軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

181話 魔法の天才・2

「なん……ですか、あなたは」

『天使』が。

信じられないものを見ているような表情で、ラプラスに告げる。

彼女ですら分かったのだろう、今の異質な様子が。

ラプラスはそのまま、ゆるりと手を向けて。

「……『 悪神の篝幕(ゴエティア) 』」

不敵に、告げる。

「──『 ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎(アルス・トロギア) 』 を拒絶しろ(・・・・・) 」

『────』

その場の。

全ての人間の思考が、一度空白になり。

瞬間、激甚な効果が現れた。

「な────ッ!?」

空間が震えるほどの魔力の胎動と共に、『天使』が苦悶の声を上げた。

その様子から……どうやら、ラプラスの言った通りの出来事が起こっているのは明らかで。

「はッ、思ったよりも簡単だなぁおい!」

それを証明するように、ラプラスが笑った。

「単純な話だ! その第四創世魔法が俺たちの不利なように働く元凶なら、そいつが俺たちの魔法を制限してるなら!

── その魔法そのものを(・・・・・・・・・) 阻害しちまえば良い(・・・・・・・・・) ! タネが分かれば簡単な話、何が世界を創った魔法だ! ちょいと上等な妨害装置ってだけじゃねぇか!」

「っ、創世魔法を、なんだと──!」

こればかりは、『天使』の言う通りだ。

奇しくも先刻同じ方向性で妨害しようとしたエルメスだからこそ分かる。あれは神の魔法であるが故に、それ以外の魔法による干渉に対しては相当の耐性を誇る。

ラプラスが今言ったことは完全な机上論であり、本来なら不可能。

それを可能にしているのは、今のラプラスがもつ意味不明なレベルの魔法出力。

つい先程までは、ラプラスの魔法はこんな威力を持っていなかったはずだ。

一体何が──とエルメスが疑問に辿り着くと同時に、『天使』も同様の声を上げる。

「っ、な──んですかあなたは! ただの人の身でこれほどの魔法出力など! そもそもあなたの魔法は、先程までこのような力は持っていなかったはず! 何をしたのです!」

「は、知らねぇのか天使サマ! 人の魔法が、血統魔法が急激にパワーアップする理屈なんて一つしかねぇんだよ!」

対してラプラスは、宣言通り簡単な種明かしを。

「──『想い』だよ」

そう、言い切る。

「単純にあんたがムカついたのさ、俺史上過去最高にな!

俺たちの想いの結晶を、破滅の願いの具現を! 対等に戦う人間でも守るために真正面からぶつかってくる奴らでもなく、ぽっと出の意味分かんねぇ存在が上から目線で勝手に救って全部なかったことにするだぁ!? お呼びじゃねぇんだよそんな奴は!」

「!」

「だから死んでもテメェだけは止めてやる! そう願ったらめちゃくちゃ魔法が上手く行った! 単純な話だ、天使サマとあろう方がそんなこともわかんねぇのか!?」

「そ、んな、馬鹿げた──!」

……エルメスも、信じられなかった。

ラプラスの言葉を信じるなら、単純に今の彼の状態は、自分の心からの想いと願いを見つけたが故の魔法の強化。ただ、それだけのこと。

つまり、それは。今までの、彼は。

── 心からの確固たる(・・・・・・・・) 願いなしで(・・・・・) 、 あそこまで(・・・・・) 強かったのか(・・・・・・) ?

……先刻感じた彼への評価を撤回する。

ラプラスは、エルメスと同等の才能の持ち主などではない。

エルメスすら、はるかに超える。正真正銘、王国史上最高の魔法の天才だ。

その、彼は。覚醒したラプラスは。自らを見つけた高揚と共に続ける。

「許せるわけねぇよなぁ! 俺たちの戦いは、俺たちだけがどうにかする権利を持ってんだ! 天使だろうがなんだろうが、外野がどうこうして良いもんじゃねぇんだよ! 勝ちも負けも、善も悪も、全部! 俺たちがぶつかって、俺たちが決めるもんだ!」

「あ──」

「どんな事情があろうと、勝手に手ぇ突っ込んで弄って良いわけねぇだろ! 何が天使だ、 神サマに(・・・・) 見捨てられた(・・・・・・) 分際で! 神と同じ立場に立てなかったからって下等生物の場所に入ってオーバースペックで無双でもしてぇのか!? 子供の遊び場に割って入る大人とおんなじだ、恥ずかしくねぇのかバーカ!!」

「き、さま──!!」

前半の言葉は、エルメスに響いて。

そして後半の挑発に、『天使』がこれまでの冷静さをかなぐり捨てて猛る。

「あなたは、この先の善き国に相応しくない! 消えなさい!!」

「が──ッ」

その勢いのまま、手掌を一発。凄まじい衝撃が吹き荒れ、直撃を受けたラプラスの体がのけぞる。

が、その直後。顔を戻したラプラスが口から血を吐きながらも凄絶な笑みを見せ。

「── 制御が緩んだな(・・・・・・・) ?」

「! しま──っ」

そう、言った瞬間。

空間の脈動が、一際大きくなり。そこから、今までずっと空間を支配していた嫌な感覚が消えた。これは……と直感した瞬間に、続けてラプラスの声。

「今だ! 第四創世魔法が効かなくなった! 一気に畳みかけろ!!」

その言葉を聞くと同時に、三人が動き出した。

「術式再演──『 火天審判(アフラ・マズダ) 』!」

「『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』──【 見えざる巨人(ユピトラクティア) 】!」

「『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』! はぁあ──ッ!」

エルメスが、ローズが、ルキウスが。

それぞれ炎の魔法、限定解放による上からの重圧、強化魔法の一点集中による神速の剣。これまで出来なかった最大火力で一斉に攻撃を仕掛ける。

「──!」

三つともが直撃し。

同時に──確かに、何かを削った手応え。

「いける!」

ローズが叫んだ。

「今の調子だ! 確実に今奴の魔力を削った! これを続けろ!」

間違いなくここが、唯一にして最大の勝機。

それを確認し、これに全てを懸けて。全員が一斉に攻撃を再開した。

『天使』もさるもの。

ローズ、エルメス、ルキウスの猛攻に晒され、顕現のための力を確実に削りながらも反撃の手筈を整える。

狙いは言うまでもなく──

「返しなさい! 私の、創世魔法を──!」

現状を作り出している最大要因であるラプラス。人智を超えた力の全てを注ぎ込んで、拒絶され無効化されている第四創世魔法の制御を奪い返しにかかる。

「ッ、ぐ、あァ──!!」

──しかし、崩せない。

どれだけ引っ張ろうとも、それを僅かに上回る力をどこからか持ってこられて拮抗させられる。奪い返すことが、どうしても出来ない。

何故だ。たかが人間一人如きと互角などそんなものあり得ない。なんのからくりが──と疑念に思ったところで、『天使』は気付く。

ラプラスの肉体、否、魂から何かが流出し、それがそのまま尋常ならざる力となってラプラスの補助になっていることを。

「あ、なた──まさか、自身の生命をも魔力に──!?」

その言葉に、聞いていたエルメスも瞠目する。

けれど、ラプラスは笑みを崩さず。

「それがどうした! 言ったろうが死んでもテメェだけは止めるってよ! 俺は有言実行する男なんでね、おら天使サマ急げよ、モタモタしてると限界が来るぞ!」

王国史上最強の天才が、自分の全てを。全身全霊、加えて命までもを懸けることで成立した奇跡。『天使』と単騎で張り合うという紛れもなき偉業。

……そのために犠牲にしているものに、エルメスも思うところはある。

けれど止めることはできない、止められる余裕もないし資格もない。故に、その決断と意思と力に敬意を払い、彼もやるべきことに集中する。

『天使』への、攻撃を続ける。ローズ、ルキウスも同じ思いで、ひたすら最大火力を叩き込み続ける。

「く──! こんな、こんな──! あり得ません!」

『天使』の声が、これまでにない焦りを帯び始める。

どうやら腹芸は得意ではないらしい。確実に顕現限界が近いと悟って更に攻勢を強めるエルメスたちを他所に、『天使』は喚いて。

「このようなこと! 人の子に、やるべきことを防がれるなど──!」

「はっはァ、本性現したなぁ天使サマよ!」

それに対して、ラプラスは尚も笑みを深めて。

「所詮アンタはそうだ、どこまで行っても俺たちを下に見てんだ! 対等だと思ってねぇ、どこまで行っても上から目線で! だからんなことが言えるんだ、だから噛み付かれるんだ! 敢えて言ってやるぜ、人間全員、お前らなんぞお呼びじゃねぇよ!!」

「っ、ァあああ──!!」

止まらない煽りの言葉に、更に天使は冷静さをなくす。

……エルメスも、これにばかりは同意だ。

故にこそ、更に天使に対する攻撃も込みで。彼も口を開く。

「はい。僕も想いは同じです」

「な──!?」

『天使』が気にかけている自分の言葉なら、尚更聞くだろうとの思惑通りに。

「正直僕も、無意識にあなたと同じ考えの時期がありました。

けれど、違う。善きも悪しきも関係ない、そもそもそれ自体が人の枠組みでしかない。想いは、それがどんなものであろうと。対等に扱い、対等にぶつかって、その上で通さなければならないものなんです」

そして皮肉にも、ラプラスから学んだような言い回しで。

「想いの優劣の決めつけ。あなたを見たおかげで、それが如何に愚かか気づけました。

──善き反面教師になっていただきありがとうございます、天使様」

「ッ! こ、のォ──!」

エルメスからも否定され、感情が乱れる。結果魔法の制御が乱れ、扱う力も無駄が多くなり、それが更に限界を早めることに繋がる。

最後までその悪循環から抜け出せず──いよいよ、その時がやってきた。

「ッ!!」

遂に限界。それを悟って、ようやく冷静になったのか。

『天使』が残る力を使い、一気に解放。その勢いでエルメスたちを丸ごと怯ませ、ラプラスに襲いかかる。

エルメスたちの驚いた表情に、この不意打ちが決まったと確信。とにかくラプラスさえ殺して第四創世魔法の制御さえ取り戻せば、残り僅かな力でもどうとでもなる。

その確信のもと、大逆転をすべく『天使』は手を伸ばして──

「──『 ◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎(アルス・マグナ) 』」

──その後方から。

響いてきた魔法銘。自分のものとは違う創世魔法の響きに。

完全に虚を突かれ、瞠目する。

ラプラスの更に後ろに目を向けると、そこには──見たことのない、不敵な笑顔を浮かべた黒髪の青年が手を伸ばしていて。

「クロノ・フォン・フェイブラッド……!」

「最高だ、ボス」

瞬間。

創世魔法の加護を受け、ラプラスの力が跳ね上がる。

通常でも『天使』と拮抗していた彼が更にその補助を貰えば、結果はどうなるかなんて誰の目にも明らかだ。

拒絶の力が、全てを飲み込む。

綱引きをしていた第四創世魔法すら飲み込み、それだけに飽き足らず『天使』本体にも致命の一撃となって襲いかかる。

「わざわざ近づいてくれてありがとよ」

ラプラスを殺すため手の届く距離に来てしまった『天使』に、それを避ける術はない。

掌底がラプラスの体を打ち据えると同時に、魔法の力が一気に燃え上がり──

「終わりだ。お家に帰りな、クソ天使──!!」

絶対的な拒絶の力が。

善き国を狙った怪物の残った力ごと、余すところなく飲み込みきった。