作品タイトル不明
187話 戦乱の終わり、一つの裁き
その後。
トップを失ったことにより、実質的に『組織』は瓦解。王都に残っている残党たちも烏合の衆と化し、王都に攻め上がっていた第三王女派の手によって残らず討伐された。
かくして、ユースティア王国史上未曾有の混乱を引き起こした、王都を狙った魔法による大量殺戮テロ。加えてそれも含めたテロ組織による破壊行動は、組織の終焉をもってして終了した。
そこからは、復興の時間だ。
まずは未だ死霊の行進による爪痕が多く残る王都の復興、それに適した血統魔法の持ち主が大急ぎで重要施設から再建を始めている。
続けて政治的な混乱からの回復だが、これは国王フリードが生き残っていることが幸いした。皮肉にも、地下深くに幽閉されていたことによって死霊の行進に巻き込まれなかった形となる。
けれど、長い幽閉生活によってフリードは衰弱。政務を行える状態ではなく、結果的に国王代理として……更に言うなら、ほぼそのまま次期国王として確定する王家の人間を、彼女以外いないという理由もあってだがフリード自ら指名した。
そのような形で、今の王国はとにかく回復に追われている。
脅威が居なくなった以上……組織の主だった人間が軒並み死亡したことからも当然だろう。
──だが。そう、ただ一人。
間違いなくこの王都で起きた事件の主犯でありながら、生き残っている人間が唯一存在する。
その人間、王国史に残る大罪人を手ずから裁くこと。それが、国王代理である彼女の最初の大きな仕事と相なるのだった。
「──では、前へ」
玉座の間にて。
この国でただ一人座ることを許された座に、正当な権利を持って座る彼女。
リリアーナ・ヨーゼフ・フォン・ユースティアは。可憐な容姿と、けれどそれに加えて確かな威厳も宿した声色で玉座の下に声をかける。
後ろに控えるは、『空の魔女』ローズ。彼女の推薦と国王フリードの宣言により、驚くほど反発なくリリアーナはそこに座っていた。それは紛れもなく、二人の力だけでなくリリアーナ自身の功績でもあるだろう。
そんな、幼さに見合わぬ貫禄のある声に導かれ。
罪人──ユルゲン・フォン・トラーキアが姿を現す。
現在玉座の間に居るのは、リリアーナとユルゲン、ローズ。それに加えて第三王女派の主だった人間と、国の僅かな高官のみ。
故に、隠し立てすべきことは何もない。
……そのため。これから彼女が告げることは、彼女自身の言葉。周りの人間に言われるがままの言葉ではない、彼女が王者として考えたこと。
それを、全員が踏まえた上で。リリアーナが、大罪人に対し口を開く。
「ユルゲン・フォン・トラーキア。あなたは、この王国の破壊を目論む『組織』にそうと知りながら協力し。あろうことか自らの意思で、自らの魔法で以て多くの貴族の命を奪った。間違いありませんね」
「はい。リリアーナ国王代理」
「……それは、決して許されない大逆です。貴族としても、人としても。やってはならない大罪であり、考えうる限りの責苦をもたらしあなたの命を奪うことに反対するものは誰もいないでしょう。いいえ、国としても間違いなくそうすべきです」
その、誰もが首を縦に振る前提を告げた上で。
「──ですが」
リリアーナは、こう続ける。
「他ならぬその結果をもたらしたあなたも知っての通り。現在王都は、そして王国は未曾有の混乱期にあります。一刻も早く王都を元に戻し、そして二度とこのようなことが起こらないよう新しく国を作り直す必要があります」
「……」
「そのためには、多くの人手が要るのです。働いてくれる人員は、とりわけ優秀な人間の存在は。今この国が喉から手が出るほど欲すものであり、いくら居ても足りません」
「……!」
そこで、軽い驚きと共に顔を上げたユルゲンに。
ここまで言えばあなたなら分かりますね、とリリアーナは。
「国としては、大罪人としてあなたの命を奪うべき。それを戒めとし、散って行った貴族たちへの手向けとすべきである。けれど、国の現状がそれを許さない。優れた人間は一人でも欲しい。
──分かりますね。今この国は、 あなたほど(・・・・・) 優秀な(・・・) 人間を(・・・) むざむざ(・・・・) 処刑するような(・・・・・・・) 贅沢が(・・・) 許される(・・・・) 状況に(・・・) ないのです(・・・・・) 」
考えなしの処刑ではなく。感情に流された結果の恩赦でもなく。
あくまで、国のことを考えた上での処刑の撤回を、リリアーナは提案する。
「裁きを言い渡します。あなたは殺しません。殺さず、その優れた手腕を今後の国のために余す所なく使っていただきます。
そのための手段も用意しました。……エルメス、あれを」
「はい、リリアーナ様」
声に合わせて、リリアーナの後ろから現れるのはエルメス。組織の首魁を討った人間。紛れもなく、この戦いの英雄と名実ともに呼ばれるようになった少年。
そんな彼は、もはや彼の代名詞となった翡翠の文字盤を起動。合わせて詠唱を紡ぎ、掌の上に魔法陣を顕現させる。
「……それは?」
「エルメスが、こちらの『空の魔女』ローズと共同で開発した魔法です。
効果は完全な隷属。この魔法陣をあなたが受け入れ、首に刻まれた瞬間から、あなたは私に絶対服従となります。解除できるのは、術者であるエルメスとローズのみ」
周囲の人間が息を呑んだ。そんな恐ろしい魔法を作る、エルメスとローズに対して。
……けれど、事情を知るものは理解する。彼がどんな想いでこの魔法を作ったのか。
通常ならば即刻処刑となるほどの罪を犯したユルゲンの命を、繋ぐため。周囲を納得させるだけの理屈を形にするために、そして『彼女』に父まで喪わせないために。そんな想いを以て、作り上げられた魔法なのだと。
「ユルゲン、選びなさい。処刑による死か、生きてこの魔法を受け入れ、私の手足となりこの国の新たな礎を作るか」
そんなエルメスの魔法に込めた想いも、告げられたリリアーナの言葉も理解して。
ユルゲンは、万感の想いと共に再び跪く。
「……魔法を、受け入れます。寛大な御心に感謝を、リリアーナ様」
かくして、王国の闇を知り故に王都を襲った大罪人の彼は。
命を繋ぎ、かつて彼の妻が目指した国を作る道へと戻ることになった。
……彼も含めて。彼女の臣下の、多くがそう望んだ通りに。