軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第39話:A&V

わたくしはレクシーがお勤めしている研究所、いやお勤めしていた研究所の傍に止めた馬車の中にいます。

さして時間をかけることなく戻ってきた彼と合流して王都中央銀行へ。

カタカタと車輪が石畳を打つ音を聞きながら、研究所の様子を尋ねました。

「無事、退職できましたか?」

「ああ、大丈夫だ。そうそう、鶏を一羽贈ってやることになってね……」

鶏?

なるほど、退職の際のやり取りを伺いましたが、特に問題にはならないでしょう。

どうせもうそちらには行かれないのですからね。

中央銀行のクレメッティ氏と面会します。

「ご機嫌よう、クレメッティさん」

「ご機嫌よう、ペルトラ夫妻。お二人の顔色からうかがうに、研究が上手くいったのですかな?」

なるほど、分かりますか。

わたくしはあまり顔色に出さないのですが、ちらりと横を見ればレクシーが自信ありげです。これはレクシーの成長とも言えましょうが、確かに研究がうまくいっておらず追加の融資を頼むといった様子には見えないでしょう。

レクシーが口を開きます。

「研究はまだまだ途上です。ですがそれであってもある種の成果として得られたものがありましたので、後援者であるクレメッティ氏にはご報告をと」

レクシーがわたくしに目配せをし、わたくしは手にした小振りな鞄から宝石ケースをマホガニーの机に置き、滑らせるように前へ。

「お確かめください」

クレメッティ氏は手を伸ばし、それを受け取ります。

「では失礼して……っ!」

蓋を開けた彼の顔が驚愕に染まり、動きが固まりました。

ええ、まさか魔石が宝石ケースの中にぎっしり詰まっているとは思わないでしょう。それも1カラット以上の大粒かつ上質のものがたくさんありますからね。

レクシーと微笑みを交わします。

「い、いや……驚きました。融資してからこれほどの短期間でここまでのものが作れるとは……。

特にこの中央の3つ、これほどのサイズのものは私でも滅多に見ない大きさです」

白手袋をされた手でそっと持ち上げられます。

ミーナ12号でつくったものですわね。

「クレメッティ氏。俺……わたしたちは鉱山を有しているわけではない。だからそこにある魔石は大きさがまちまちな順で産出したというわけではないのです」

「ほう」

「今持っているもの、そして同じ大きさの2つ、それらがこの一週間で作られたということです」

再びクレメッティ氏の顔が驚愕に染まりました。

「……まさか」

「ええ、そのサイズでその質の魔石を安定供給できる見通しが立ったということです」

クレメッティ氏は天を仰ぎました。

「なんてことだ。いや……素晴らしい。おめでとうございます」

クレメッティ氏が手を差し出し、レクシーと握手します。

その後で実際にどのように作っているか実演して見せました。レクシーの手の中に、4つ目の大粒の魔石が転がります。

わたくしは言います。

「これらの魔石をお預けします。価格に関してはお任せ致しますが、できるだけ値崩れはさせませぬよう。また多くの商家を交える、国外へ輸出するなどもして、魔石の流通経路を悟られませぬようお願いしとう存じますわ」

「いつかはバレてしまいますが」

「ええ、もちろんです。できるだけそれを先送りしていただきたい。

ああ、王家に売る場合は値段をふっかけてくださいまし」

「ペルトラ夫人は王家を恨んでおいでで?」

「わたくしが昏い情熱を燃やすのはエリアス王太子であり、王室そのものや陛下に恨みはございません。ですが、当然隔意はできてしまいますわよね」

「王家の打倒を考えておられますか?」

「いいえ、全く。わたくしたちはまだ、ちょっと力を得ただけの鼠に過ぎませんわ。獅子を倒すことを考えるようなモノではありません」

「……少し、安心いたしました」

ただ、この武器をいずれは致命の刃といたしますけどね。

「さて、クレメッティさん」

「なんですかな」

「後援者としてのご協力感謝いたしますわ」

「というと、融資した金額は返済されるということですかな」

「先ほどの魔石で一度清算していただいて構いませんわ。その上で問いましょう」

レクシーに視線をやります。彼は頷き、身を乗り出して言葉を継ぎました。

「わたしたちはアレクシ・アンド・ヴィルヘルミーナ・カンパニー。A&V社を立ち上げます。事業内容は人工魔石の製造及び販売。さあ、王都中央銀行頭取のクレメッティ氏、この企業に投資なさいませんか?」

クレメッティ氏は鮫のような笑みを浮かべました。

「なるほど、この短期間で庇護されるものから対等に持っていこうとしますか。

悪くない、ええ、とても興味深いですね」

クレメッティ氏から投資のための条件として提示されたのは、わたくしに頼らぬ生産体制の確立。

もちろんわたくしが魔石の生産に携わるのは当然です。ですがそれだけでは、もしわたくしに何かあった時に生産が停まってしまう。それでは会社として認められないと。

生産を倍にしろ、つまりわたくしが居なくとも同量の魔石生産ができるようになれば投資をすると伝えられました。

当然の判断でしょう。むしろ条件を満たせば投資すると約束をいただけたのですから、破格の待遇とすら言えるでしょう。

こうしてわたくしたちは家へと戻ったのです。