軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

149話 親子喧嘩

ローズがオルテシアのもとへ向かったのと、同刻。

「……流石だね」

王都の、比較的郊外に近い場所。

すなわち──王都の激闘から相当に遠く離れた場所にて、落ち着いたユルゲンの声が響いた。

王都中央に居た自分を襲った、ローズの魔法による正体不明かつ問答無用の斥力。

その威力は尋常ではなかった、自分がここまで為すすべもなく弾き飛ばされたことがその証左だろう。

そのまま何もしなければ勢いのまま地面に叩きつけられて木っ端微塵になっていた辺り、旧友だからという理由で手加減などしていないと分かる、一切の躊躇なき殺意の一撃だった。

とは言え、ユルゲンとて公爵家当主の魔法使い。魔法本体ならともかく、その余波を防ぐ程度は訳もない。自身に怨霊を纏わせることで衝撃を殺し、なんの危なげもなく無傷での着地を行う。

そこから纏わりついた瓦礫を払いつつ、現在地を確認。

「随分と飛ばされたな」

流石に、一息に元いた場所に戻るのは不可能だろう。

現状王都を襲っている『 救世の冥界(ソテイラ・トリウィア) 』の続行に支障こそないとはいえ、この先もそうだとは限らない。諸々のリスクを踏まえたならば、とにかく王都中央部に戻るべきだろう。

「……まぁ」

と、いうことは。

「──それを許してくれるほど、甘くはないよね」

敵も、それを真っ先に阻止しにかかるということ。

そも、自分がここに──この場所にピンポイントで飛ばされたのならば、既にここで自分を迎え撃つ準備ができていないと考える方が不自然だ。

その確信のもと、ユルゲンは自分の元に来た刺客。

公爵家令嬢カティア・フォン・トラーキアを出迎える。

「一人だけかい? 意外だね」

「ええ──と言うより、私しか動かせる戦力がいないのです。他の血統魔法使いは全員、この王都を襲っている死霊の対処で精一杯なので」

意外にも、対話には応じている。

この場にはある種不自然なほど、親子らしく。

「……不思議なものだね」

ユルゲンも取り立ててそれを拒む気持ちは沸かず、会話を続ける。

「思えば君は、昔から反抗というものを一切しなかった。君の反骨心はいつも外部に──この国の制度そのものに向けられていた影響もあるのかな」

「そうですね。……付け加えると、娘に反抗をさせるには少々お父様は優秀すぎたのですわ。する気すら起きないほど、いつだってあなたは完璧だったので」

「それを理解して反抗をしない辺りが、君の非凡たる証明だよ」

少々堅苦しくも気さくな、まさしく理想の公爵家の親子の会話。

その上で──カティアは雑談の延長線で、魔力を高め。

「だから──きっとこれが、初めての娘の反抗期というものなのでしょうね」

彼女の血統魔法を起動し、霊体を召喚する。

……自分のそれとは違う、美しく純真な清霊とでも呼ぶべきものを。

「そうだね、カティア。……私は言った、これ以上ひどいものを見たくなければ、逃げることを勧めると。それを振り切って、ここに来てしまったのならば」

合わせて、自分も喚び出す。

あまりにも黒く、昏く、醜い悪霊たちを。

……自分がクロノから受け取った第六創世魔法の力は、王都全域の怨霊召喚に全て使っている。

そして怨霊召喚をする条件は、人の多く居る場。郊外に近く人気のほとんどないこの場所には当てはまらず──つまるところ、この場において自分は第六創世魔法の加護を受けられないに等しい。そこも踏まえた上でローズは自分をここに飛ばしたのだろう。

──だが、問題はない。

創世魔法の補助がなくとも、自前の魔力による召喚は全力で行える。であれば……特にこの少女相手であれば、何一つ問題なく制圧できる。

それを確認した上で、声色と意識を切り替えて。

「であれば君は、もはやそれ以外の何者でもなく。

私の敵だ、カティア・フォン・トラーキア」

これ以上は娘として扱うことはやめるとの宣言に合わせ、怨霊たちを励起させる。

ユルゲン自身ですら身が竦むほどの圧を正面から受けて……けれど、カティアは。

「……ここは、合わせて私も敵としての名乗りをあげるべきなのでしょうけれど」

怯むでも、逆上するでもなく──静かに笑って。

「そうはいきませんわ、 お父様(・・・) 。

私はいつでも──ここからも、最後まで、あなたの娘として。そのつもりで戦い……そして、殺すつもりもなく、あなたを懲らしめます」

「──」

「それが……親子喧嘩、というものでしょう?」

その言葉に合わせて、カティアも自身に従う霊体を全開にする。

……今まで見た中で、最も美しく苛烈なそれを。

そう宣言したカティアの表情は、ユルゲンも見たことがないほど。

あまりにも静かに凪いでおり、けれどその内には確かな強い意志を秘めていて。

……彼が遠くの昔によく見ていた、誰かとあまりにも似すぎていて。

きっと、そういう風にあの日からここまで、一週間足らずで成長したのだ。

それを認識した、ユルゲンは。

「…………ああ」

手強いな、と眼前の脅威を新たに認識し。

そうして、片方は自身の目的を阻む敵手として、片方は父の暴挙を止める娘として。

お互いの望みを通すための、今この国で最も苛烈な親子喧嘩が、始まった。