作品タイトル不明
148話 清算
「……さて、こんなもんか」
単身向こうの本陣へ乗り込み、狙い通り分断を果たしたローズ。
一旦地下から脱出すると、乗り込んだ場所へと戻り──そこに居る人影に声をかける。
「無事仕事は果たしたぞ、お前らのおかげだ。助かった──ルキウス、アルバート」
「光栄だ、空の魔女」
「……っ、は、い……」
本心からの称賛に、ルキウスは丁寧に。
そしてアルバートは、息も絶え絶えに返答する。
実際、この二人の協力が無ければローズがこの速度──向こうの対応すら間に合わない速度で単騎突撃を仕掛けることはできなかった。
ラプラスの読み通り、ここに来るまでにはローズ対策として数多くの強力な魔法使いが配置されていた。中には対空性能に特化した魔法を持つものも多くおり、いくらローズでも全てを無視して突撃はかなり骨が折れただろう。
だからこそ、この二人。ローズについていけるだけの機動力を持った二人が敵の魔法使いたちを引き受け、防御に回ったからこその現状の戦果がある。
……ただ無論、無傷というわけにはいかない。
対魔法の能力に長けたルキウスも少なくない傷を負っているし──アルバートに至っては、既に満身創痍の魔力切れ。間違いなく、もうこの決戦中の戦線復帰は見込めないだろう。
「大丈夫か? アルバート」
「……大丈夫、です……っ」
心配してのローズの声がけに、アルバートは一先ず命に関わる様子ではないところを見せたのち、告げる。
「……むしろ、感謝しています」
「!」
「分かっています、現状の第三王女派で、俺が一番弱いことは。この戦いで、完全な足手纏いになる可能性もあった」
そんな自分が、こんな重要な局面に関われたこと自体が僥倖だと。
ローズのための、捨て駒といえばその通り。だが、今の自分の実力なら捨て駒になれるだけでも上等だ。彼は自分の実力の正しい認識から、しっかりとそう結論付け。その上で──一切の出し惜しみなく、自分の全てを捨て駒になることに懸けた。
「……ローズ様」
「なんだ?」
「俺は……役に立てましたか。戦果を上げることの……この国を、変えることの」
今にも崩れ落ちそうな容態ながらも、それでも確かな意思の光を瞳に宿しての問いかけ。
彼女が王都にいた頃にはほとんど見なかったその光を受け──ローズは、ふっと口元を緩め。
「ああ、もちろんだ」
本心から答える。
その上で……正直なところ柄ではないが、ここはこうすべきだろうと。かつて習った、王族としての作法とともに。
「素晴らしい活躍だったよ、アルバート・フォン・イェルク。お前の奮戦は忘れないし、ここで戦いを外れる無念もあたしが持っていく。だから安心して休め、後はあたしが──あたしらが、なんとかするさ」
それを受けて、アルバートも。
安堵したように力を緩め──そのまま意識も手放した。同じく敬意を持って、ルキウスが彼を担ぐ。
「本陣まで運んでやりな、ルキウス。そっからお前は怨霊対策の──エルやリリアーナたちの所に加勢だ」
「ああ。それで……貴殿は、やはり」
「勿論、オルテシアのとこに行く。あそこはあたしが決着をつけないとな」
愚問だったか、とルキウスは一度言葉を区切りつつも……けれど、探るように。
「……貴殿には、言うまでもないことかもしれないが。どうか気をつけてくれ、あの教皇殿は……うまく言えないが、その」
「流石の直感だな。……ああ、分かってる」
ルキウスを持ってしても得体の知れない警戒をさせる相手。
その意味を理解しつつ、ローズも答える。
「今のあいつは──下手をすればあたしすら余裕で殺しうる『何か』を得てる。油断も手加減もしないし……同時に、無視もしない。全部受け止めた上で、きっちりけりをつける。だからお前らも、こっちのことは気にするな」
それを聞いて、ルキウスもこれ以上は蛇足と悟ったのだろう。
「……ご武運を」
彼なりの敬意を示す一礼ののち、その場を離れていった。
「…………さて」
残ったローズは、ほんの数秒の思考に沈む。
……あの、アルバートという少年。
エルメスから定期的に届いていた手紙──学園での報告を聞く限り、最初は彼も貴族的な思想に諦めとともに染まっていた少年だったと聞いていたが。
それが、今やああなるとは。
「とっくに認めてたつもりだったが……改めて目にするとやっぱ驚くなぁ」
それくらい、彼女がいた頃のこの国はどうしようもない状態だったのだ。
けれど、既にそれは過去のものとなり。世代は変わり、価値観も変わりつつある。
で、あれば。
以前のユルゲンのように、全てを持って行くとまではいかない。
けれど──せめて、自分が直接の発端となり、今に影響を及ぼす過去だけは。自らの手で、かたをつけるべきだろう。
再度、そう決意を固め。
「そんじゃ──」
空の魔女は、一つ息を吸って──かつてそうだったような、美しくも獰猛で好戦的な笑顔をのぞかせると。
「久々に……派手に喧嘩しようか、オルテシア」
その一言とともに、魔力を高め。
彼女たちの決着をつけるため、自ら飛ばした方向へと向かうのだった。