軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117話 救援

使えるものは、全て使った。

偽りの玉座につけられて以降追い出されるまでに与えられた権限を全て使って、国庫の 古代魔道具(アーティファクト) を漁りに漁って現状の自分の力を最も引き出せる組み合わせを惜しみなく探求し武装した。

魔法は先天性のものではないという噂が広がったから独学で可能な限り高めた。

奴についての情報を、奴と直接戦っていた国王直属部隊を絞め上げてでも吐かせ、その情報をもとに可能な限りの対策を打った。

余計なものなど欠片も残さなかった。何もかもを捧げた。 古代魔道具(アーティファクト) を多用することによる肉体崩壊、不可逆の後遺症のリスクなど知ったことではなかった。

全部、全部、何もかも全部。過去も未来も捨てて、命すらも投げ打つ覚悟で己の全てをあの敵を討ち果たすためだけに使った。

そして。

「きみさぁ、もうちょっと頑張れなかった?」

手も足も出なかった。

積み重ねてきたものも、懸けてきた全ても、何一つ関係ないとばかりに。一切の歯牙にも掛けず蹴散らされた。

自分の魔法は何一つ通用せず、自らの努力は全て無駄だった。

……この世界は、生まれ持ったもので全てが決定する。

ヘルクが生まれた時から味わってきた残酷なまでに平等な理不尽を、体現させられていた。

「……なんとなく、分かってきたかも」

全てを出し尽くしても微塵も届かず、地面に這いつくばるヘルクに向けて、平然と立っているカルマが話す。

「疑問だったんだよね。なんできみたちはそんなに魔法がへたくそで、魔法を使うのにいちいち変な言葉とかよく分かんない道具とかを使って、そのくせ全く魔法が強くないのかって」

そこで、いったん言葉を区切り。

「でも、他の多くの人間と。何よりきみと何度も戦って分かったよ……そっか」

にっこりと笑って、告げる。

「── ぼく(・・) 以外が(・・・) みんな(・・・) すごく(・・・) ないんだね(・・・・・) 」

覆しようのない事実を、一切の曇りなく美しい笑顔と共に。

「なるほど、ぼく以外の存在はみーんなぼくより魔法がうまく使えなくて、魔法を使うのにいちいち言葉とか道具が必要で、そこまでしてもぼくより弱い魔法しか使えないくらいにへたくそなんだ。……そっかぁ」

そうして最後に──その唇を、何処か妖しく歪ませて。

「それは……とっても、気分が良いなぁ」

「ッ!」

「うん、ありがとう王子さま。きみと戦って、きみから学習して。そのおかげで…… 人間が(・・・) どれだけ(・・・・) 弱くて(・・・) ばかで(・・・) 脆い(・・) 存在か(・・・) 、よぉく分かったよ。おかげさまで、これからはこれまで以上に自信を持って魔法を使えそう。──ぼくのために、ありがとうね?」

それは。

当然のごとく、ヘルクにとって最高の侮辱であった。

「き、さま──!」

怒りを推進力に変えて立ち上がる。全身を覆う軋みも無視して捩じ伏せ、魔道具を全力で起動して自らを補助させ、魔道具の操り人形になってでも構え、魔力を高め、魔法を起動する。

『 白凪の大蛇(エリヴァ・ガルダ) 』。氷の血統魔法。本来ならば王家の人間に発動する魔法としてふさわしい威力を持つはずのそれは、しかし。

「中でも、一番つまらなかったのがその魔法かなぁ」

奴に届く遥か手前で、容易く結界の魔法によって止められる。もう見るのも飽きたと言わんばかりに簡単に防ぐと、返す刀で向こうも魔法を起動する。

それは、一つ一つがヘルクの魔法よりも遥かに強力で、多種多様で。そのどれかひとつですらヘルクが一生を懸けても追いつけないような威力を誇って、彼一人を嬲るためだけに降り注ぐ。

「ほら、もっとこういう魔法をきみたちも使ってみなよ。素敵で、眩しくて、強くて、綺麗な魔法たちをさ! できないの? できないんだよねぇ。不自由だねぇ、悲しいねぇ」

「ぅ……く、そ……ッ」

「ほら、もっとその悔しそうな顔を見せてよ。人間のそういう顔を見ると、とても気分が良くなるんだ。それもできないんなら……きっともう、きみの役割は終わってるんだよ」

そう言われて、ヘルクは魔法の暴威に晒される中考える。

(なんで……なんで、届かないんだ。足りないんだ。こんなに全てを懸けたのに、これさえできれば後はもうどうだっていいのに!)

だが、そう考えつつも同時に──彼の中で、答えも分かっていた。

ああ、確かにヘルクの境遇は多少の同情に足るものかもしれない。これだけはと願うことも、決して悪いことではなく汲まれるべき切実な願いなのかもしれない。

でも。

──そんなもの、奴にとっては知ったことではないのだ。

いくら願いが己の全てをかけたものでも、そこにあらゆる意志を注ぎ込んで、どれほど凄絶な背景があってその戦場に立っていようとも。

そんなもの、カルマは知らない。カルマだけではなく、ヘルク以外の誰にとってもたかが他人の物語でしかない。

だから、向こうの物語にとってはヘルクなんてただ、自分の本質を理解して進化するための都合の良い餌でしかなく、用が終われば踏潰せる程度のものでしかない。結局、願いを通すに足る力を持っていなかった奴から死んでいく、残酷なほどに平等な弱肉強食がこの世界の真理で。

……その力さえも、生まれで決まるのなら。もう生きている価値すら否定されるのと何が違おうか。

そう、だから。

だから、ヘルクが全てを投げ打ってでもこいつだけは倒したいと思っていることなんて、誰も知るところではなく。それが叶わないのならもう道半ばで散ってしまった方が楽なんじゃないかと思っていることなんて、彼以外の人間にとってはただのどうでも良い事情で。

だから。

「もう終わりかな。それじゃあ、もう得るものもなさそうだし殺そっか。じゃあねー」

カルマが、まさしく雑兵を踏み潰すように魔法の力を強め、それが古代魔道具の防御すら打ち破ってヘルクに殺到する──その前に。

「術式再演──『 精霊の帳(テウル・ギア) 』」

まるで、世界がそう決めたかのようなタイミングで。

銀髪の少年が、エルメスが。結界の魔法でカルマの魔法を防いで、あたかも窮地に駆けつける英雄のごとくヘルクを救い。

──一人で勝ちたかったヘルクの願いも、それができないのならいっそ負けさせて欲しかったヘルクの望みも。

全てを無遠慮に、残酷に。無自覚に踏み潰していったことだって……きっと、彼にとっては知ったことではなかったのだろう。

故に。

「……お怪我はありませんか、ヘルク殿下」

当たり前のように人を助け、当たり前のように人を心配する。

世界に選ばれた少年、世界の望みと己の望みが合致し、それを為すだけの力も資格も存分に与えられた、主役たる少年の淡々とした言葉を受けて。

「……」

羨望と、嫉妬と、絶望と、怨恨と。

さまざまな感情がぐちゃぐちゃに混じり合った表情で、ヘルクは彼を見据えるしかなかったのである。