軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147話 見えざる巨人

「『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』──【 見えざる巨人(ユピトラクティア) 】」

聞いたことの無い、詠唱。

それを聞いたラプラスは、咄嗟に何が起きても良いように身構える。

……そも、現状自分たちがいる場所はラプラスの 魔銘解放(リベラシオン) による領域の中。ここに限ればラプラスは基本的に無敵に近い能力を発揮する。

ラプラス自身、そこに関しては過不足のない自信を持っている。

だが、それでも尚。

『空の魔女の、未知数の詠唱』。その言葉だけで、自分程度の自信など木っ端微塵に砕いて余りある。故にこそ、一切の緩みなくラプラスは構えて──

──その全てを、あざ笑うように。

突如として、何の前触れもなく。

訳の分からない(・・・・・・・) 強烈な斥力(・・・・・) が、王都地下全域を襲った。

「──は──ッ!?」

正体不明、原理不明。

けれど、ただただ莫大と解る力。

それが、されど無差別ではなく。ピンポイントでラプラスたち組織の面子だけを理不尽なまでに強く襲う。

ラプラス自身、それに気づけたのは魔銘解放による領域内であったからこそ。それくらいに気づきにくい──言い換えれば 当たり前(・・・・) なのに(・・・) 正体不明(・・・・) の力(・・) 。

それに襲われているのは……ラプラス、クロノ、ユルゲン、オルテシアの四人。

これほどまでに莫大だと、領域内であろうと全てを捌くのは不可能。どこかを諦める必要がある。ラプラスの優れた頭脳による判断でも、そう結論づけざるを得ない。

「ッ、クソッ、タレが──!」

決断は一瞬、行動は素早く。

悪態をつきながらも、ラプラスはその正体不明の力に抗うべく魔法を回す。自身の血統魔法の固有能力、『拒絶』を最大限回し、自分たちに働きかける力に対抗する。

繰り返すが、全てに対応は無理だ。だからこそ、

(俺と──ボスだけは、絶対に!)

この領域の主である自分は大前提、それに加えてもう一人。

王都現状の地獄を生み出している魔法の根本、第六創世魔法を今も回し続けているクロノだけは絶対に守る。ここが崩れれば根本が瓦解する、どころか……神の魔法を不安定に中断した揺り戻しがどう出るか分からない。

その思考のもと、紛うことなき全力で魔法による抵抗を続け、ようやく。

「──やるな」

魔女ローズが、不敵ながらも賞賛を込めて告げる。

「狙い通りだし予想してたとは言え……今の魔法、ちゃんと全員殺す気で本気で撃ったんだが。完璧にお前には捌かれたな、初見でこれじゃあ次は効かんだろうなぁ」

どうにか、咄嗟の判断の通り自身とクロノは守り切った。

ローズからの言葉に、ラプラスも静かな睨みを返す。

「お褒めの言葉どーも。じゃあついでにこれ以上暴れられる前に、ここで大人しく殺されてくれると助かるんだが?」

「残念ながらそうもいかん。お前と遊ぶのも楽しそうだが……それじゃあわざわざ王都に戻ってきた意味がない」

対するローズは、まさしく伝承の魔女らしく自分の基準に従って飄々と告げる。

「安心しろ、これ以上お前たちの邪魔はしない。ぶっちゃけるとお前たちのやろうとしていることにはそこそこあたしも共感できるからな」

そして最後に一つ、クロノの方へと視線をやると。

「その程度── 王都を(・・・) 滅ぼす(・・・) 程度で(・・・) 済ませる(・・・・) なら、あたしはこれ以上あんたらには何もしない。お前たちが用意した通り、あのクソ義姉貴をしばくことだけに集中させてもらうさ」

意味深な言葉。

……唯一、クロノと同格──クロノと同種の魔法を持っているが故の言葉を残したのち、別の方向へと飛び立っていった。

「……くそ」

残されたラプラスは、再度悪態を吐く。

そう、先刻ローズは『狙い通り』だと言った。

ローズが放った正体不明の魔法。それにラプラスは対抗し、自分とクロノだけは守り切ったものの──

──残る二人。オルテシア、そしてユルゲンは。

ローズの魔法に抗いきれず、それぞれバラバラの方向に弾き飛ばされていた。

二人とも相応の手練れだ、あの程度で死ぬはずもなく自分の身だけは守り切ったようだが──この場から分断させられたことには変わりない。

特に、ユルゲンが弾かれたのは痛い。現状の王都の惨状を作っているもう一人の要である以上、彼がやられてもこの死霊の王国は瓦解してしまう。

付け加えると、最優先護衛対象であるクロノのそばにいるのが自分だけになってしまった以上、ラプラス自身もここから動くわけにはいかなくなった。

結論、『オルテシアは引き受ける代わりにユルゲンも寄越せ』──ローズが言っていた通りの状況を、作らされてしまったわけだ。

それを把握した上で、ラプラスは。

「……まぁ、しゃーない」

一つ息を吐いて、そう述べる。

業腹ではある。空の魔女に良いようにやられたのは控えめに言っても腑が煮え繰り返るが、一方で……想定の中でもまぁまぁ悪めの事態とはいえ、想定を外れてまではいないのだ。

あの空の魔女にある程度暴れられるのは織り込み済み。それに、これもローズが述べた通り──恐らく彼女は自分たちの目的をそこまで積極的に邪魔はしてこないだろうと思ったのだ。

それはローズの性格を推測したクロノの分析によるもの、加えてユルゲンの証言も加えたことでその推測はかなりの確度を持つに至った。

そして推測通り、ローズは問答無用でこちらの狙いを崩壊させようとはしてこず……あくまで自身の因縁を優先した。それ用にこちらが用意したオルテシアという餌に、綺麗に食いついてくれたのだ。

そう考えれば、悪い結果ではない。

だからこそ、まとめれば状況はまだ互角。お互いの狙いを通した上での、五分の状況に過ぎない。

死霊の王国は未だ健在。その要の一人であるクロノは自分がここで護衛する以上万全。

故に……焦点となるのは、もう一人の要であるユルゲン。

彼がやられない限り、この地獄は終わらない。

「……なら、問題ないな」

そこまでまとめた上で、ラプラスは不敵に笑う。

以前も同じようなことを考えた気がするが……ラプラスは、ユルゲンをそこまで信頼していない。だが──彼の持つ憎悪だけは、この上なく信を寄せているのだ。

ユルゲンを優先的に分断し、ローズがオルテシアに向かった以上……ユルゲンのもとに向かう『刺客』は、凡そ見当がつく。

「……まさか、そんなのにやられやしねぇよな? トラーキア」

静かな笑みを、取り戻し。

自分のやるべきことは変わらず、ここでクロノに降りかかる狙いを排除し続けることだと把握したラプラスは。

再度集中とともに、自分たちの夢の成就へと力を注ぐのだった。