軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話:独立

完成を祝った翌朝のことです。寝起きの旦那様に声を掛けられました。

「おはよう、ヴィルヘルミーナ」

「ふふ、ミーナですわよ」

食事の用意をしているセンニが笑います。

「おはよう……み、ミーナ」

「はい、おはようございます。 レクシー(・・・・) 」

「ん!? ん、ああ」

彼は顔を赤らめながら洗面所に顔を洗いに向かいました。センニが楽しそうに笑い続けます。

ええ、旦那様をレクシーと呼ぶことにいたしました。

昨日のお祝いの最中に、互いにレクシー、ミーナと呼び合うことにしたのです。いや、させたのです、かしら。

まあレクシーも喜んでいると思いますので良いでしょう。

食事を終えてレクシーが研究所へ向かうと、センニが言いました。

「新婚というより、付き合い始めたばかりのカップルって感じですね」

「レクシー、旦那様とは出会ったその日に結婚でしたからね。王侯貴族の結婚ではままあることですが、それとて相手のことは調べるものですし、手紙や贈り物をし合うくらいはしますから」

互いに初対面でどちらも好意を抱かず、生まれも育ちもまるで違ったことを考えれば、ここまで関係が前向きに進んだのは好ましいところでしょう。

「次は夜のお相手ですか?」

センニが楽しそうですが、この家だとどう考えても音が筒抜けなのが気になるところですわね。

「その前にキスくらいからでしょう」

「旦那様に男を見せて欲しいですね!」

「気長に待つといたしましょう」

わたくしは机に向かいます。久しぶりに魔力を使いましたし、今後も使う予定ですので体調管理はレポートにつけておきます。異常なし。

鑑定の魔道具でもあれば魔力容量の減りと回復が正確に測定できるのですけどね。それこそ平民の手の届くようなものではないでしょうし。

魔石の鑑定もそうですわね。鑑定士に見てもらいたいところ。できたのが屑魔石、いわゆる燃料に使われるものができたのであれば、実際に使用してみるのが早いのですが、宝飾品にできる可能性のある質のものがいきなりできてしまいましたからね。

魔石は宝飾品であり、燃料でもあります。産出量が多いのでいわゆるダイヤやサファイア、エメラルドといった宝石などより価格は落ちますが、それでもこの純度なら充分に価値あるものですから。

こうして、わたくしが魔石を生産することとなってからおよそ一月。

レクシーはミーナ2号、3号と試作を重ねていきます。中には全く魔石が作れないもの、屑魔石しかできないもの、すぐに壊れてしまうものなどもありますが、失敗からもその理由を考察され、より魔力効率のすぐれたもの、構造が堅牢なものへと改良されていきます。

「……これは素晴らしいものができましたね」

「ああ」

レクシーは頷き、センニが息を呑みます。わたくしが手を翳しているのはミーナ12号。そこから作られた魔石は今までよりも明らかに大ぶりのもの。それだけ魔力の変換効率が素晴らしいのでしょう。

レクシーが取り出したそれを計測し、わたくしに手渡します。親指の爪ほどの球体。

「今までで一番良かった9号をベースに、仕上げはスライムコーティングでしたか。わたくしの僅かな水属性の影響を反映した 薄い青(ペイルブルー) 。およそあらゆる魔道具に適合する最高の逸品かと。本体はいかがですか?」

「破損なし、再使用も可能だと思う」

センニから宝石箱を受け取ります。蓋を開ければ無数の煌めき。箱の中には大小様々な魔石が納められています。

わたくしが微笑むとレクシーは頷きました。

「魔素結晶化装置、ミーナシリーズは一旦これを以て完成として良いと思う」

わたくしは魔石の入ったケースを掲げます。

「初期資本もできました。計画を次の段階に進めましょうか」

アレクシ様は両の拳を天に突き上げました。

「俺は! 研究所を! やめるぞ!」

……………………

俺は翌朝、研究所に向かい、トビアス上長のデスクの前まで歩む。

「上長」

「なんだね、ペルトラ君」

俺はデスクに辞表を置き、彼に向けて差し出す。

「……何のつもりだ」

「今日を以てこの研究所を辞めさせていただきます」

「はあ!? そんな勝手が通るとでも?」

ざわつく事務所、俺はそれを無視して言葉を続ける。

「あなたはかつて俺にこう言った。俺が研究で成果を出せば、やりたい研究に予算と人員を出すと。だが現状はどうだ。俺は他の研究室の助手ばかりさせられている」

「勲章を得たくらいで偉ぶってるんじゃないぞ!」

「ええ、ですが約束を守らない上司の下で働いても得るものはない」

返答がない。俺が離れようとすると、上長は落ち着かせるように手を差し出した。

「ま、待て。今ペルトラ君の提案を精査して、審議にかけているのだ。何も君のしたい研究を蔑ろにしようとしているのではない!」

「俺の研究したいテーマを言ってみてください」

ぐっ、とくぐもった声を出してトビアス上長は押し黙った。

ガタリと男が立ち上がって叫ぶ。

「おい、ペルトラ! 俺の研究のサポートはどうするんだよ」

「主任、俺はあんたが、俺のような雑用なら鶏でもできる、いつ辞めてもらっても構わないと言っていたのを聞いている。そのいつかが今日なだけだ」

「無責任だ!」

「主任の研究室に鶏を一羽寄贈させていただきましょう。

……では上長、おせわになりました。失礼します」