軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189話 彼ら彼女らの処遇は

ほどなくして、また見知った顔に出会った。

「エルメスさん。お疲れ様です」

「ここまで騒ぎが届いていたぞ。また派手にやらかしたようだな」

サラと、アルバートの二人だ。

この二人は、とある共通点がある。──王族の世話係を仰せつかった、という。

サラはライラに、アルバートはヘルクに。それぞれ専属の形で現在諸々の世話を行っているのだ。

ライラは『教会』を混乱させたこと、ヘルクはもっと直接的に『組織』に唆されてクーデターを企てた影響で現在軟禁されているが、それでもこの国の王族。

罪こそあるものの各々大きな功績を挙げたこと、そして何より──ユルゲンと同じく激動期にあるこの王国で無為に有用な人材を死なせられないという理由で、近いうちに監視付で解放、その後は新生した王国の為に動いてもらうことになる予定だ。

そんな二人の監視役──という名目で世話係に立候補したのが、この二人となる。

サラの方はライラと元より因縁があり、そもそも同じ血統魔法を使う者同士で相性が良い。ライラがサラに抱いていた劣等感も、元を辿ればライラの『母に自分を見て欲しい』という願いから。それが成された以上、ライラのサラに対する態度も驚くほど軟化したそうだ。

血統魔法的にライラがサラの下位互換であることについても……

「別に構わないわよ、魔法に関してはもう見切りをつけているもの。私は『教会』と『王族』の両方を誰よりも見てきた人間としてこれから国に貢献するわ。魔法は──そうね、聖女様が五割増しで便利になれるサブを手に入れたとでも思っておけば?」

とのこと。

なんともさっぱりして気持ちの良い割り切りである。恐らくだが、これがライラの素の性格なのだろう。

基本的に即断即決気質のあるライラと思慮深く慈愛に満ちたサラは性格的にも相性が良く、現在は軟禁が解けた時のことを見越して二人で『教会』の再編計画を練っているらしい。

そもそもが、この王国の底に巣食う黒幕の一人であった『天使』によって創設された組織である教会だが、それでも全て教えを否定はできない。人が善く過ごすにあたって必要なこと、人の心のよりどころになる上で大事な部分も多くあった。

これからは、そういったものを受け継ぎつつより健全な宗教組織として運営するとともに──緊急ではないが必要不可欠な課題である、『天使』の再臨に向けた対策を研究する場として残して行くそうだ。

紛れもなく、そちらも一大事業になるだろう。けれど……類まれな知識と知見を持つライラと、エルメスに出会って成長し、ただの慈愛だけでない確かな価値観を得たサラならば、きっとやり遂げてくれるだろう。

教会についえ語るサラにそのことを素直に告げると、照れたように可憐に「ありがとうございます」と返してくれた。

ヘルクについては、流石に反逆を企てた罪は重くライラよりも軟禁期間は長い。

一方で、彼が居なければカルマ──この一連の騒動においても間違いなく単体最強格だったあの魔物を討てなかった、ということは誰もが理解している。それもあって、奴の恐ろしさを良く知る国王直属兵をはじめとして彼の評価は高い。

彼の生い立ちや置かれた環境を考慮すると、処刑までする必要はないとの意見も強く。流石に王都においておくことはできないものの、逆に王都以外の場所でその力と知見を活かしてもらう方向で話がまとまっている。

……逆に言うと決まっているのはそれくらいで、彼はライラのように明確に何をするということまで具体的には決まっていない。けれど……

「探すさ。幸いまたしばらくは軟禁されるのだろう? であればゆっくり考えるとしよう、僕が出来ること……僕だからこそ、出来ることを。今ならば考えられそうだ」

ヘルクは、憑き物が落ちたような顔でそう言っていたとのこと。……彼もきっと、あの戦いを経て様々なものを乗り越えられたのだろう。

そして、そんなヘルクとアルバートは非常に気が合うとのこと。曰く、

「不敬かもしれないが……俺も殿下も、出来ないこと。出来ないが故に苦しんだ経験がある人間だからな。そういう者の心が分かるのだろう。これからやることも、他にもいるそういった人たちの助けになる方向で何かできないか、共に語っている」

らしい。そう語るアルバートの表情も決意と意思に満ちていて。

皆、やることを見つけて歩き出している。それを知ることが出来て、やはりエルメスはなんとなく嬉しくなるのだった。

そこから、別れてエルメスはまた歩き出す。どこに行くのかと聞かれたが……

「……一つ、行ってみたいところが出来ました」

と彼は語り、その通りに歩みを進める。

そうして、王都の中心部から離れた郊外まで彼は移動する。

その先にあるのは──霊園だ。王国に貢献した英霊や過去の王族の墓地がある場所。そこにはつい最近、新たなる墓所が追加された。

霊園の、更に外れ。それがある場所をエルメスは訪れて……

「エル?」「お、奇遇だな。お前も来たのか」

また、見知った顔に出会った。

「カティア様。師匠」

自らの主人と師。二人がここに居ることが意外で、エルメスは思わず声を上げる。

「どうしてこちらに?」

「んー? ま、多分お前と似たようなもんだ。……一度くらいは、顔を出しておくべきだと思ってな」

「ええ、私も。……お父様の代わり、というわけではないけれど」

そう二人が話す眼前にあるのは、三つの墓標。

名は、刻まれていない。刻むわけにはいかない名前だということもあるが……それに加えて、『彼ら』が、刻まれること自体を望まないだろうと思ったからだ。

よって、そこに名はなく。代わりに、この一文が彫られている。

──『強き者、ここに眠る』と。

そう。この三つの墓所は、先の戦いで激戦を繰り広げ……結果として命を落とした、『組織』の三人。オルテシア、ラプラス、クロノの三人の墓だ。

そもそも埋葬されること自体、彼らは望まなかったかもしれない。けれど、この先を生きる自分たちにとってのけじめとして。そして──王国史において、図らずも重要な役目をした彼らの魂を。粗雑に扱うことは、誇りが許さなかったから。

このように名を明かさず埋葬することを、自分たちで決めたのだ。

「…………」

そんな彼らに対して、エルメスたち三人は三様の、様々な感情を含んだ沈黙で彼らについて各々心の中で整理をつけたのち。エルメスは二人に、これからのことを問う。

カティアは、トラーキア家当主となった。先代のユルゲンがああなった以上当主は続けられないため必然、という形になる。

急な仕事が増えて今は手一杯だろうが、それを踏まえた上での王家のサポート、そして何より──カティアの下につく形となったユルゲンの助言もあって、今のところはうまくやれそうとのこと。

そのユルゲンに関してだが、彼も何かを乗り越えた様子で変な考えを抱いている様子はない。以前王宮でリリアーナに言われた通り、今後は生涯をかけて王国に尽くし、罪を償っていく心持なのだろう。

……とは言え。全員に何事もなく受け入れられたかと言うとそうではなく、むしろ受け入れていない筆頭が今まさにカティアの隣で腕を組んでいたりする。

「ローズ様。……お父様のことは、まだ許せませんか?」

「当たり前だろ。あいつはあたしたちが一番大事にしていたことを破った。殺していないだけ感謝して欲しいくらいだ。向こう一年は口きいてやらん」

「一年で済ませるなら師匠にしては有情ですね」

「そうなの!?」

実際、ローズの性格をよく知るエルメスからすれば彼女がこれでも相当に譲歩していると分かる。師弟の不思議な共通認識に、カティアが驚きの声の後首を傾げるのだった。

そんなローズは、現在リリアーナのアドバイス役兼護衛として王都に残っている。

未だ彼女を怯えの目で見る貴族は多いし、彼女の性格からしてやるべきことをやったらまた住居へと戻ってしまうものと思っていたが。

「流石にこの状況で姪っ子を見捨てるほど薄情じゃないさ。それに……」

ローズはそう告げたのち、続けて。

「あたしが嫌いだったのは、今までの王都だ。その嫌いな国を、お前たちが変えてくれるんだろう? だとすれば、しばらく王都に居るのもやぶさかではないぞ」

と。慈愛に満ちた微笑みで、そう言ってくれたのだった。

さらにもう一つ。カティアから、一つやろうと思っていることの話を聞いた。

「記録を、書こうと思うの」

「記録ですか?」

「ええ。きっと公にはできない、王家のみに伝えられる記録になるだろうけれど……この国に起こったこと。『組織』の彼らが、どんな理念を持ってどのような活動をして、結果どうなったのか。それを、包み隠さず事実として」

「!」

「きっと私が適任よ。何せ身内に生き証人が居るんだもの。お父様にも話を聞いて、可能な限り事実を記したものを書くべきだと思うの。かつてこの国になにが起きたか、生まれ持った魔法だけに頼り切ってしまった結果何が起こったのか。後の国の人が、同じ過ちを決して繰り返さないように」

「……そうですね。それは、必要なことだと思います」

まぁ、今は公爵家が忙しいからいつになるか分からないけれど、とカティアが苦笑する。けれど、やろうと決めていることは事実のようで。

王都に戻ってから、一番近くで見てきた少女の確かな成長を最後に目にして。これも穏やかな心持ちで、エルメスは霊園を後にするのだった。