軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155話 空の魔女に手を伸ばした魔女

「ふざ……けるなッ!!」

そんな理不尽、認めてなるものかと。

オルテシアは魔力と殺意を高め、今まで以上に魔法を回す。

結果、生まれるのは今までで最大の黒き雷。

総勢八条。ローズにとっては一つかするだけでも致命傷になる威力を持った必殺の雷が、ローズに迫り来て。

──そして、その全てが。

ローズが触れることすらなく、撃ち落とされる。

ああ、やはりそうなのだ。

先刻彼女が語ったことは、何一つ誇張を含んでいない。今のローズは、完全に『見えざる巨人』を支配下に置いている。

であれば、この結果も当然。見えざる巨人──この世の万物に働く、地に縛りつけるために働く力……そう。

雷すらも(・・・・) 下に落とす力(・・・・・・) 。魔法の押し合い云々ではない、そもそもの自然現象における摂理の時点で負けている。

「それ──でもっ!」

止まるわけにはいかない。

その一心でとにかく次の雷を生成するが……当然、ローズはそれを黙って待つほど甘い魔法使いではない。

雷の生成の前に、ローズが用いたのは汎用魔法。

しかし、彼女の汎用魔法は汎用魔法ではない。『 原初の碑文(エメラルド・タブレット) 』の力によって大幅に強化されたそれは、彼女の体の大きさに匹敵するほどの氷塊を生み出し……それを。

「そらよ」

視認すら困難なほどの速度で、撃ち出された。

「──、か」

衝撃すら遅れてやってきた。

一瞬で視界が回転し、全身を覆う激痛。空が見えて──そこでようやく気づく。

直撃し、考えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの勢いで吹き飛ばされたのだと。

それだけで戦闘不能になりうるほどの衝撃。最強格の血統魔法使いに付属する身体強度がなければ余裕で即死に至らしめる、純粋な物理の暴力に襲われた。

……ローズが、今やったこと。

あれはただの汎用魔法ではなく、ただの汎用魔法『だけ』でもない。

巨大な氷塊を生み出すまでが強化汎用魔法、それにさらに加えて、ローズはそれを……『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』の効果を用いて汎用魔法には不可能なほどの速度で弾き出した──言うなればあの魔法を、 見えざる(・・・・) 巨人に(・・・) 投げ(・・) さ(・) せ(・) た(・) のだ。

巨大な質量と、埒外の加速度。それが生み出す意味不明な衝撃力は、魔法使いの肉体強度すら余裕で貫通する。

ただの一撃でボロボロになったオルテシアだが、彼女もさるもの。規格外の魔力による規格外の耐久力で行動不能になるのは避け、なんとか立ちあがろうとするが──

──潰された。

地面に尋常ならざる力で押さえつけられ、弱った体では立ち上がることすらままならない。

……まさか。

今のローズは、見えざる巨人の力を制御し、方向を操作するどころか……

……強化することすら、できると言うのか。

これが、『空の魔女』の本領。

自らが空に立つだけではなく。本気の彼女は、 自分以外が(・・・・・) 空に上がる(・・・・・) ことすら(・・・・) 認め(・・) ない(・・) 。

あまりにも傲慢で、けれどどうしようもなく恐れられる彼女らしい、魔女としての姿。

地面に縛りつける体勢のままなんとか顔を上げ、オルテシアはローズの姿を見る。

中空に立ち、オルテシアを睥睨する彼女。

その姿は、かつてオルテシアが見た、どこまでも自由で遥か遠くを求めている──かつてオルテシアが憧れた通りの、姿。

何も、変わってなどいなかったのだ。

ローズは、ずっとローズのままで。大事な部分、オルテシアが変わって欲しくないと思っていた部分はちゃんとぶれていない、ずっとそうであって欲しいと思った彼女のまま。

ああ、なら──なら、なんで。

「なんで──私の前からいなくなったのよッ!!」

そこで、彼女の想いが。同時に、魔力が溢れ出す。

それで『見えざる巨人』の拘束が緩んで。再度立ち上がって魔力を高めながら、オルテシアは叫ぶ。

「私のそばに……私が見えるところに、あなたがいてくれるだけで……それだけでよかったのに! 私は──ッ」

そうだよ、だから。

だから……認められなかったのだ。自分の前から、自分に何も言わずに消えてしまった彼女が。許せなかったのだ、そんなローゼリア・キルシュ・フォン・ユースティアが。

だから、もう。戦うしかないのだ。

そして気付く。ここまで無敵と思われてきたローズの 魔銘解放(リベラシオン) 、その陥穽に。

今、自分は魔力を高めて放出した。その結果として『見えざる巨人』の圧力が緩んだ。そこから、一つの確信に近い仮説を捻り出す。

(そうよ。いくら規格外の力があったって、誰も敵わないような能力があったって。

── それを(・・・) 動かして(・・・・) いるのは(・・・・) あくまで(・・・・) ローゼリア(・・・・・) の(・) 魔力(・・) 。そこは変わらない!)

であれば、自分の魔法。

自分の魔法と魔力は、ローズの天敵。魔力がぶつかり合った場合はほぼ一方的に自分が勝つ、ならば……

(より濃密に、より高縮度で。私の魔力を込めて魔法を放つ。そうすれば──『見えざる巨人』の干渉も無視できる!)

彼女の魔法は見切った。 魔銘解放(リベラシオン) とて決して無敵ではない、それもオルテシアはラプラスを見て知っている。

自分と自分の魔法は、魔力を強く込めれば向こうの干渉を拒絶可能。あの氷塊の一撃もタイミングは見切った、来ると分かれば魔法をぶつけて弾ける。

あの魔法の弱点だ。元の魔法に込められた願いの影響か、直接攻撃力は弱い。

であれば、あとは互角。どっちの魔法の意地が上回るかの勝負だ。

「そう──だから、私も! 何もかもをかなぐり捨てででも──あなたに並びに、あなたを引き摺り堕としに行くって決めたのよッ!!」

そう吠えて、立ち上がり。

魔力を高め、自分の全てを懸けて黒の雷を装填し。

「……ああ。そうだな」

そんなオルテシアに対して、ローズは。

同じように、魔力を高めて。

「お前はそうするって思ったから……お前だけは、あたしがあたしの手でけりをつけないとって思ったんだよ」

息を吸い(・・・・) 。

唄う(・・) 。

「【 天地(あめつち) 全てを見晴るかす 瞳は泉に 頭顱(とうろ) は贄に 我が位階こそ頂と知れ】」

「………………、は?」

待て。まさか、そんな。

そのような思考を紡ぐのが精一杯のオルテシアに、ローズは躊躇いなく。

「血統魔法──『 流星の玉座(フリズスキャルヴ) 』」

その宣言と同時に、空から無数の光線が降り注ぎ──

──オルテシアの頭上で 捻じ(・・) 曲がり(・・・) 、彼女を囲うように全方位から襲いかかった。

「────ぁ」

着弾までの一瞬で、理屈は理解した。

『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』の 魔銘解放(リベラシオン) は、魔銘解放にしては直接攻撃力に劣る。

だからその不足分を彼女の持つもう一つの通常血統魔法、『 流星の玉座(フリズスキャルヴ) 』で埋めた。どころかその二つを組み合わせて、本来直線的に進むだけの光線そのものに見えざる巨人の力を適用し、『不規則軌道で襲い来る最高火力の光線』という理不尽の権化のような直接攻撃力を実現した。

理屈としては、理解できる。

でも──普通思わないではないか。そもそも 魔銘解放(リベラシオン) は血統魔法使いにとって秘奥の秘奥、使えるだけで王国史で傑物と扱われるほどの技法の頂点、なのに。

── 魔銘解放(リベラシオン) と別の血統魔法を併用できるなんて、誰が思える。

(…………ああ)

それを認識し、敗北が不可避だと悟って。

オルテシアの脳内に浮かんだのは……ある種の納得だった。

(そう、ね。……やっぱり、届かないのね)

そうだ。

誰よりも自由で、誰にも縛られない。それが彼女の望んだ、願ったローズの姿。

であればこそ。そんな彼女が── 自分如きに(・・・・・) 足を(・・) 止められる(・・・・・) なんて(・・・) 、あり得ない。

そもそもが、矛盾していた。敵うはずが、なかったのだ。

(じゃあ…………どうすれば、よかったのかしら)

不思議な納得と、安堵と。ほんの少しの寂寥に苛まれながら。

緩やかになった体感時間で、最後の足掻きとしてローズに向かって手を伸ばすが……絶望的に届くはずもなく、また向こうが手を伸ばすはずもなく。

「そう、ね。……あなたは、そうでなくっちゃ」

直後。王国最強の魔女の、最強の魔法が。

光の籠となって、災厄の魔女を飲み込んでいった。