軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61話 撃退と立場

(……さて)

戦闘に、意識を切り替える。

……正直、兵装が同じなためぱっと見で誰を倒せば良いのか分からない。これはなかなか混乱するがどうしようか──

──との悩みは、即座に解決された。何故なら、

「居たぞ! 悪魔の化身だっ! 何がなんでも奴を討ち果たせぇ!」

これまで別の教会兵を襲っていた教会兵の数人が、エルメスを認めるや否や──即座に目の色を変えてこちらに襲いかかってきたからだ。

……流石に護衛の兵士の態度ではないので、とりあえずは彼らを倒す方向性で問題ないだろう。

「奴に魔法を使わせるなっ、近接で囲んで叩けばいくらあの悪魔でも──!」

そしてどうやら、この教会兵の方にもエルメス対策は伝わっているらしい。

魔法を使わせる前に叩く──というのは、魔法使い共通の弱点。エルメスにも通じづらさこそあるものの、有効であることは間違いない。

……『北部反乱の前であれば』、の話だが。

当然、あの激動を乗り越えた彼が今までのままであるはずがなく。

その確信と共に、エルメスは息を吸い──告げる。

「術式再演──『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』」

馬車を出ると同時に詠唱を完了していた魔法を解放する。

選んだ魔法は、『 無貌の御使(ルナド・サラカ) 』。恐らく近接で来るだろう襲撃者の出方を読んだ上で準備しておいた魔法。

加えて──これは出発までの三日間、同じ血統魔法を持つルキウスに直接手解きを受けたものだ。ちなみにそれと同時に手合わせもしたが……当然、魔法抜きでは手も足も出ず転がされまくった。やはり北部の英雄、聞きしに勝る化け物だった。

だが、そのおかげで。彼のこの魔法に対する造詣は桁外れに深くなったし。

何より……彼の動きに慣れた後では、教会兵たちの稚拙な突撃など止まっているのと変わらない。

「がッ」「なん──ぐっ!?」「馬鹿な、奴は魔法使いでは──ッ!」

指一本すら触れさせなかった。

神速の動きと、華麗な体術。武器を持っている教会兵を一顧だにせず次々と打ち倒していく。

本当なら火力の出る魔法で一挙に焼き払っても良いのだが、敵味方の判別がつき辛い以上今はこれがベスト。それに……この程度の相手、いまさら苦戦する要素もない。

「く……っ、くそ、読まれていたか……! ならば予定変更だ、火力で押し潰す! 奴に詠唱を切り替えられる前に──!」

「──と言っている時点でもう遅いですよ」

しばらくの後、襲撃者の指揮官がそう叫んで教会兵の動きが変わる。

なるほど、予想はしていたが案の定。

この教会兵たちは……王都を出た時のエルメスを想定して戦術を組み立てている。あの時彼を追い詰めていた、組織の軍隊の取っていた戦術で追い詰める予定だっただろう。

その切り替えは素早く、ひょっとすると今までのエルメスであれば追い詰められていたかもしれない。

……だが。

そんなもの、今の彼にとってはなんの対処法にも、参考にすらなりはしないのだ。

それを示すように。エルメスは引き続き、もう一つの詠唱を解放する。

「──【 弾けろ(ミストール・ティナ) 】」

遅延詠唱(ディレイ・スペル) 。

教会兵の動きを読み、もう一つ詠唱して 保持(ストック) しておいた血統魔法を解き放つ。

効果は覿面だった。

エルメスの追撃が来ないと油断していた教会兵たちに、まともな防御手段も取れずに直撃。ここまでの攻防で敵味方も把握していたため、寸分の狂いもなく敵だけに魔弾が直撃する。

「馬鹿な……」「あの数を、あんな一瞬で」

これは、『味方』だった教会兵の台詞だ。自分たちが苦戦していた相手を、いとも容易く打倒してしまったことに驚愕していることは間違いなく。

……だが、その顔に──窮地を救ってもらったことに対する感謝は、欠片も存在してはいなかった。

(……なるほど、ね)

既に大凡分かっていた彼らの自分たちへの態度を、改めて確信しつつ。

エルメスは一旦目を離し、周囲の様子を確認するが──

(まぁ、大丈夫だよね)

そこには、彼と同様自分たちの能力を駆使して、容易く襲撃者たちを蹴散らすカティアたちの姿が。

ニィナ含め、彼らは全員が一騎当千の魔法使い。手こずる要素はない。問題は……

(……何故、『教会兵』がこのタイミングで襲ってきたのか)

どちらが、何を考えているのか。自分たちを迎えにきた存在と襲ってきた存在は何が違うのか。

そして、何より──

──どちらが、味方なのか。

(……まぁ)

それは、ここで考えていても仕方がないこと。

そう結論付けつつ、敵意を持って襲ってきた敵教会兵の処理が完了したカティアたちと合流し。

その足で──こちらを忌々しげに睨んでいる、責任者の元へと向かうのだった。

「余計なことを……! あの程度、我々だけでなんとかできました!」

どうやら、意地でも認めるつもりはないらしい。

教会は権威を大事にする、というのは本当だったのだろう。『教会兵の護送中に同じ教会兵が襲撃してきた』という明らかな醜聞を隠そうとする態度や、どう考えてもそうではなかったにも拘わらずエルメスたちの助太刀を『余計な干渉』と切って捨てる態度。

きっとそれは、訂正を求めてどうこうできるものではないし……正直なところ、訂正させても意味があることではない。

故に。

「──どうでもいいですよ、そんなこと」

周りの人間、特にユルゲンとリリアーナに確認をとった上でエルメスが前に出る。

「っ、な、何ですか……!」

そして、口でいくら否定しようとも。

彼らが、恐らく今まで半信半疑だっただろう、悪魔と呼んで罵っていたエルメスたちの確かで、圧倒的な実力を目の当たりにしてしまったことは間違いなく。

それ故に、無造作に近寄ってくる、今までは全く脅威と思えなかった細身の少年が、とてつもない怪物のように見えて。

「あなたたちがどういう立場なのか。何を意図して、どういう命を受けてここにいるのか……その辺りは、今はどうでもいいです。聞いても一から十まで喋っていただけるとは思いませんし」

その、理解してしまった威圧を隠さないまま。エルメスは淡々と続ける。

「僕たちは、教会本部に行きたいから現在この馬車に乗っています。貴方がたの指示に従ったわけではなく、その目的と貴方がたの行動が一致していたに過ぎません」

──主導権を握っているのは、どちらなのか。

それを、確かな実力と共に見せつけた上で。

「だから、聞きたいことは一つだけです」

背後の強大な魔法使いたちを代表する格好で、エルメスは問いかけた。

「貴方がたは── ちゃんと(・・・・) 僕たちを(・・・・) 教会に(・・・) 届ける(・・・) 気が(・・) ありますか(・・・・・) ? その意思さえあれば、僕たちをどう思おうとなんと罵ろうと構いません。心の底からどうでも良いので」

「そ、それは……っ」

「もしそうなら、大人しく『送り届けられて』差し上げます。ですが、そうでないなら……」

狼狽える責任者に向かって、エルメスは止めを指すように。

「──こちらで、勝手に教会本部に向かわせていただくだけです。その場合、『貴方がた』がどうなるかは……言わなくても分かりますね?」

「わ、我々の後ろには……!」

「何が居ようと、ここでの目的を妨げるなら容赦はしません。……あのですね」

あまり、こういう言葉は好ましくないが──最後に、告げる。

「──僕たちが、大司教ヨハンを潰したこと。忘れていませんよね?」

「ッ……!」

──こいつらは、やる。

元より、権威だの何だのに慄く類の人間ではなく。自分たちの目的のためなら、あらゆる立ち塞がるものを打倒する覚悟を、既に決めてしまっている。

「こ、この、罰当たりめ……!」

「何と言われようとどうでもいい──と、何度言わせるおつもりで?」

必死に絞り出した反論も、彼には微塵の痛痒も与えられず。

助けを求めるように周りの兵士たちを見ても、誰もが今見せられた彼らの力を見た結果こちらが慄いてしまって。

「……」

そうして、間も無く。

「……教会本部に連れていく意思は、ある。それだけは確かだ……」と、最低限の言葉を必死に絞り出すのだった。

「……申し訳ございません。少々過剰に脅しすぎたでしょうか」

「いや、構わない。向こうの態度は明らかにこちらを甘く見過ぎていた、あれくらい強硬な姿勢を見せた方が後々良いだろう」

「そうね。それに……あれ以降は、向こうも何も言ってこないし」

馬車の中に戻ってから。

エルメスがやりすぎたかと謝罪を見せるも、ユルゲンとカティアが否定。周りの人間もエルメスを責める様子はない。

実際効果はあっただろう。兵士たちもエルメスの言う通り護送する任務だけを淡々と行うようになり、こちらに声をかけてこない。……恐れている雰囲気も、伝わってくる。

ともあれ、僥倖だ。

何故なら、これでようやく──落ち着いて、話ができる。

「……さて。色々と驚きの出来事はあったが──一つ、間違いのないことが分かった」

それを、踏まえた上で改めて。

ユルゲンが……全員が理解しただろう事実を、告げる。

「教会で──『内部分裂』が起こっている」

「……でしょうね」

そうでなければ、説明がつかない。

あの襲撃してきた教会兵も、紛れもなく本物だった。それはサラとユルゲンの見立てであるため間違いはないだろう。

であれば、少なくとも教会が二つ以上の派閥に分かれ。そこでいざこざがあり……『エルメスたちを教会本部に招きたい派閥』と『招きたくない派閥』が争っていることは間違いない。

どちらで、何が起こっているのか。エルメスたちを招く意図は何で、招きたくない意図は何なのか。

……諸々、確かめるべきことが積み重なっていくが。

「何にせよ……教会に向かう選択は、正解でしたね」

その事実だけは、皆で共有しつつ。

この先どうするのか、どう立ち回るべきか……詳細な話を詰めつつ、粛々と馬車は進んでいく。

(教会の謎、あの魔道具の正体、内部分裂の過程、そして──『創世魔法』)

──教会本部に着くまで、大凡二日。

そこまでの旅路、他に何が起きても良いよう対応しつつ……エルメスも、己の考えるべきことに没頭していくのだった。