軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180話 空隙

『天使』の攻撃が迫る。

「──ッ!」

辛うじてそれを躱し、追撃を避けるために魔弾を放つエルメス。

けれどその結果は同じ、追撃には来ないものの全くダメージを与えられた様子はない。

(これは……本格的に、まずい……!)

元々、組織との連戦で魔力も体力も限界に近かったのだ。

万全でも戦えるかどうか分からない怪物に、こんなコンディションで挑まされる不運──否、その『不運』を強制するのが彼女の魔法なのだ。

その影響によって、いよいよ体が思うように動かなくなってきた。

一息つくことも許されず荒い息を吐くエルメスに……そこで、『天使』が。

「…………何故、そこまで抗うのです?」

本当に心底から理解ができない、といった表情と声色で。

「あなたたちに悪いことは、何もないでしょう? 元々あなたたちが戦っていた悪しき存在は、私は代わりに滅します。王国は存続しますし、それ以降も同様の存在に悩まされることがもうないのです。なのに、何故」

「……それは、その通りなのでしょう」

エルメスは返答する。先刻よりも、よりはっきりとした想いを込めて。

「あなたに任せれば、きっと『善い国』を創ってくれるのでしょう。対立する想いの持ち主に苦労することもなく、誰も苦しむこともなく。嫌な想いを見ることも感じることも、全て消し去ってくれるのでしょう」

「そうですよ。だから」

「でも!」

故に、『天使』の声を遮って。エルメスは強く、訴える。

「それでも、やはり! それは、違うと思うのです。悪と呼ばれる思いであっても、それが発展に寄与しない想いであっても!

なかったことにする(・・・・・・・・・) のは、絶対に違う! それは、上位者に委ねて良いものではない。僕たちが、人間がちゃんと向き合って──乗り越えるべきものだと、思うのです!」

ああ、そうだと。エルメスも言い切ってようやく、その答えを得た。

ラプラスやクロノが抱いているような、破滅の願い。破壊の想い。

それは──きっと、誰もが抱きうるものだ。なくしてしまっては、それは人ではないのだ。

だから……エルメスたち人が、人のまま進んでいくためにも。それは無視をして良いものでも、誰かに解決を丸投げして良いものでもない。

他でもない自分たちが、真正面からぶつかるべき想いなのだ。

そのことに──ここまでの旅を経て。エルメスは、ようやく気づけた。

……けれど。

「…………やはり、分かりませんね」

それを、『天使』は。上位者であるが故に、理解しない。

「あなたも、恐らく悪しき想いに毒されているのでしょう。確かあなたも再現とは言え悪しき魔法を使っていましたからね。

──分かりました。彼らを滅した後は、あなたの中のその悪しき魔法もしっかりと滅することにいたします。だから、安心して」

そのまま、慈愛に満ちた笑みを取り戻し、こちらに再度手を伸ばしてくる。

「っ!」

捕まるわけにはいかない。引くわけにはいかない。

けれど、現状この『天使』に対抗する手段が見当たらない。自分以外ももう限界だ、ローズとルキウスも体力が尽きかけているし、何よりずっとサポートしているサラの魔力が一番危ない。彼女の回復が尽きれば即座に崩される。

今のままでは、詰みの状況まで秒読みだ。

ならば、ならば。

(── その上で対抗策を(・・・・・・・・) 見つける(・・・・) 。それが、僕の役割だ……!)

意識を切り替える。

そうだ、エルメスの特技は解析。勝ち目が見えない相手に対しても、情報を集めて分析を重ね、対応し打倒する。

ここまでもそれで勝ってきた。今回もそれをするだけだ。戦いが始まってから数分、もう十分情報は集まっただろう。それを元に、対策を考えろ。

(まず……どこを崩すべきだ?)

どこを崩すか。どこを崩すのが有効か──言い換えれば、今の『天使』の戦闘の中で一番厄介なものは何か?

理不尽なまでの膂力? これは現状避けれる範囲だ。では顕現限界時間が不明なこと? それも気になるが、根本的解決にはならない。

となるとやはり、最も対策すべきは──

(──第四創世魔法。これが一番の問題だ)

やはり、これだろう。

彼女の扱う創世魔法によって、使える魔法が制限されている。これが一番の問題だ。戦術の幅が恐ろしく制限されているため、有効な対策をそもそも取れない。

であれば、そこを崩さないことには何も始まらない。ならどうする?

(……それだ。そもそも僕たちの今まで知らない魔法である以上、再現もまず不可能。だからどうしようもない、創世魔法だから──待て)

だが、そこで。

(創世、 魔法(・・) ?)

奇しくも、自分の思考の中の単語に引っ掛かりを覚えて。

それをきっかけに、一気に彼の中で一つのアイデアが身を結ぶ。

できるか。いや、少なくともやってみる価値はある。

その確信のもと、エルメスはとある行動を開始した。

「っ! ごめん、なさい──!」

いよいよサラの魔力が尽きた。

これまで戦況を支えてきた回復の魔法が切れる。そうなると次に狙われるのは──

「あなたですね」

「くっ!」

ルキウス・フォン・フロダイト。

彼は実力で劣っているわけではないのだが、何より『天使』との相性が最悪にすぎる。戦闘スタイル的に近づくことが必須な以上、最も『天使』の攻撃を受ける機会が多くなってしまうためだ。

これまではサラのサポートを重点的に受けることでそれを補っていたが、そのサラがいなくなった現在なす術はない。

後は詰みの一手だけだ。近接では不運な紛れが起きやすい、第四創世魔法でそれを強制的に起こして体勢を崩し、無防備なところに戦闘不能にする一撃を合わせるだけ。

その確信のもと、『天使』は魔法を動かし──

── 外れた(・・・) 。

「!?」

「!!」

ここで初めて、『天使』の表情に動揺が浮かんだ。

即座にルキウスの反撃が来る。ダメージは受けないものの吹き飛ばされ、くるりと回って着地しながら『天使』は考える。

(今のは……? 第四創世魔法が外れた、というより働かなかった? 無理やり魔法をズラされたような……ああ、そういうことですか)

そして奇しくも、リリアーナの肉体を持ち記憶をある程度共有しているが故に、すぐにその答えへと辿り着き──エルメスを見やる。

「確か、 発動阻害(インターセプト) と言うのでしたか?」

「っ」

問われたエルメスは、苦悶の表情と共にすぐに看破してきた『天使』を見返した。

(くっ、だめだ。 掛かりが浅い(・・・・・・) ……!)

『天使』の洞察は当たっていた。

エルメスが今しがた行ったのは、『 発動阻害(インターセプト) 』。リリアーナが開発した、魔力を紛れ込ませることで相手の魔法を僅かに狂わせる能力。

創世魔法であっても、魔法であることに変わりはない。故に『魔法を使えなくする』という効果であるこれは有効──どころか、通常の魔法とは段違いに複雑な創世魔法だからこそ効くと思ったのだが……

……残念ながら、そう甘くはなかった。

有効なのは見立て通り、だからこそ今の一回は阻害が成功した。だが──その前に立ちはだかったのは、『天使』とエルメスの圧倒的な魔力量の差。

有効だと分かったのは収穫だが、『 発動阻害(インターセプト) 』はあくまで小技である以上それ単体では崩しきれない。

向こうもそれを分かっているのだろう。

「足掻き、ですね。次はありません、今度こそ──」

(く──!)

どうしようもない、と改めての絶望が忍び寄るエルメスに──

「なるほど。 そうすればいいのか(・・・・・・・・・) 」

納得と、自信を持った。

不敵な声が、エルメスの背後から響いた。

「……え?」

振り向くと、そこには。

「よぉエルメス、今のは多分あんたが思っている以上にファインプレーだぞ。だって」

先刻まで、『天使』にやられて戦闘不能になっていたはずの灰色の男。

ラプラスが、静かな笑みを浮かべて立っていた。

「──おかげさまで分かった。あのクソ天使に一発ぶち込む、その方法がよ」

どうしてか、今までと違う。

恐ろしいほど、そして頼もしいほどの、静謐な魔力を宿して。