軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185話 決着、継承

最後の拳が当たった瞬間。決着だと、理解した。

それを証明するように、クロノの体が崩れ落ちる。

残る力で受け止め、同時に分かってしまった。今のエルメスの一撃が、クロノの力だけでなく。尽きつつあった命の灯火にも、とどめを刺してしまったことを。

「──ぁ」

「君のせいではないよ」

そんなエルメスに向かって、もたれかかったクロノは優しく告げる。

「もとより、創世魔法を無理に使った私の寿命は長くなかった。

……君も分かっていたのだろう? 放っておいても、そう遠くないうちに私の命は尽きていたと。分かっていたからこそ、このような決着の場を用意してくれたんだ」

「……」

「そんな君に、恨みは一切ない。むしろ感謝しかないよ。君が殺したわけではない、私の我儘に付き合ってくれただけなのだから」

「いえ、いいえ」

それが気遣いの言葉だと分かっている。だからこそ、エルメスも首を振って否定する。

「それでも、乗ったのは僕で。とどめを刺したのも僕です。

僕が貴方を殺した。そう事実として受け止め、刻まなければならない。そう思います」

エルメスは、これまで殺人を犯したことはない。

ローズに止められていたからだ。感情を失い、それに基づく倫理観も曖昧になっていたエルメスが殺戮者の道に行かないようにとの配慮で、それだけは固く禁じられていた。

だから、きっとこれが。エルメスにとっての、初めての意図した人殺しだ。

自分が、クロノを殺した。この素晴らしい想いを持った存在を。このおかしな国で唯一真っ当な価値観を持ち続けた偉人を、自分が。

それを思うと、自然と流れてくるものがあって。

「……泣いているのかい?」

辛うじて立つクロノが緩やかに問いかけ。エルメスも頬を伝うそれを自覚して頷く。

「……すみません。なぜ泣いているのか、自分でも曖昧なんですが、それでも……」

この涙は、何の感情によるものか。

一人の素晴らしい魔法使いの喪失を悼んでいるのか、それを自らが奪った事実の重さと大きさに恐怖しているのか、或いは別の感情か。

それを明確に言語化するには、エルメスはまだ幼すぎて。

その感情と葛藤を、クロノも正確に理解したのだろう。彼も敢えて言葉にすることはなく、代わりに別のことを告げる。

「……君に、渡さなければならないものがあるね」

「え……?」

困惑するエルメスに、クロノは何事かを呟く。

すると、彼の胸元からどこか静謐で神秘的な色を湛えた光がふわりと出てきた。

「これ、は……?」

「第六創世魔法、『 ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎(アルス・マグナ) 』。その、基型のようなものだよ」

それはクロノからエルメスのもとに移動すると、エルメスの胸に吸い込まれて。

そのまま、彼の中に──より正確には彼の持っている『 原初の碑文(エメラルド・タブレット) 』の中に収まった。

「これで、創世魔法は継承された。今の君では真価を解放することはできないかもしれないが……君であれば、いつか必ず。その領域に辿り着くだろう」

託してくれたのだ。異なる想いの持ち主に、敵対した相手に。だからこその敬意と、その道行に対する期待を込めて。

その意味を噛み締め、内に入った創世魔法を意識するエルメスに対し。

これで本当にやることはなくなったと、どこか安堵したような息を吐く。

「やるべきことは、できたかな。……では、エルメス君。最後のお願いだ」

「……はい」

「ラプラスのところに、連れて行ってくれるかい。申し訳ないがもう一歩動く力すらないんだ、驚くべきことにまだ意識があるらしい彼のところに。最後は、彼と語らって終わりたい」

「……分かり、ました」

聞き届けたエルメスが、クロノを担いで歩き出す。壁際にいるラプラス、その隣に腰掛けさせる。

言った通りまだ意識を残している様子のラプラスが、そんなエルメスの行動を揶揄するように、けれど満足げに口元を歪めて見守っていた。

そうして、組織の二人を置いて。最後に一礼をしたのち、エルメスは踵を返す。

涙は拭って、背筋を伸ばし。そして何より、後ろは振り返らず。

そんな彼に向かって、歩み寄ってきたローズが告げる。

「もういいのか?」

「はい。組織は、ここに壊滅しました。戦いは終わりです、ここでやることはもうない。

……あとは、あの二人だけの時間です」

そう言い切るエルメスに、ローズも微笑んで。

そのまま、二人並んで歩き出す。

彼の仲間達を伴って、地下から地上へ。暗い闇の世界から、光差す世界へ。

過去から、未来へ。それが、勝者の義務であるから。

未来を望んだ子供達が、光の中へと消えていった。