作品タイトル不明
157話 オルテシア・1
──何一つ、自由のない人生だった。
生まれた時から、自分は王子の良き婚約者になることを至上の価値として定められて。その通りに生きることしか許されることはなくて。
夢見ていた魔法も、自分のものは敵を殲滅することにのみ特化した雷の魔法。周りは素晴らしい護国の力だと誉めそやしたが……自分は、こんなもの欲しくなかった。貴族失格と言われるかもしれないが、もっと──綺麗なものが、欲しかったのだ。
何も、自由なんてなくって。望むことなど、何も許されなくて。周りの圧力と強制に押しつぶされるだけの息苦しい日々で。
『──オルテシアは、将来何になりたい?』
『わたしは……〇〇〇〇がいいな』
その時、何を言ったのか。覚えていられたのがいつまでだったのかも、もう分からなかった。
『神様』に傾倒したのは、復讐の側面もあった。
自分に何一つ自由を与えず、自分の望む魔法を一切に与えない。もし神様というやつが実在するのならば、絶対に正体を突き止めて一発ぶん殴ってやる。
そんな思いで、当時の国王に頼んで教会へと潜り込み。自分なりに魔法について調べて、血統魔法の起源やその他諸々について推測を持って調査と分析を繰り返す、そんな日々の中で。
「よ、面白いことしてんな。第一王子の許嫁様がこんなこと調べてていいのかぁ?」
言っている内容とは裏腹に、声色はそれこそ共犯者を見つけたかのように楽しげな。
そんな調子で声をかける──同年代の魔女に、出会ったのだ。
◆
「あの子は……どこまでも自由だったわ。神様に愛されているとしか思えないくらいの魔法をもらって、『空を飛ぶ』っていう自由の象徴のような魔法を持っていて。本人はどこまでも天衣無縫、で……」
娘が見守る中。
途切れ途切れの声で、オルテシアは初めて語る。彼女の、内側にあるものを。
「そんなの、期待しちゃうじゃない。この、私がどうしようもなかったこの国を何もかも壊してくれるんじゃないかって。……縋って、しまうじゃない」
傾倒していたのが、神様から彼女になるまで。どころか──当時は表に出さなかったが、彼女こそを神様のように扱うまで、時間はかからなかった。
何もかも望むことが許されない日々も、彼女がいてくれれば辛くなかった。自分の代わりにどこまでも自由であってくれる彼女がいてくれるだけで、生きる希望になった。
……それが、あってはならない執着になるまでも、時間はかからなかった。
「…………」
その先を語るのは、オルテシアでも躊躇する。
けれど……もう、最後なのだから。その考えが、これまで固く閉めていた感情の蓋を緩めさせる。
「……あの子が、王様になんてならなくても良かった。ただ……この国を壊して、いつまでもどこまでもずっと自由なあの子のままでいて……」
そうして、オルテシアはただ。
彼女に願っていた、一番の想いを、告げる。
「それで──ただ、私のそばにいてくれれば。それで良かったのよ」
「…………お母、様」
「でも、それは許されないことだった」
きっと、薄々は勘付いていて。
今の戦いではっきり自覚したその事実を口にする。
「あの子は、誰にも縛られない。何にも束縛されない、自由な在り方こそが私が憧れて、そうあって欲しいと思っていた彼女の姿。
なのに、なのに…… そんな(・・・) 彼女が(・・・) 、 私に(・・) だけは(・・・) 縛られて(・・・・) ほしい(・・・) なんて。望んで良い訳が、なかったのよ……!」
「…………」
ライラは、ただ静かにそれを聞いていた。
確かに、許される願いではなかったのだろう。
でも……だから諦めろとか、お前が悪いとか。
そんな言葉で片付けるには──その願いはあまりにも切実で、人間らしすぎた。
そして、彼女がそうなるに至ったこと……そう思わなければ、誰かを神様のように扱わなければ。何かに縋っていなければ、やっていられなかったのだと。
きっと母ほどではないものの、この国の暗い部分を知る人間として──ライラは、それを切って捨てることはできなかった。
それに、ライラとしても初めてだったのだ。
ずっと、常に恐怖の象徴だった。何を考えているのか分からず、ただただ望むものを推測するしかなかった。
そんな母が初めて……その上に、思った以上にずっと人間らしい──言い換えれば共感できてしまう。
そういう願いを語ってくれることに、不思議な感慨を抱く。
「あの子は結局、そんな私から離れた。この国を壊すこともせず、ただ見限って。家族も友達も全部捨てて、自由を求めて旅立っていった」
「……」
「……仕方ないことだったと、理解はできる。でも──そんな理屈で納得できるほど私のあの子への想いは軽くなかった。それで、どうしていいか分からなくて、ただ燃えるような想いだけが渦巻いていた私の元に……」
そうして、災厄の魔女は。
「……あの男が、やってきたの」
引き続き、語っていく。彼女のルーツを、この国の闇を。
そして……恐らくは妹のリリアーナたち、第三王女が欲してやまなかっただろう、『組織』に関する、深い情報を。