軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

153話 もう一つ

魔法は、想いによって生まれるもの。

それは、魔法に関して一定以上の研究や深堀りを進めたものならば誰もがたどり着く結論だ。

無論それは、血統魔法であっても例外ではない。

で、あれば。

自らの血に刻まれた血統魔法、それを動かす想いと、自分自身が抱く想い。

その二つが一致しない──どころか、あまりに絶望的なまでにその二つが食い違ってしまった場合は、どうするのだろうか。

「っ」

ローズが、これまでに無いレベルで全力の血統魔法を回し、回避に専念する。

しかし、それを嘲笑うように蛇の如く執拗に迫り来る黒い雷。

『魔法は避ける』を至上の防御手段とするローズにとって、規格外の追尾性能を持つこの魔法は相性最悪。必死に回避するも、次々と増える黒い稲妻全てを避け切ることなど到底できず、結果。

「ッ、が、ァ──ッ」

一条の雷がローズをかすめ、そこから感電。それ自体が悪意を持っているのかと思われるほどの執拗さでもって、ローズの肉体を破壊しにかかる。

回避だけでは埒が明かない。そう即座に判断し、雷の痛みに耐えつつもう一つの血統魔法、『 流星の玉座(フリズスキャルヴ) 』をオルテシアに向けて放つ。

──が。

「あは」

「!」

驚くべき方法で、オルテシアはそれにも対処した。

否、対処したのではない。彼女がやったことは単純、光線に向けて黒い雷を放っただけ。その結果。

黒い雷が魔法に向けて追尾を始め、光線そのものを破壊した。

「……マジか」

恐ろしい結果だったが、そこでようやくローズも魔法のからくりを理解する。

(この魔法は、『あたし』を殺すための魔法。あたしという個人に特攻が入るように変質している。そこまでは分かる)

だが、『ローゼリア・キルシュ・フォン・ユースティアにダメージが入るように』なんて曖昧な条件ではない。そんな曖昧なものでここまでピンポイントな成果を上げられるほど魔法は甘くない。

何か、からくりがある。ローズの持つ明確な『何か』に反応するようにこの魔法は改造されている。

その『何か』がなんなのか。それを、ここまでの攻防でローズは分析した。

「……なるほど。その魔法は──」

分析してみれば、なるほどと思う条件だ。

「『王家の血を持っている人間』『複数の血統魔法を持つ人間』。

その二つに反応するようにできているな。前者は血に反応してそれを持つ人間の肉体を、後者は多重適性特有の魔力に反応してその魔法を、破壊するようにできている──ってとこか」

称賛の感情でオルテシアが笑った。

「ご明答。流石ね、ローゼリア」

「随分簡単に答え合わせしてくれるな」

「それはそうでしょう? だって──」

続けて彼女が言わんとすることも、正確にローズは理解する。

「ああ。……『分かったところでどうする』って話だろ」

分析したからこそ分かる。これは条件を理解したところでどうしようもない。今この瞬間王家の血を引かないことにするなんて到底不可能だし、ローズが多重適性であることも覆しようがない。恐らく一番手っ取り早かっただろう対処法である『条件の穴をつく』作戦はこれで封じられたも同然だ。

故に、この圧倒的な天敵の魔法を持つ彼女に対し。

ローズが取れる手段は、一つ。

「今度は、私がこれを言う番ね」

それを見透かしたかのように、オルテシアが告げる。

「──あなたはいつ本気を出すのかしら?」

「……」

「分かっているでしょう? 今のままでは、あまりにも相性が悪すぎる。それを覆したいなら──使いなさい」

ローズは、あくまで静かに答え。

「……何をだ?」

「 魔銘解放(リベラシオン) よ。使えるんでしょう?」

それにも間髪容れずオルテシアが口を開く。

「隠していたみたいだけれど、私は知っているのよ。教会の記録に、あなたが昔教会と戦った時一度だけ使ったとの報告があった。不名誉なこととして公式には削除されていたようだけれど──私は見逃さない。あなたに関することを、私が見逃すわけがない」

静かな執念と、厳かな狂気を孕んだ瞳で。

「随分親切なことだな、待ってくれるのか?」

「当たり前でしょう? 私は全てを見せたわ、だからあなたも全てで来なさい。かつて私が憧れて届かないと思ったあなたの全てで! それを越えないと意味がないの、それを越えなければあなたの目を覚ますことなんてできないのよッ!!」

そこまで言い切ってから、最後に彼女はもう一度。

「だから──使いなさい、あなたの真の切り札。

『 流星の玉座(フリズスキャルヴ) 』の 魔銘解放(リベラシオン) 。あなたの全てを上回って、あなたがどれほど堕ちてしまったのか教えてあげるんだから!!」

それを、聞き届けた上で。

ローズも、口を開く。

「……分かった」

「!」

その返答に、オルテシアは歓喜の表情を浮かべるが──それも一瞬。なぜなら。

「あんたもそこまでか」

「──え?」

「あんたも、一番あたしを見ていると自負していたあんたですらそうだってことが分かった。……どこまでも、過去のあたししか見てないってことがな」

あまりにも冷たく拒絶を感じさせる声で告げられたその言葉に、オルテシアが当惑する。けれど、そんな彼女に一切構うことなく。

「いいぞ、見せてやる。あたしの今出せる全力。太古の昔に血統魔法を作った人間が人に引き継ぐ上で封印した、古代の魔法の真価」

それは、紛れもなく 魔銘解放(リベラシオン) を意味する言葉。

その上で、ローズは続けて。

「ただし── そっちじゃねぇよ(・・・・・・・・) 」

息を吸い。

唄う。

「──【世界の初めに巨人あり 塔を砕き 翼を融かす 天地を隔てし腕あり】」