烈火の如く激しい口調で糾弾する、もう一人の侯爵が割って入った。

「大変失礼いたしました。以後、留意いたします」

子爵は深く一礼し詫びた。

だが頭を下げた彼の口元は、他の人間には見えないよう歪み、薄ら笑いを浮かべていた。

『結果はくれてやる。お望み通り、貴様らには報告することなくな。矢がたった3本の筈もなかろう。

5本目の矢が放たれた時、貴様らの顔が見ものだわ』

ヒヨリミ子爵の心の中を、彼らは知る由もない。

「侯爵よ、落ち着かれるがよかろう。

我らとて、辺境の小僧に構っているほど暇ではないのだから。まぁ、目障りではあるがな」

更にもう一人、会話に加わり同胞を宥めた。

「各々方、ここ最近は【王権派】の奴らも、忌々しくも何やら画策しておるようだ。

我らも用心するに越したことはないだろう。

この園遊会にも、奴らの息の掛かった者共が参加しておるし、子爵も目立つ動きも難しかろう?」

四人の中で最も諜報に長けた一人が加わり、忌々しげに庭の園遊会をサロンから見下ろして言葉を吐いた。

「確かにそうだが……、最近は国王やその取り巻きの動きには、してやられてばかりではないか?

休戦協定も我らの与り知らぬ所で決まり、辺境伯にも余計な時を与えてしまった。子爵の妨害工作とやらも役に立たなかったではないかっ!」

烈火の如く怒りを見せた者は、まだ腹の虫が収まらない様子で、テーブルを叩き、子爵を睨みつけた。

「まぁ少し落ち着かれよ。後々我らが守護する砦だ。精々、堅固な物を奴らに築いてもらえば良かろう。

時を与えてしまったことも、逆に言えば、南に対し我らが安心して介入できる余地ができたということだ。

そう思えばよかろう?」

冷たい声の侯爵は冷笑を浮べ、淡々と同胞を諭した。

そして会話を元に戻す。

「さて子爵よ、改めて問うが、この先どうする?

言いかけておった其方の算段を申してみよ」

「はい、奴には分不相応な魔法士がおります。手始めに、安全となった南からこれらを絡めとること。

これを計画しております。

奴が男爵の身分で、26名もの魔法士を抱えている。

この話が、各貴族家に流れるよう手配しております。

既にその火種は撒かれておりますので、後は合図があり次第……」

「そうだな、中立を公言し日和見を決め込んでおる貴族共も、これで奴を脅威と思うであろうな」

「はい、そして奴が国王の厚意を笠に着て増長し、不逞な企みを行っているとなれば……」

「君側の奸を正すのは、我ら忠臣の務め。そういう事か?」

「はい、矢の本命は騎士団長と辺境伯。

小僧は添え物に過ぎませんが、その増長をみすみす許した責を問えば……」

「なるほどな。だが、小僧の不逞の企みというには、まだ足りぬ気がするが?

この点、子爵はどう考えている」

「はい、要は事実を元に火を煽りまする。

第一に、奴めはその魔法士の実情を、中央に届け出るでもなく、秘匿しておりまする。

1人や2人ならば、どういう事もござりません。

が、26名にもなると如何しますか?

この事実だけでも、糾弾の余地はあると思われます。

第二に、奴は学園に通う魔法士たちに、敢えてその力を隠すよう、申し付けているようです。

味方である筈の者にも、その力を隠す。

その理由とは、如何なるものでございましょう?

第三に、この2つの事実から客観的に考えられること、それは王国に対し内心良からぬ企てをしている。

そう考えると筋が通りまする。

まして、奴を脅威と思う者たちの目から見れば、勝手に想像を膨らませてくれるでしょう。

つい先日、その確証が得られたことと、奴が王都を空ける隙ができ、この策が整いましてございます」

「そして、その事実を知るか知らぬか、それはさておき、辺境伯には監督不行き届きを問う、そういうことか?」

「はい、貴族の習いに従い、そういった脅威を糾弾し王国の安寧を図るのは、上位貴族たる皆さまの務めかと思いまする」

「なるほどな。噂に対する落としどころとして、小僧からは魔法士を取り上げる。

休戦を機に安全となった国境は、辺境伯の監督不行き届きを問い、奴の足を引っ張る材料とする。

そして騎士団長は、何度も彼方を訪れながら、不逞の輩をみすみす見過ごし、王国の盾に一穴を空けてしまった責を問うと、そういう事だな?」

「はい、噂というものは勝手に尾ひれが付き、野火の様に燃え広がるもの。

それに我らが乗じればよいと考えております」

ここで会話に参加していなかった者が割り込んだ。

「皆さま方にお願い申し上げます。

辺境伯に代わり、国境を守るにあたり、ご許可いただきたいことがございます。

小僧から取り上げた魔法士は、一旦我らにお預け願えませんでしょうか?

小僧の抱える魔法士には、若く見目麗しい者も多くいると聞き及んでおります。

それらは全て、皆様にお届けいたしますので……」

「はははっ! ゴーヨク伯爵、それは些か欲が深いと言うものだろうて。

其方に下賜する魔法士は、適切な者を適切な数だけ、我らが直々に選んで進ぜる。それを待つが良い」

侯爵の一人が、これまで関心を示さなかった取り上げた魔法士の処遇について、突然方針を変更してきた。

「こ、これは出過ぎたことを。失礼いたしました」

ゴーヨク伯爵は自身の軽率な発言を悔いた。

うっかり口を滑らしたこと、『若く見目麗しい』その言葉に侯爵たちが著しく反応し、関心を持ったこと、優先権を主張しはじめたことに内心舌打ちした。

「せめて儂にもひとりふたり、回してくれれば良いのだが……」

彼らに聞こえぬよう、小さな声でそう呟いた。

「私めは、二の矢の準備に入らせていただきます」

子爵は、そう言うとサロンを退室し、いずこかへと消えていった。

数日後、王都に住まう貴族たちの間で、ある噂が 実(まこと) しやかに囁かれ始めた。

曰く……

「ソリス男爵(弟)は、

・男爵に相応しくない数の、魔法士を密かに集めている

・良からぬ事を胸に秘め、その魔法士を秘匿している

・国境が安泰となり、持つ力を国内に向けだしている

・自領はことさら警備を厳にし、何かを警戒している

・自領を要塞化し、有事に備え着々と謀を進めている

ソリス男爵(弟)の動きに注意せよ。彼は26人もの魔法士を密かに集め、不逞な企みで王国に叛意を持つ兆しあり」と。

風にあおられた野火のように、噂は一気に広がり、貴族たちの間でその噂はもちきりとなった。

当の本人は、不自然な時季外れの休みを取り、王都を離れている。その噂を否定することも弁明する機会もなく、その不在が余計に噂の信憑性を持たせていた。

「閣下! ソリス男爵はいつ戻りますか?」

ゴウラス騎士団長は、慌てて学園長の部屋を訪ねると、開口一番に質問した。

「今は事情があり、領地に帰っておるわ。大方、今後の魔法士の去就など論じておるころじゃろうて」

「そうですか……、いやはや、困ったことになり申したな」

「噂の件かの?

そうじゃな……、たわいもない話ではあるが、奴らが本腰を入れて攻勢に出てきたということじゃろう」

「我らも動いておりますが、奴らは周到に準備しておったのでしょう。噂の勢いは止まりませぬ」

「ふん、奴らはこれを機に、彼の魔法士を取り上げ、お主や辺境伯の責任も問うつもりじゃろうて。

まぁこちらも、こうなることは予見しておったゆえ、慌てずともよい」

「では、勅令魔法士の件、いよいよ?」

「ああ、奴らの動きが予想より早かったでな、多少は工夫もせねばならんが。

後は……、あの者がどこまで覚悟を決めるか。それ次第じゃの」

「その……、大丈夫でしょうか? 彼はまだ15歳、こういった事には経験も足らぬと思われますが」

「ほっほっほ、そのわずか15の小僧に、何度も度肝を抜かれたお主の言葉とは思えんの。

あの者はまだまだ未熟者、だが、忠言を素直に受け止める度量と、先を見据える器量は十分じゃぞ」

「では! この件、クライン閣下にお任せしてよろしいでしょうか?」

「そうじゃな。此度も狸爺と呼ばれ、憎まれる役を引き受けるとしようかの。

所で、ゴウラス殿には早馬を仕立てて貰えるかの?

あの者に、可及的速やかに、そして真っ直ぐ王都に戻り、帰ったら一番に此処を訪れるようにと」

「承知いたしました」

「さてさて、恐らくもう一つ手を打たねばなるまい。

これもあの者にとっては、迷惑な話であろうが……

まだ奴らも気付いておらぬようだが、イストリア皇王国の件、近いうちに、と見ておるがどうじゃ?」

「流石、閣下の情報網は王都に並ぶものなし、そう評されるのも頷けます。

間諜からの報告でも、おそらく春頃にはその兆しも知れ渡り、周知のこととなるでしょう。

奴らは、春から夏にかけての、雨で大地が泥濘と化す時期を狙ってくること、間違いありません」

「そうか……、

これでまた、あの者からは恨まれるであろうな。

まぁ、致し方あるまい。

結果として、あの者と王国を救う手立てとなり、御前の御心にも適うであろう」

タクヒールが一時的に王都を離れている間に、事態は一気に動き出し、その雲行きは急速に悪化していた。

彼自身が想像もしなかった方向に。