軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151話 変質

ローズとオルテシアの戦い。

片やかつて王国を騒がせた悪名高い『空の魔女』、片や謎に包まれた国内最大宗教組織である『教会』の長。

注目すべきは、オルテシアの方だろう。

いくら謎が多い存在、つまり不確定要素が多い存在とはいえ、生半可な魔法の持ち主がこの国で宗教組織の長になれるはずがない。

その多分に漏れず、彼女も強力無比な血統魔法と十二分に恵まれかつ鍛え上げられた基礎魔法能力を持つ、王家の人間になるに相応しい──否、それだけでは収まらないレベルの傑物と言える魔法使いであった。

それを、踏まえた上で。

──戦いは、あまりにもローズが圧倒していた。

「そらよ」

「ッ!」

ローズが無造作に手を掲げる。

その直後に放たれる、無造作な振る舞いからは想像もつかない光の雨。

逃げ場など一切なくオルテシアごとその場を制圧し、彼女の並外れた耐久力すら容易く貫通してダメージを与えてくる。

返す刀で撃ち放ったオルテシアの血統魔法──『 霹の廻天(キィ・レイカーラ) 』、強力な雷を放つ魔法も、あまりに容易く躱される。身動きが素早いとかそれ以上の話として、そもそも魔法の射程に入ってくれないのだ。

当然だ、その状況を生み出しているローズのもう一つの血統魔法、『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』。

『空を飛ぶ』という単純かつ絶望的なその効果によって、自身に届く攻撃のほとんどを無慈悲なまでに無効化する。

その構図から改めて確認させられた、『空の魔女』の脅威。

二つの血統魔法により、『敵の手の届かないところから一方的に高火力高射程の技を押し付ける』という極めて分かりやすい強みで圧倒する、空を司る魔女の真骨頂。

そんなローズは、自身の強さでもって無表情でオルテシアを圧倒しきったのち。

静かに、口を開く。

「──で。お前はいつ本気を出すんだ?」

それを聞いて、オルテシアが笑った。

「あら、本気のつもりだったけど?」

「寝ぼけたこと言うな馬鹿。確かにここまでは、『あたしが王都を出るまでで知っている範囲』でのお前の本気だ。──だから、そんなもんじゃ絶対ないだろ」

根拠もある。

以前オルテシアと対峙した時に見た得体の知れない圧力に加え、その時ラプラスが言っていた、『オルテシアは対ローズ用の切り札である』旨の発言。短期間でも分かったラプラスの人間性から考えると、これがブラフである可能性は低い。

であれば、あるはずなのだ。

自分相手に『切り札』と言い張れるだけの、オルテシアの何かが。

「さっさとそれを出せ。……安心しろ、それがどんなもんだろうと、出す前に潰すなんてつまんない真似はしない。ちゃんと見極めて、全部受け止めた上で完璧に叩き潰してやる」

その上で、ローズはそう告げる。

油断と言われればその通りだし、慢心と言われれば否定しない。

けれど、それでもローズはそうすると決めた。

オルテシアが自分に抱いていたもの、自分が国を離れてからオルテシアが得たもの、或いは得てしまったもの。

それを全て自らの目で見て、自らで受け止めて──その上で決着をつける。それでこそ、自分がかつての王都で行った『やり残し』に報いることになる。

自分が、自分のために。そうすると決めたのだ。

そんなローズの宣言を聞いて、オルテシアは再度笑みを深めて。

「……ええ、そうね。あなたは変わらず、そう言ってくれるのね」

オルテシアとしても、今までの言動は確認。

ローズが自分の信じた彼女のままかという、それを確認するためのものだ。

もし間違っていて今のまま殺されてしまっても──それならそれで構わないと思っていたのだが。

けれど、彼女が自分の信じた『神様』の片鱗を未だ残していて。慈悲深くも待っていてくれるというのであれば。

オルテシアも、ここで得た自分の全てを見せる時だ。

その、確信のもと。オルテシアは口を開く。

「……ねぇ、ローゼリア。あなたは、こんな考えを信じるかしら?」

「なんだ」

「── 血統魔法には(・・・・・・) 意思がある(・・・・・) 、ってこと」

ローズが目を見開いた。

それは……奇しくも、ローズの考えとほぼ一致している魔法に関する考え方で。

「あなたがいなくなった後、私も考えてみたわ。あなたが王都にいる間驚くほどに執心して研究していた血統魔法について。私の中にある魔法を元に、より深く考えられるよう、より深く感じられるようにした」

続けて語るオルテシアの顔は、確かにかつてローズが見た情熱を持ってかつ理知的に理想を追い求める女傑の姿。

「それでね、私も気づいたの。血統魔法にはちゃんと意思──その魔法を昔に作った何かが、魔法に込めた何かしらの想いがあって、その想いを理解して、その想いに従って魔法を使う時が最も上手に魔法の力を引き出せる、つまり」

そして、そこから。

「──血統魔法に込められた想いと同じ想いを抱かなければ血統魔法は使えない。

そういう風に、 血統魔法に(・・・・・) 心すら(・・・) 縛られて(・・・・) いるんだって(・・・・・・) 」

ガラリと、声色を変えて。

狂気に満ちた、神様に狂わされた人間の貌を覗かせる。

「そんなの、おかしいとは思わない? ひどいとは思わない?」

「っ」

「私が何かを考えたとして、思ったとして。それが血統魔法に歪められたものじゃない保証はある? 血統魔法に従ったものならば、従うように血統魔法に誘導されたものかもしれない。反発したものだったとしてもそれは同じ。血統魔法が存在している時点で、私たちは心を歪められている」

そこから、溜め込んだものを溢れ出させるように。

「──ふざけんな、って思ったわ」

重く、オルテシアは告げる。

「私の想いは、絶対になんと言われようと私のものだ。それを証明しないことには、私は絶対に前に進めなかった。だから、そのためにどうするべきか考えて、考えて考えて考えて──それでね、思ったのよ」

そこまで言い切ってから、オルテシアはゆるりと片手を掲げ。

「──こうしてしまえばいいんだって」

息を吸い。

唄う。