軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145話 かつての変革から

王都の一角。

そこで、とある貴族当主の男は信じられないものを目にしていた。

突如として王都を襲った、理不尽な災厄。

過去全ての怨霊が復活し、手当たり次第に生者を襲い続けるという到底人の手によるものとは思えないほどの、まさしく天災と呼ぶべき事件。

それを前にして、貴族当主たる彼が取った行動は──諦めだった。

だって、こんなのどうしようもないではないか。

一目で分かる。これは人間にどうにかできるものではない。それこそ天罰と言われた方がしっくりくるほどの何か。

それを前にして──たかが人ができることなど、ない。

護国の力たる血統魔法を持っていようと関係ない。血統魔法の領分すら遥かに超えた力の前では、なんの意味もない。

……この国の貴族、この国の価値観とは、そういうものだ。

最初から神様に与えられたもので全てが決まる王国。であれば、その力でできることは過不足なく行い、できないことが現れたなら疾く諦める。

それが当然で、彼だけでなく他の貴族家でも似たようなものだろう。起きうること全てにただ身を委ねる、染み付いてきたその在り方に従って、速やかに力を抜いた。

──だからこそ、信じられなかった。

そんな彼の息子が、顔を青くさせ体を震えさせながらも、怨霊の群れに立ち向かって行こうとする様子が。

「……何を、しているのだ」

思わず、そう問いかけていた。

「見ての通りです、父上。……あの怨霊どもを、倒さなければ」

「できるわけがないだろう、そんなこと。お前も分かっているはずだ。あれはもう人がどうにかできる類の災厄ではない、受け入れるほかないのだ」

答えた息子に、当たり前の理を説く。

それを聞き届けた息子は、しばし俯いてから。

「……そう、ですね。それが正しいのでしょう。少し前までの自分であれば、間違いなく父上と同じようにしていました。……けれど」

そうして、息子は。

── かつて(・・・) 、 王立魔法学園(・・・・・・) B(・) クラス(・・・) 所属(・・) だった(・・・) 息子は(・・・) 。

「立ち向かわなければならない。そんな気が、するのです」

これまで父親が見たことのなかった、確かな意思を宿した瞳と共に顔を上げる。

「どれほど勝ち目が無くても、どれほど敵が強大でも。折れてはならない時があり、最後の最後まで抵抗するべき瞬間がある。

そして──今が、その時だと。どうしようもなく、そう思ってしまうのです」

未だ、息子の震えは収まっていない。今にも恐怖に屈し、父と同じように諦めてしまいそうになる誘惑と必死に戦っているのが見て取れる。

でも、それでも。膝をつくことだけは、ついぞなく。

「愚かだと、罵ってくださって構いません。──私は行きます。絶対に、あのようなものに蹂躙されるなど、あってはならない」

そのまま──かつて見た時より遥かに強力な魔法を、けれどそれよりも遥かに強大な怨霊たちに向けて。

悠然と、立ち向かう。

「…………」

そして、父親も。それを見ていると、何故か。

「……ああ、そうだったな」

はるか昔、自分が学園で失くしてしまった何かを見たような気がして。

理屈も理念も超えて、ただ、心の中の何かに従い。

自然と息子と並んで、到底敵わない怨霊に向かって戦いを始めるのだった。

王都のそこかしこで、似たような景色が現れていた。

大多数の貴族家が諦める中で、ぽつぽつと抵抗を始める者たちが現れ。それはやがて他の家を巻き込んで、決して無視できない王都を護る抵抗の力となって膨れ上がっていく。

……無論、それだけで覆せるなんて甘い状況ではない。

第六創世魔法によって無限に等しい威力にまで増幅された怨霊召喚の魔法は、その程度の抵抗では到底止めきれない。事実、それらの抵抗もあっという間に押され、全滅寸前まで然程の時間もかからず追い詰められる。

けれど、それは言い換えれば。

然程の時間程度は稼いだということであり。

結果として──『それ』が、間に合う。

「──『 原初特権:遍在領域(スターダスト・インフェリアス) 』!」

第三王女の、周囲の兵士を強力な血統魔法使いに昇華させる創成魔法を用いた秘奥。

それによる圧倒的な攻勢が、怨霊たちを押し返し始める。

結果的に、彼らの稼いだ僅かな時間が。最高の結果を引き寄せる形となって。

「…………」

押し返していた。

満を持して発動したはずの、最高の破滅を与えるのに十分だったはずの絶望の景色が。

微かな抵抗と、それを呼び水にした圧倒的な攻勢によって。

少なくとも──万に一つくらいは生き残る目があるのではないか。そう思える程度には、希望の光景と成り果てていた。

「……おいおい」

それを見据えるラプラスは、知っている。

抵抗の契機となった、各所での貴族子弟による怨霊への対処。その全ては魔法学園に通っていたもの──より具体的に言うのならば、魔法学園でとある生徒の影響を強く受けただろう者たち。

同時に、あの第三王女の魔法。それが彼女の手に握られた翡翠の文字盤を起点としたものはであることは、魔力の流れからも明らかで。それが誰から授けられたものなのかも、ラプラスはよく知っている。

つまり、まとめるのであれば。

この状況を引き起こしたのは全部全部、あの──

「──また、お前かよ。エルメス」

確かな、紛れもない本気の苛立ちを、ラプラスは浮かべる。

……だからこそ、ほんの一瞬、気づくのが遅れてしまった。

ラプラスのいる場所──更にはその地下、彼ら組織にとって重要な人物と魔法が一堂に会しているその場所に向かって。

常識はずれの勢いで、凄まじい魔力の持ち主が、幾人かとともに向かっていることを。