作品タイトル不明
150話 姉妹喧嘩
神様は、実在する。
空想上の存在ではなく、人々の信仰の化身である観念の具現化でもなく。実際に意思と能力を持った存在として、この世のどこかにある。
盲信ではない。確かな分析と地に足の付いた推測により、オルテシアはそう確信していた。
だって、そうでなければ説明のつかない事態が多すぎたのだ。
『魔法』などという意味不明な、物理法則を嘲笑うかのような事象が……それだけぽっかりと、物理体系から完全に外れたあまりにも目立つイレギュラーとして存在していることもそうだし。
何より──それを何故か人間が使えるということも冷静に考えればおかしいのだ。明らかに、魔法を人間に最初に授けた何者かがいることは疑いようがない。
だから、きっと。
完全なイレギュラーとしてある魔法を探り、よりその深淵に踏み入れることが。自分の求めている『神様』に近づく最も有用な方法であると思って。
そのために、オルテシアは魔法を深く探究することに決めたのだ。
そうして──『神様』を、探し求めることに決めたのだ。
──それに縋らなければ、やっていられなかったのだ。
単騎で敵陣に突入し、自身の魔法の秘奥、その一端による奇襲で敵陣営を各々別方向に吹き飛ばす。
その離れ業──自分がリリアーナから頼まれた最低限の仕事をやり終えたのち。
ローズは、緩やかに自分の当初の目的を果たす場所へと向かう。
「──よう、オルテシア」
着地したローズが、視線を飛ばす先。
そこにいるのは、退廃的な雰囲気を強く漂わせた女。
ローズにとってはよく見知った……かつて、よく見知っていたはずの女だ。
……かつては、彼女とも仲が良かった。
ユルゲンやシータを除けば最も言葉を交わしたと言えるくらい、魔法に真っ直ぐだった数少ない友人の一人だった。
けれど、今の彼女はこうなった。
そうなるに至る事情も、そうならざるを得なかった経緯も。ローズは全て把握している。
把握した上で──一切の容赦はしない。そう、決めている。
だから、ローズは。
「……来てくれたのね、ローゼリア」
虚ろな笑みを浮かべて自分を出迎えるように手を広げる、オルテシアに向けて。
「ようやくこの時が来たわ、誰にも邪魔されず、あなたを──」
「『かつての神様に戻せる』、なんて戯言を聞く気はないぞ」
彼女が、最も求めること。
そして彼女が最も否定されたくないことを、先んじて潰す。
「そんで同時に、『それが叶わないならせめて自分を裁いてくれ』なんて意味不明な要望もお断りだ」
「──ッ!」
「あたしはただの人間だ。まぁそりゃ色々ぶっ飛んでる自覚はあるよ、血統魔法を三つ使えるのも我ながら意味分からんし、なんの因果か不老にもなっちまった。──だがな」
虚なオルテシアの瞳と対照的に、確かな意思と願いの光を宿した眼光を返し。
「それでも、あたしは人間だ。できることよりもできないことの方がはるかに多くあって、そんな中でちょっとでも求めることのために自分の意思で自分のできることを増やして足掻いている、お前と──かつてのお前と、全く同じ存在だ。だから」
魔力を高め、宣誓する。
「これから始まるのは、ただの友達同士の──今となっちゃ、姉妹喧嘩だ。それを踏まえた上で、構えろオルテシア。
……お前の頭ん中の『神様』は、言葉で説得するような存在か?」
「ッ、ロー、ゼリア……ッ!」
最後に一つ付け加えた、不敵に笑っての挑発に。答えるように、オルテシアも魔力を高め。
そうして──奇しくも以前、オルテシアの娘であるライラが語った通り。
お互いの望みを、お互いがやりたいように押し付ける──そんな姉妹喧嘩が、始まった。