軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146話 急襲

「……おい、待て」

即座に冷や汗をかくラプラス。

気づいてしまったからだ。今自分がいる場所の地下──すなわち自身のボスであるクロノと、現在の惨状を生み出す鍵となるユルゲン、その二人が居る場所に……絶対に行かせてはならない存在が、凄まじい速度で向かっていると。

油断していたわけではない。

そもそもこの確認作業は必要なことだったし、本来の想定ならば『彼女』がこちらに来るほどの余裕だってないはずだった。計算上では、あの第三王女派が最大限動いたとしても──向こうの最優先事項である王都の守護、それに手一杯になるはずだったのだ。

故に、強いてラプラスの落ち度を挙げるのであれば二つ。

王都の……この腑抜けた場にいる貴族たちの善戦が、彼の価値観からすればあまりにも予想外すぎて一瞬未満の間戸惑ってしまったこと。

そして──『彼女』を、想定しきれなかったことだろう。

「ッ!」

けれど、ラプラスもさるもの。

即座に方向転換、自身の血統魔法を最大限活かした超速移動で地下に戻る。同時に一切の出し惜しみ抜きで 魔銘解放(リベラシオン) を起動。リスクを厭わず拒絶領域に味方を入れ、最大の安全を確保する。

「ボス、創世魔法で手一杯のところ悪いが踏ん張ってもらうぞ。今ここに──」

そうして最低限の忠告を済ませようとしたその瞬間──来た。

轟音。

天からの射撃で天井が木っ端微塵に破壊され、粉塵を払ったその先、中空で悠然と佇むのは。

「……答える義理がないのを承知で、一つ聞かせろ」

自分たちを睥睨する青の瞳を見返し、冷や汗とともに。

現れた人影に向かって、ラプラスは問いかける。

「──どうやってここに来た? 空の魔女」

時間稼ぎの意味合いも込めて、まずは対話。

その間に 魔銘解放(リベラシオン) による拒絶領域の強化を最大限行うラプラス、それを意に介さず、人影──ローズも静かに不敵な笑みとともに答える。

「見りゃ分かるだろ? 飛んできたんだよ」

「ここ地下だぞ? それに、あんた対策に対空に特化した血統魔法使いだってここまでしこたま配備してたはずなんだが? それはもう入念に惜しみなく。いくらあんたでもこんな早くここまで来れるはずもないと思ったんだが」

そう、ラプラスとて無策だったわけではない、どころかこの魔女のことは紛れもなく最大限警戒していた。

以前見た彼女の能力と、そこから推定される戦闘能力と突破力。そこから更に十分なバッファを持たせて、少なくともそう簡単に来れない程度には戦闘力を持った人員を配備していたはずだった。

彼女は、最強ではあっても無敵ではない。それを理解した上で、十二分すぎる足止め要員を置いていた──はずなのに、なぜ。

「安心しろ、お前の見立ては正しかったよ」

そんなラプラスの疑念も嘲笑うように、けれど一定の敬意も宿した口調でローズは告げる。

「確かに、あそこまで魔法使いを用意されちゃあたしも突破には骨が折れる。……でも残念、今のあたしは一人じゃないんでなぁ」

「っ」

「でも、見立て自体は悪くなかったさ。その対策は、ちゃんとあたしが神様でもなんでもないと理解してないとできない所業だ。その点でむしろあたしはお前を評価すらしてるぞ? 少なくとも──」

そして彼女は率直にそう述べたのち、つい、と視線をその横に向けて。

「──そこの裏切り者と、お前が今必死に押さえ込んでるイカれ女よりは余程な。一本芯が通ってる分大変上等だ」

未だ感情の見えない瞳で、怨霊を生成しつつローズを見据えるユルゲンと。

言葉通り、ローズを目にした瞬間飛びかかろうとしているオルテシアを指して告げる。

……この通り。本当に、一番来て欲しくないのが彼女だったのだ。

原因は言うまでもなくラプラスが魔法で抑えているオルテシア。対ローズの切り札とはいえ、それ故に彼女の強力さ──言い換えれば危険度は随一。創世魔法が存在するここで暴れさせるわけには絶対にいかない、ローズを前にすれば自分たちのことなんてこの女は考えないだろうから猶更。ただでさえ自分の 魔銘解放(リベラシオン) もここで使うのは危ないのだ、これ以上のリスクは断固として許容できない。

そして、そんなラプラスの葛藤も見通したように。

「と、ゆーわけで。取引だ、ラプラス」

悠然と笑ったままローズは、こんなことを告げてきた。

「お前らの望み通り── オルテシアは(・・・・・・) あたしが(・・・・) 引き受けて(・・・・・) やる(・・) 。

だからその代わりに、 ユルゲンも(・・・・・) こっちに(・・・・) よこせ(・・・) 」

「──は?」

願ってもない提案と、絶対許容できない提案。

それを同時に告げられ虚を突かれるラプラスに、ローズは。

「ま、ぶっちゃけお前らに拒否権はない。──無理やりそうするからなぁ」

そこで話は終わりとばかりに、魔力を膨らませる。

「!」

「話して時間稼ぎをしてるのがお前らだけだと思ったか?」

そうして、ラプラスと同じように。

話の裏で用意していた魔法を、解き放つ。

「『 無縫の大鷲(フレースヴェルグ) 』──」

彼女のもつ、もう一つの代名詞となる魔法、そして、

「──【 見えざる巨人(ユピトラクティア) 】」

──これまで誰も聞いたことのない、詠唱と共に。