作品タイトル不明
115話 分析2
……とりあえず、一通り対策は立てた。
あのたった一回の対峙では完璧に読み切ることはできないものの、それでも得た情報を最大限活用して最低限、試すにたる理論と方策は絞れたように思う。
──だが、一方で。
そうして対策を立てたからこそ分かる、不可欠にして必然の前提。師弟は最後に、それを確認する。
「そんじゃあ、ここまで分析した『奴』……カルマ対策において。残念ながら分かってしまった結論が、二つ」
「はい」
まず一つ目が、ある意味で最も致命的なこと。
「一つ目、 あたしを(・・・・) カルマに(・・・・) 当てては(・・・・) いけない(・・・・) 」
「……」
「無いとは思う。九分九厘あり得ないとは思うが……ゼロではない以上、万が一億が一があった時に取り返しがつかない。
──『あたしの三つ目の血統魔法を奴にコピーされる』。それが最悪だ、もしされてしまった場合勝ち目が完璧になくなる……どころか、割と真面目に人類滅亡まで視野に入れないといかんかもな」
「そこまで、なんですか」
ローズの三つ目の血統魔法について、この時点でも詳細は聞かされていない。理由は『今不用意に言うわけにはいかない』だそうだが、その文言を述べる時点である種の答えになっているし大凡見当もついている。
だから、ローズを信用して今までは聞かないでいたのだが……そこまでなのか。戦慄するエルメスに、ローズは「言えなくて悪いな」と苦笑を一つ挟んでから。
「そういうわけだから、カルマを直接倒す戦いにあたしは参戦できない。幸い向こうもあたしの事は警戒してるみたいだから、他の魔物狩りに専念してれば鉢合わせる事はないだろう」
そうなると必然、カルマを倒す役目のメインはエルメスが担うことになるのだが……
そこで、二つ目の条件。
「二つ目。…… エル単体では(・・・・・・) 、 カルマに(・・・・) 勝てない(・・・・) 」
「……はい」
ローズは、エルメスの師匠であり基本彼には甘いが、唯一魔法に関しては手心を加える事はない。
そんな彼女がそう言うということは事実なのだろうし、これまでの分析でエルメス自身それに間違いはないと理解してしまっている。
「まぁこれに関しては、お前の実力不足と言うにはあまりに不憫すぎるな。聞く限りカルマって奴……ひょっとすると世界の中でも最大クラスでお前の天敵かもしれん。ちょっと相性が悪すぎる」
「……ええ、分かっています」
相手の魔法を再現するという最大の特性で完全上位互換であることもそうだし、多様な魔法を使い分けることが本領の彼にとって……全力でカルマを相手することは、その分カルマの進化を早めてしまうことと同義だ。
あの相手は、『成長させ切る前に』倒すことが肝要。その意味では、エルメスの戦い方はむしろ最悪と言って良いのだ。
だが、そうなると。
ローズは参戦不可能、エルメスは相性最悪。この師弟にとっては、カルマを攻略することは極めて難しいように思える。そして、それは真実だ。
──この師弟だけであれば、だが。
「……いやぁ、よかったなぁ」
ローズは皮肉げに笑う。
師弟二人だけでは、詰んでいるところだった。加えて頭数がいるだけでもダメで、彼らのやっていることを理解すらできない人材だけでは無理だった。
……それは、つまり。
エルメスが王都に戻って多くの人と交流し、多くの人を成長させたからこそ、この危機に対応できるということであり。
「エル、お前の友達の力を借りるときだ。お前がお膳立てを整えて、その上で他の強力な魔法使いと協力して。それでようやく、あいつを倒せる算段がつく。だから……」
「分かりました、では──リリィ様たちの元に、戻りましょうか」
カルマ攻略には、エルメスの他にもう一人。一定以上の能力を持った強い魔法使いがいる。
つまり、彼らの出番だろう。そう結論づけて、分析を終えた師弟は立ち上がった。
(……しかし、問題は)
そうして、現在兵たちと共に決戦の準備を整えている仲間たちのもとに戻る最中、エルメスは考える。
(問題は── 誰にするか(・・・・・) 、ということだな……)
カルマ攻略には、エルメスに加えてもう一人強力な魔法使いが必要。
だが当然、その人選は慎重を期す必要がある。あの桁外れに規格外の敵に対応する上で──この人しかいない、と確信できるレベルにまで絞り込めてはいないのが現状だった。
無論、彼らが実力不足というわけではない。エルメスがカルマ相手に単体では極めて勝機が薄いことと同じく、今回に限っては相性の方がより重要なのだ。
そういう意味で、エルメスにとって『しっくりくる』相手は今のところ完璧には絞り込めていない。
故に、ここからそれぞれ味方と話し合って決める必要があるだろう。幸い、ある程度の時間はある──と思いながら、仲間たちの集まっている場所に到達した、しかしその時だった。
……当たり前の話だが。
エルメスたちが敵の対応を詰めている間──敵だって、そして[敵でも味方でもない存在]だって。何もしないわけが、ないのだ。
「──師匠っ!」
部屋に入ったエルメスを迎えたのは、リリアーナの切迫した声。
他の仲間たちも神妙な表情をしている。欠けた人員はいないようだがどうしたのか……と、何かがあったことは聞くまでもなく悟ったエルメスが問いかける。
「どうしたのですか?」
「……カルマが、近くに現れましたわ」
「!」
その一言で、異常事態と悟るのは十分。
「奇襲か、話じゃ見た目も言動もガキだって話だが頭は回るみたいだな」
「被害は?」
「今のところはありませんわ、抑えてくれている方がいらっしゃいますので」
「抑えてくれている方? けれど……」
見たところ、現状第三王女陣営に欠員は居ない。第二王女陣営も今は遠い場所にいるため奇襲に対応できるとは思えないのだが……とのエルメスの疑問は。
続くリリアーナの切羽詰まった声で、一挙に解決される。
「──ヘルクお兄様が、現状は対応しております。こちらを助けているつもりはないでしょうけれど……でも、分かりますわ。魔力の感じ的にも情報的にも、お兄様一人だけではいつやられてもおかしくはないとっ。だから、師匠──!」
……なるほど。
どうやら、このタイミングで。もう一つの疑問でありある意味での最重要人物にも対応する必要があるようだと、エルメスは悟ったのだった。