軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60話 護送

教会に向かうのは、第三王女派の初期メンバーにニィナを加えた七人。

主要な人員を最初から全て教会本部に向かわせるのはリスクが高すぎる。周辺貴族の出方を牽制する意味も込めて、ルキウスと元北部連合、ハーヴィスト領の兵士たちは北部に残して行くことになった。

ルキウスと軍隊戦力があれば、何かあったとしてもそうそう崩れないのは妹のニィナも保証している。ある程度の安心を持った状態で向かうことができるだろう。

そうして、一通りの準備を終えて迎えた教会本部に出発する当日。

……流石に、いくら教会と言えども王族を呼び出すのに迎えもなし──などの横暴をすることはなく、きちんと迎えの馬車と護衛の兵士たちは手配してくれた。

……だが。

その迎えの馬車も、とりあえず七、八人を乗せられれば良いというような質素なものだったことに加えて。

迎えにきた兵士たちの責任者と思しき神経質そうな青年が──開口一番、こう言ってきたのだ。

「──それでは、本日より皆様の教会本部への 出頭(・・) をお手伝いさせて頂きます」

「……え」

最低限よりやや下程度の形式的な挨拶に加えて……『出頭』という言葉。

それは、罪人が自ら裁きの場に出るニュアンスを含む言葉だ。周りの兵士たちもそれを一切否定しない、どころかその表現に納得している態度からも……彼らが、自分たちのことをどう思っているかなんて明らかで。

加えて、その後。

「では、我々も暇ではないので早速馬車にお乗りください。──ああご安心を、道中の安全はこちらがお守りしますので……くれぐれも」

こちらに、第三王女リリアーナが居るにも拘わらず。

半ば以上、押し込むような体勢で強引に乗車をさせ。景色が見えないほどに窓まで閉め切ってから……

分厚い馬車の扉を閉める直前に……こう、言ってきたのだった。

「──万が一、この馬車が何者かの襲撃を受けたとしても。その得体の知れない悍ましい魔法で我々の邪魔だけは、しないでくださいねぇ? ……こちらまで穢れますので」

そしてばたりと、扉が閉められ。

呆然とするリリアーナを他所に……有無を言わさず。馬車が出発したのだった。

「……いやはや。まさかここまで露骨とは」

あまりの扱いに、衝撃を受けた一同が復帰する頃。

ユルゲンが、一同を見渡して苦笑混じりにそう口を開く。

「です、わね……自分であまり言いたくはないのですが……王族に対する扱いでは、ないかと」

「……まぁ、仕方ないっちゃないかも」

リリアーナに続いて言葉を発したのは、ニィナ。

彼女は神妙な顔で、自らの知見を述べる。

「エル君たちはもちろん、戦ったボクたちもリリィ様の魔法が──リリィ様がすごいことはよく知ってる。でも……」

「……他の、教会の方にとっては、そうじゃない……」

「そゆこと、サラちゃん」

サラの納得の呟きに満足そうにニィナは頷いた。

「特に、『味方全員に血統魔法を使わせる』魔法なんて、絶対あいつら聞いただけじゃ信じない、 法螺(ほら) としか思わない。だからきっとあの人たちにとっては今も──リリィ様は。血統魔法を使えない、『出来損ないの王女様』のままなんだ」

「っ……」

──故に、平然と王族にこんな扱いができる、と。

端的な事実。それを受けて思わず俯くリリアーナに……ニィナは慌てて。

「あ、ご、ごめん! もちろんだから受け入れろってわけじゃないよ、ひどいよねぇこーんな可愛い王女様をこんなとこに押し込めるなんてさ。まぁくっつけるって点ではボクには得だけど」

「ちょっ! もう……!」

気を紛らわせるようにか、最後は明るく告げて勢いのまま隣に座るリリアーナに抱きつくニィナ。リリアーナは驚きと僅かな非難を顔に浮かべつつ、それでも元気付けようとの気遣いはきちんと感じ取ってか大人しく受け入れる。

……余談だが、この通り。一応初対面から敵対していたはずのニィナとリリアーナの仲は現在、非常に良好である。

当初は北部反乱が終わった時点でニィナもかしこまった態度を取ろうとしたが、リリアーナが『今更ですわ』とエルメスたちに対するものと同じような態度を許可。元より人懐っこい性格のニィナはすぐに受け入れる。

……まぁだとしても、それこそ口調含め仮にも王族に対して距離が近すぎる気がするが。そこは彼女が彼女たる所以だし、リリアーナも嫌な気はしていないようなので良いだろう。

そして、そんな彼女たちのじゃれあいで多少は空気も回復したか、カティアが──常よりも少し硬い雰囲気ながらも言葉を発する。

「……にしても、これはちょっと酷すぎる気もするわ。もうほとんどこんなの……囚人に対する扱いじゃない。送迎の馬車も質素だし、兵士たちも……いえ」

だが、そこで。

カティアが、何かに気づいた様子で呟いて。内容に遅れて他の者も気づき始めたと同時に、それを口にする。

「──兵士の、数だけは。やけに多かったわね」

「……確かに、ですね。リリィ様を送迎する上で万が一もないように──ということを考えての人員であれば妥当ですけど……その場合、馬車だけは質素だったことが分からない、かもです……」

カティアの懸念を、サラが補足する。

言われて見ればそうだ。まさか……

「……よもや。こちらがこの状況で暴れるとでも思っているのか?」

「その可能性もなくはないですが……しかし」

アルバートが口にした懸念。それもあると思いつつ、エルメスはここまでの話を受けて何か引っかかるものを感じ……そして、思い至る。

この馬車に乗る前の、兵士の言葉だ。

『──万が一、この馬車が何者かの襲撃を受けたとしても。その得体の知れない悍ましい魔法で我々の邪魔だけは、しないでくださいねぇ? ……こちらまで穢れますので』

そう、その言葉。

ここから、教会本部までの道程で。わざわざ教会の馬車に喧嘩を売る命知らずな賊などそういない、どう考えても脅威としては魔物に襲われる確率の方が高い。

なのに、『何者か』の襲撃。

──随分と、具体的な懸念ではないか。

まさか、と。

その思考に、たどり着いた瞬間。

どん、と馬車が激しく揺れるほどの衝撃が響いた。

そこから間髪入れず、外の兵士たちと……加えてもう一つ、何かしらの集団と思しき怒声の嵐。

馬車が急停止したことも合わせて、これは間違いなく。

「え──」

「……どうやら、まさかの。『何者かの襲撃』を受けたみたいだね」

驚くリリアーナに、どうやらエルメスと同じ思考に辿り着いていたらしいユルゲンがそう冷静に声を発する。

色々と気になるところはあるが、ともあれ自分たちが襲われているのならば当然看過は出来ない。エルメスたちは立ち上がろうとするが……そこで。

「ッ! リリアーナ殿下とその取り巻き! 出てくることは禁止します!」

物音を察知してか、外の責任者のそんな声が響いてきた。

「……何故です?」

「出発時も話したでしょう! あなたたちのような穢れた魔法を我々神聖なる神の騎士の前で振るうことなど言語道断! 身の程を弁えない出しゃばりなど迷惑千万、我々だけで十分打倒できます! 護衛対象である分を知りなさい、決して窓を開けてもいけませんよ!!」

その声色は、あまりにも切羽詰まっていた。

そこに込められていた意図は、自分たちに対する侮蔑……も強く含まれてはいる。決して『護衛対象の手を煩わせるわけには行かない』なんて殊勝な考えでないことは間違いない。

だがそれ以上に……『何があってもこの瞬間、エルメスたちを外に出したくない』という意図が透けて見えていた。

加えて、不自然な兵士たちの増大。

それらの情報が……エルメスに、一つの推測を形作らせる。

「──どうやら。こちらの教会兵の皆さんは僕たちの護送中、『何者かの襲撃』があることをかなりの確度で推測しており」

その内容を……容赦なく、エルメスは告げた。

「そして僕たちに…… その(・・) 襲撃者を(・・・・) どうしても(・・・・・) 知られたく(・・・・・) ない(・・) ようです」

「……なるほど。だから『窓も開けてはいけません』か」

ユルゲンが納得の声色を上げ、周りの人間も頷く。

そして──だとすれば、やることは決まっている。

「カティア様」

「もう発動してるわ」

この馬車は、物理的に視界を遮断することはできるが魔法的な処理はゼロだ。

ならば残念……こちらには、視界を封じられても周囲の状況を知れる手段を持つ少女がいる。

エルメスの声よりも先に、彼の求めるところを把握したカティアは即座に魔法を起動。

程なくして、するりと。馬車の壁をすり抜けて、半透明の人型の使い魔がやってくる。

その報告を受け、労うように使い魔、幽霊兵の頭を撫でた後……

「何が起こっているかは、見た方が早いわ」

真剣な表情で、告げる。

「それより……『襲撃者の方が優勢』みたいよ」

「!」

それを聞いてしまえば、最早躊躇いなどない。

馬車の錠前を最短の手間で破壊。窓と入り口から三方に分かれ、一斉に飛び出す。

「なっ……! 何をやっているんですか!」

「すみませんが、僕たちを送り届けるより先に全滅されても困りますので」

言うことを聞かず飛び出してきたエルメスに、例の責任者が喚き散らすが、それを無視して辺りを見渡して。

「……なるほど」

「ッ、この、話を聞かない悪魔の化身め……!」

声は、最早気にしない。それよりも気になることができたからだ。

それは、今も戦っている襲撃者──の、服装。

「……僕たちを送り届けているのは。教会の兵士、教会の意思であると思っていましたが。なのに、どうしてそれが──」

そこから生まれた疑問を、シンプルに。エルメスは口にした。

「── 同じ(・・) 教会の(・・・) 兵士に(・・・) 襲われて(・・・・) いる(・・) んですかね?」

かなりの多勢である襲撃者の……自分たちを護衛する兵士と全く同じ、その教会の意匠が入った鎧を見て。納得する、確かにこれは違和感が一目瞭然だと。

そしてなるほど、どうやら……

「『教会にも、きな臭い動きがある』。……公爵様の推測が、俄然信憑性を帯びてきた」

これを確かめるだけでも、教会本部に行く価値がある。

そう確信を深めるエルメスに対し……尚も責任者は騒ぎ立てる。

「い、今すぐ戻りなさいッ! あ奴らは『教会』などではありません。過去の害悪、邪悪な簒奪者です! そんなことより貴様らを連行する我々の命に楯突くなど──」

「どうでもいいです。そんなことより」

その言葉を、意趣返しのように言葉と威圧で断ち切ると、エルメスは。

「こちらとしてもあなた方に、安全に送り届けて頂かなければなりませんので。……どうぞごゆるりと、そちらの言う『穢らわしい力』をご覧いただけると」

さしものエルメスも……師から受け継いだ誇りである魔法をこうまで貶されて黙ってはいられない。

元より、この魔法を示すことは国を変革する意義にも叶う。丁度良い、と言っても不謹慎だが、ここらで黙らせるための 示威行為(デモンストレーション) として。

──創成魔法の性能を、間近で味わってもらうとしよう。

そんな意思を込めて……エルメスは、頼もしい弟子と仲間と共に。

道中の安全を自らで確保すべく、魔法を起動するのだった。