軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188話 変革が始まった場所で

以上をもって、『組織』の主犯に対する裁きは終了し。

いよいよ本格的に、次期国王のリリアーナを中心とした王国の復興へと着手することになった。

やるべきことは、あまりにも多い。そのため、この戦いで活躍した第三王女派閥の人員をはじめとして、各々が自分にしかできない得手を最大限に生かして復興に尽力している。

……では、そんな中。

先も述べた通り、『組織』の首魁を討ち。間違いなく先の戦いの英雄と呼ばれる存在となった少年──エルメスは、何をしているのかというと。

「…………あれ」

未だ傷跡の残る王宮のベランダ、王都が一望できる場所で。

──彼は、黄昏れていた。

何故かというと。

(……僕のやること、意外とないな……!?)

そういうことである。

リリアーナに依頼された隷属魔法の開発以降、彼は見事に手持ち無沙汰となっていた。

いや、無論彼にできることは多くあるし、彼にしかできないこともある。

けれど、王国の復興においては彼の優れた魔法の能力は完全にオーバースペックであり、カティアたちのような政治的な頭脳があるわけでもない。戦闘能力においては今はローズがいる。

端的に言えば、今エルメスが出来ることは全て割と代わりが居る状態になってしまっており。謎の仕事のブッキングが重なった結果奇妙な空白時間ができてしまっていた。

「……」

皆は忙しいのにそうなっていることを、少し申し訳なく思い。最初はリリアーナに何か仕事はないかと直談判しに行ったのだが……

「では、師匠は少し休んでくださいまし! あなたは間違いなくこの戦いの最大の功労者、いくら今がものすごく忙しい時期とは言え、あなたにさえ休みの一つも与えられないとなればそれはそれで問題ですわ!」

と言われ、そんな彼女の言葉に周りの第三王女派全員が同意した結果、手持無沙汰な時間が発生してしまったのだ。

エルメスにとって、人生であまり経験のない自由で暇な時間。何をすべきか割と頑張って考え抜いた後──

「……そう、だな」

──王都を回ってみよう、と思い至った。

この戦いの爪痕が残る王都で。自分たちが守った国、変革を善しとした国が、本当に変われたのか、どう変わりつつあるのか。

それを、確認してみようと思い。エルメスは、ゆるりと王宮から歩みを始めた。

「あれ、エル君?」

「おや、珍しい」

王都を歩いていて。

最初に遭遇したのは、珍しい出で立ちをした二人。

ニィナとルキウス。この王国では稀な装いである剣を提げた兄妹が、意外そうな顔でエルメスを見つけ声をかけてきた。

「お疲れ様です。お二人は今何を?」

「ボクたちはひたすら復興のお手伝いだね」

「現状統率を取れる最大の人手が我々北部連合だからな。兵士としての役割は一旦お休み、今はひたすら土木工事だ」

たまにはこういうのも悪くない、とルキウスが快活に笑う。

……まぁ、確かに。なんというか建築業にいそしんでいるルキウスの姿を想像すると、思った以上に様になっている。ニィナも同じことを考えていたのか、ルキウスとエルメスを交互に見比べておかしそうな笑みを見せた。

そこからは、近況について話し合う。

復興は、順調に進んでいるらしい。再建にあたってまた貴族たちの横やりというか、この混乱に乗じて自分の利権を過剰に確保しようという流れも……正直この国の現状を見た後となっては十分あり得ることかと思ったのだが。

意外と、そういうことはないらしい。ルキウスとしても想定外だったそうだが──やはり、先日の王都を襲った死霊の群れの一件が効いたのだろう。

あの件を経て、さしものこの国の貴族たちも思い知ったのだ。過去の正の側面だけを見て、負の側面を無視する、ないがしろにする恐ろしさを。血統魔法という、自分たちですら理屈の分からないオーパーツに頼りきりになってしまう恐ろしさを。

自分たちが良くないことをしてきた自覚がわずかでも残っているものであれば、それが価値観に与えるインパクトは十分で。現状は、多くの貴族家がどう動くか──この先の未来をどう生きるかを考えている。それもあって、新しい王国の動きに口を挟むものは想像以上に少ないらしい。

「……そう、ですか」

それを聞いたエルメスは、思う。

良くないことであったことは間違いない。けれどやはり……ユルゲンのあの行動は、クロノやラプラスたちの引き起こした災害は。

本人たちの意図とは違うかもしれないが……ちゃんと、この国にもたらした意味があったのだろうかと。

そう思うと、ほんの少しだけ。微かな胸の痛みが、和らいだ気がした。

「とはいえ、だ」

そんなエルメスに対して、ルキウスが続けてこう告げる。

「やはり反発がゼロとはいかなくてな。ぽっと出の北の田舎者が仕切るのが気に食わない、というものも居る」

「それは……そう、でしょうね」

「組織との戦いが、最後は誰も知らない地下での決着になったのも良くなかったのかもしれないな。本当にお前たちは英雄なのか、あの死霊の大群を鎮めたのはお前たちではなく、何か別の偶然に乗っかっている詐欺師なのではないか──と、主に今まで王都で権勢を持っていた者たちが最近騒ぎだしてな。正直なところ困っている」

そういう動きも、無理のない事なのかもしれない。

むしろ健全ですらある。いくら衝撃的な事件があった後とはいえ、皆が皆ころりと意見を変えるのであればそれはそれで不気味だ。そういう者たちとは、これからも向き合うべき課題なのだろう。

そう思ったエルメスに。

「──というわけで」

ルキウスが、にこやかにこう告げた。

「エルメス君。手持無沙汰であるのなら、是非とも手伝って欲しいことがある。今から、私と戦ってくれないか?」

「はい?」

「つまるところ、騒ぎ立てる者たちは我々の実力を疑っているのだろう? であれば分かりやすく見せてやれば良い。半端な相手だと猶更疑われかねないが、君ほどの魔法使いが相手であれば十分だろう」

「とか言って、お兄ちゃんも復興作業の気晴らしがてらエル君と戦いだけじゃないの?」

「否定はしない!」

はっはっは、と笑うルキウス。

エルメスの方としても否はない。もとより自分の出来ることを探していたところだったし、戦うだけで役に立てるのならばむしろ望むところだ。それに、エルメスとしても久々のルキウスるとの手合わせ、心躍らないと言えば嘘になる。

そういった諸々を加味して、エルメスは即答で頷き。

であれば急げとばかりにルキウスに案内されて、近くの広場で多くのギャラリーに見守られながら存分に剣と魔法の戦いを楽しんで──

どうやらやりすぎたらしい。

「ひっ、ぁ……お、お疲れ様です!」

「紛れもなく英雄に相応しい力でした、年端も行かぬ子どもと侮ってしまい大変申し訳ない……!」

ルキウスと、ほぼ互角の激戦を繰り広げたのち。

一息つくエルメスに対し、貴族の幾人かが全力で頭を下げに来た。

自分たちの力は理解してもらえたようだが、どうにも過剰に怯えられている感じが無くもない。

あれか、ルキウスの剣が見事だったから対抗心に火がついてエルメスも『 灰燼の世界樹(レーヴァテイン) 』を持ち出したあたりが良くなかったかもしれない。思い返せばあの時はさしものニィナも若干呆れ顔だった気もする。

(……とは言え)

けれど、同時にこうも思う。……今までの王国だったら、ここまで素直に認めてもらうことはなかっただろうと。恐らく、こういう貴族たちは自分の力を見せてもなおごねてきただろう。『自分たちは絶対的に正しい』という観念が先にあって、それが一切揺るがずその上で他者を蹴落とすことしか頭になかったが故に。

けれど、それは変わった──変わりつつある。王都を襲った惨劇とそのインパクトで、これまでの『常識』がすべて破壊されたがために。

……そう、考えると。

変革は、確かになされたのだろう。自分たちだけではない──リリアーナをはじめとした第三王女派全体だけでもない。あの『組織』がなしたことも含めて、全員で。今の一番大きく、一番大変な変革を成し遂げることが出来た、と言えるのかもしれない。

……それを想って、ふと笑みをこぼし。

貴族たちに頭を下げ、ルキウスに礼を言って。エルメスは再び、王都の散策を続けていった。