軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186話 世界を壊した悪童たち

……そうして、残された二人の間に。

しばし、沈黙が流れる。けれど互いに残された時間もそう多くはない。

故に、クロノがまず口を開く。

「……だめ、だったね」

「ああ、色々あったが結果は完敗だ」

「やはり、国を壊すというのは難しいね。当たり前だけど、その国の大半が敵に回るんだから仕方ない。ユースティアのような国でも、それは例外ではなかったみたいだ」

「その言い方は嫌だな。俺は、俺らは『国』なんて曖昧なもんに負けたんじゃねぇ。

──あいつらに。エルメスたちに、負けたんだ。あいつらが、俺らより強かった。俺らの敗因は、それだけだ」

そんなラプラスの言い分に。……今までの彼からは中々に想像し難い潔さを持った言葉に、クロノも思わず笑みが溢れる。

自分と同じように、彼もあの少年に影響を受けたのだ。それが、何となく嬉しかったから。

だから、問うべきことはもう一つだけ。

「ラプラス」

「何だ?」

「……楽しかったかい?」

それは、これまでの自分たちの全部。

路地裏で出会った時から始まり、壮大な夢を描いてその成就一歩手前まで行き、最後は叶わなかった。これまで歩んできた、二人の旅路の全てに対して。

込められたそんな意味を理解したラプラスは、彼らしく笑って。

「……まぁ、悪くはなかったんじゃねぇの?」

それが、最大級の言葉だと知っているから。

クロノも満足そうに笑って、頷いた。

さて。語るべきことはなくなってしまったが、もう少しだけ時間は残っている。

……では、最後はやはり自分たちらしく、久々にくだらない話でも。

「そういえばラプラス、知っているかい?」

「何をだ?」

「私たちが、この先どうなるか。死んだ後に、どこに行くのか」

「……あー」

ラプラスがしばしの沈黙ののち、こう告げる。

「俺はなー、今まで死後の世界とか全然信じてなかったタイプなんだが」

「うん」

「どうもトラーキアの奴の魔法とか見る限り、あってもおかしくないと最近は思ってる。なんかそういう知識とかあんのか? この国だけじゃねぇ、あんたの行ってたらしい外国ではまた違った情報があったりすんのか?」

「ああ。面白いものとしては、東方の国の教えでね」

予想通りの返答が返ってきて、クロノも語り始める。

「どうやら生前の行いによって、死後行く場所が変わるらしい。善きことをした人間は全てが救われる素晴らしい世界に。そして私たちのような悪いことをした人間は……」

楽しそうに、笑いながら。

「……地の底に落ちて、それはそれは恐ろしい責苦を延々と受けさせられるらしいよ?」

「へぇ。例えば?」

「針の山に串刺しにされたり」

「凝りすぎだろ。メンテナンスが大変だろうがどう考えても」

「煮えたぎる血の池に沈まされたり」

「なんで血なんだよ普通に水かせめて油でいいだろ。調達が大変だし腐るし補充も難しいし、何のメリットがあんだよ血にすることに」

「岩山に無限の時間座らされたり」

「急にスケールダウンしたな、考えた奴のネタが尽きたか?」

全くもって仰る通り、とクロノがまた笑って続ける。

「加えて、そこは一つの国として機能しているらしい。頭に禍々しい角の生えた大男たちが官吏として囚人たちの罰を運営し、その官吏たちを従え罰を言い渡す大王がいるとか」

「へぇ? じゃあ死んだ後やること決まったな」

それを聞いたラプラスが、にやりと口の端を歪ませ告げる。

「── その国をぶっ壊そうぜ(・・・・・・・・・・) 。現世で出来なかった分のリベンジだ」

「君ならそう言うと思ったよ、具体的にはどうする?」

「まず、官吏の奴らが罰を運営してるってことはそいつら武器持ってるだろ? それを奪う、或いは針山の罰の場所から現地調達してもいい。それで武器を揃えて、次は不満持ってる囚人どもを焚き付ける。後はその暴力か内部不満も洗い出して、官吏を寝返らせりゃ勝ち確だ。悪党どもの国なんてすぐに崩壊するぜ」

「その後は?」

「そいつらが輪廻転生も担ってんなら、大王とやらを脅して俺たちは記憶を持ったまままた生まれ直すのもいいな。そんで、また片っ端から壊すべきもんを壊しまくろう」

「ははっ、君は本当に悪いやつだな」

「何言ってんだ今更」

そのまま、彼らは語り合う。碌でもないことを、心底楽しく。己の想いのままに、かつて出会った子供の時の、たった二人の悪童たちに戻ったように。

ただただ、無邪気にそうしていられた時のように。

語って、語って、語り尽くして……

「……あぁ、そろそろか」

「そうだね、私ものようだ」

やがて、視界が霞んできた。

完全に見えなくなってしまう前に、クロノは拳を横に突き出す。

程なくして、同じく拳が合わせられる気配。子供の頃からずっと変わらない、彼らの悪巧みを、大作戦を始める時の合図。

「じゃあ、行こうか」

「ああ。俺たちなら……これからも、何だって……」

そうして、静かに二人同時に目を閉じて。

クロノと、ラプラス。

ユースティア王国が生んだ、負の怪物。規格外の魔法と才能をもって破壊の限りを尽くした、王国史上最大の犯罪者集団の頂点の二人。

けれど、彼らは確かに王国の新生に必要で。

己の想いと願いのまま、最後まで誰にも屈することなく。

自分たちの生を、生き様を。最後の最後まで、貫き通して──

──ここに、王国の古き法は壊れ。

新しき星が生まれた史上最大の争乱は、終結した。