作品タイトル不明
156話 灯が消える前に
光の檻が、オルテシアを覆い尽くした後。
一瞬ののち光が霧散し、どさり、と彼女の足元で音。
倒れ伏し、動かないオルテシアを最後に一瞥し──ローズは踵を返す。もう、自分のやることはないとばかりに。
そして、近くの瓦礫を通りざまに……その影に声をかける。
「もう出てきて良いぞ」
「っ」
声を受けて出てきたのは──金の髪に、赤い瞳の少女。
ライラ・ヨーゼフ・フォン・ユースティア。この国の第二王女にして、元教会派の象徴だった少女。
そして……オルテシアの娘。
己の望みのため、許可を得て待機していた彼女に向けて、ローズは声をかける。
「約束通り、話はできるようにした。……だが、悪いな」
続けて、申し訳なさとそれでも譲らぬ信念を宿した声で……告げる。
「──もう長くはない」
「っ!」
事前に聞かされてはいたことだった。でも……改めて。その一言を聞かされて──その意味が分からないほど、ライラは愚鈍ではない。
「恨むか?」
「……いえ。お母様はもう戻れなかった、最初から退路なんて無かった。あのままにしておけば──何度でも同じことをする。それを知っていたから……」
だから、ローズはそこを躊躇わなかった。
彼女自身の信条と覚悟を胸に、オルテシアのその『想い』と真っ向から向き合って──その上で、迷うことなくそのつもりで魔法をぶつけた。
誰かが、やらなければいけないことだったのだ。
それをやってくれたローズに恨みは……全くない、と言えるほど達観なんてできないが、理解を示せるだけの割り切りはある。
「……私がわがままを聞いてもらっている側、というのは理解しているわ。だから……」
「ああ。あたしはもう行く、後はお前が好きなようにしな」
それだけを告げて、ローズはその場を去る。
未だ、王都は混乱の最中にある。彼女も、まだまだやるべきことがあるのだろう。
そうして、残されたライラは。
覚悟を決めて──オルテシアの元へと歩み寄る。
「…………、ライラ…………?」
オルテシアは、虚な瞳で。
強力な魔法使いの生命力でまだ意識はあるものの……それをもってしてももうすぐだと分かる弱々しい声で、告げる。
「……ふふ。娘に看取ってもらえるなんて、随分と幸せ者ね」
「心にもないことは言わなくて良いですよ、お母様」
その皮肉げな声に、ライラは間髪入れずそう答える。
「もう、分かりましたから。お母様が最初から……それこそ生まれた時から私のことは見ていなかったと、ずっと──空の魔女の幻影ばかりを追いかけていたと」
「……」
「……だから、私の聞きたいことは一つです」
もう一度、話をしたい。その願いが叶った時に、話すべきことは決めていた。
「……どうしてそうなってしまったのですか?」
分かり合えることはないだろう。自分の願いが叶うことはないだろう。
ならば……せめて、そうなった理由だけは知りたかった。きっとオルテシアの願いから生まれた身として、それだけは知っておきたかった。
「話す義理がないことは理解しています。でも……虚しくはありませんか? あなたの願いを、あなたの奥底の想いを。誰も知らないままいなくなってしまうのは」
「…………」
「多分、共感はしてあげられませんけれど。聞いたのならば、覚えておくことくらいはします。お望みであれば、何らかの形で遺すことも。……だから」
皮肉にも、教会での生活で培った交渉能力で。
それを母親に使って、聞き出しにかかる。
……それが、通じたのかは分からない。
通じていない可能性の方が高い、でも彼女も最後ということで何かしらの感傷が働いたのかもしれない。
微かな細い吐息ののち、静かに一言。
「…………、そう、ね」
そうして──災厄の魔女は、きっと初めて。
胸の奥底の底に秘めた、彼女の想いと願いを。語り始めた。