軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話 ようやく

「……ここからは、多分に推測を挟んだ話になりますが」

大司教ヨハン最大の手札である『未来予知』。

その対策を語りはじめた彼に、場の全員が固唾を飲んで耳を傾ける。

「多分、向こうの予知は精度にムラがある。

そしてその不確定性を誘発する要因は──人です」

「……人?」

「ええ。予知能力によって『読まれ易い』人間と『読まれ難い』人間が居る。読まれ易い人間が強く関わる事象ほど精度が上昇する傾向にある。

向こうの想定通りだろう展開と、想定外だろう展開。それらを照らし合わせた結果見つけた一定の傾向がそれです」

推測、とは言いつつもある程度の確信を持った口調。

それをある程度の納得と共に受け入れた一同は、揃って次の疑問を持つ。

ならば──と言いたげな視線を受けて。エルメスは、その疑問に対する答えを口にする。

「そして恐らく── 一番(・・) 『 読まれ易い(・・・・・) 』 のが僕です(・・・・・) 」

……ある意味で、最も苦しい解答を。

「…………な」

カティアが絞り出した驚きの声に、全員が同意する。

それもそうだろう、紛れもなくこちらの中心人物であり──これは単なる印象だが、『行動を予知される』という現象からは最も遠いイメージを持つエルメスの動きが、実際は全て察知されると言うのだから。

……改めて。本当に、向こうの予知能力が規格外であることを知らしめさせられる。

だが、その上でも。臆しながらも次の疑問を呈するものがいた。

「じゃあ……逆に、一番『読まれ難い』人間は、誰なんですの?」

「……真っ先にそれが出てくるということは、貴女様ももうお分かりでしょう」

そんな少女に向けて、エルメスは静かな口調で。

「──貴女です。リリィ様」

「!」

「貴女様が一番読まれ難い……と言うより、恐らくは唯一の『ほぼ完全に読まれない』方だと思われます」

その推論の根拠を、エルメスは続ける。

「ここまでの流れで、向こうが大きく読み違えただろう状況は二つ」

「……」

「一つ目は、『初手で僕たちを取り逃した』こと。あの最初の遭遇戦、向こうの最強カードだろうルキウス様に、僕たちの天敵であるニィナ様。加えて大司教本人まで出てきたところから──僕たちの出現場所を読んだ上で、初手で詰ませにかかってきたことは間違い無いでしょう」

「……でも、取り逃がした」

「はい。そして、その決め手となったのが、殿になった僕が放った魔法──

── リリィ様の(・・・・・) 発想で(・・・) 思いついた(・・・・・) 魔法(・・) です」

「──あ」

あの所謂自爆魔法は、道中のリリアーナの疑問から生まれたものだ。

実際大司教も……あの時は唯一、完全に驚いた表情をしていた。

そして、

「二つ目は──言わずもがな、『この状況そのもの』です」

あたりを見回しながら、エルメスが宣言する。

「向こうの策略によって、僕たちと兵士の皆さんとの関係は修復不能の手前まで来ていました。それを覆したのもリリィ様の説得であり……この状況まで向こうの読み通りということはまずあり得ません」

理由は単純、この状況に誘導するメリットが一切無い。

他にもリリアーナが関わって向こうの想定が狂っただろう出来事を列挙して、論の補強とする。

「逆に僕だけが関わった出来事は、先ほど述べた通り僕しか知らないはずの魔法まで対策されたことを含め、ほぼ確定で『読まれる』と思って良いでしょう」

何故エルメスが最も読まれるか、読まれやすさに影響するファクターが何かは……いくつか推論はあるものの確証を得るまでには至っていない。

ただ、恐らく──鍛えたからと言ってどうにかなるものでは無いのだろう。

その辺りも含め、やはりあらゆる意味でこれまでの常識に無い魔法の力であることを実感する。

……だが。だからと言って、対策を諦めるつもりだって毛頭ない。

故に、その上で──とエルメスは居住まいを正し。

「だから……これからは、リリィ様の方針を中心に行こうと思います」

今後の方針を、告げる。

「!」

「リリィ様の仰った、『誰もが使える強力な魔法』の開発。それを用いた全体戦力の強化を、ここからの北部連合対策の主軸に置きます。そうすれば、問答無用で向こうに読まれることは最小限に抑えられるでしょう。

……並行して、拠点防衛のメインも僕は外れます。僕は引き続いて大司教の分析、自分からのアクションは取らず解析だけに集中する──した方が、良いかと」

無論、最後までそのままで終わるつもりは彼とてない。

だが……少なくとも、今はそうした方が良いと。そう判断し語るエルメスの表情には、苦いものが滲んでいた。

当然だ。彼は今ある意味で初めて、自らの状況が手に余ると宣言した上で……にも関わらずその対処を、他人に求めようとしているのだから。

──でも。彼はもう知っている。

誰かの強さを。誰かとの間にある想いを。

だからこそ、エルメスは躊躇うことなく──言葉を告げる。

「……すみません。皆さんの力を、お貸しいただけるでしょうか」

彼女たちの答えは、決まっていた。

「──当然よ」

代表して、カティアが答える。

だって。

ずっと、待っていたのだ。

彼女たちの誰もが、彼に救われて。彼のために何かをしたいと、ずっと思っていて。

でも、彼は強すぎて。大抵のことは、彼一人で何とかするのが一番早くなってしまっていた。

そうならないために彼を追いかけていても、彼の歩みも立ち位置も、あまりに遠すぎて。歯がゆい思いを、ずっとしてきたのだ。

そんな彼が、今。引き止めに応じて、ひとりぼっちの歩みを捨てて。

ようやく、手を伸ばしてくれたのだ。

──こんなに奮い立つことが、あるか。

「任せなさい、エル。あなたがこれまで頑張ってくれた分、これからは私たちが頑張るから──頑張らせて、欲しいの」

「そうですわ、師匠!」

続いて、リリアーナも。

「わたくしもやりますわ。むしろ……わたくしが一番やれるというのなら望むところです!」

サラとアルバートも、肯定を示すように頷いて。エルメスはそんな様子に、安堵を示すように表情を綻ばせ。

そして──一歩引いた位置で見届けていたユルゲンは。

「…………ああ、良かった」

心からの喜びを乗せた微笑みで、呟くのだった。

「変われるよ──変えていけるよ、この子達なら。

ローズ、君の歩まなかった……僕たちの歩めなかった道を、きっと」

──その、リリアーナ陣営の様子を見て。

騎士団長トアは神妙な顔で彼らを見据え……これまで彼らに噛みつき続けていた当の隊長は呟く。

改めて思った、先ほどトアに言われたことと同じ内容を。

「…………子供、なんだな」

迷って、間違えて、彷徨って。

自分の力が及ばないような、大いなる何かに押し潰されかけても。

それでも──もがいて。少しでも良い未来を掴み取ろうとする姿が。

色々なものを捨て去ってきた自分達には、あまりにも眩しすぎる景色が、そこにあった。

……ああ、でも。それでも。

思い返す。

魔法の才が無くても、力が及ばずとも、こんな職業に就こうとした原風景は。

──『こういうもの』を守りたかったからでは、なかっただろうか。

「…………団長」

「ああ。だが、最初はお前が行け。それがけじめだ」

隣に立つ上司に声をかけると、全て分かっている回答が返ってくる。

少し気遅れしつつも、まぁそりゃ道理かと納得して。

彼らの元に、一歩を踏み出す。

程なくして気付いた第三王女陣営の前、その象徴であるリリアーナの前に彼は立ち。

「──その。今まで、申し訳ございません……でした」

まずは頭を下げる。粗野な彼には慣れない敬語を、精一杯の誠意として。

その上で、顔を上げて。

「あんたらの目指すところは、全部は分かんねぇ。……だから最後に、一つだけ聞かせてくれ」

偽りのない本心を、最後に一度だけ。

これまで弄ばれていた悔しさと、紛れもない期待を込めて。彼らを試す問いをぶつける。

「あんたたちは……くれるのか。

力を。故郷を守れるだけの──そして、散々俺たちを弄んでくれやがった大司教の野郎に一泡吹かせるだけの力を……本当に」

「──はい、必ずや」

返答には、一切の躊躇いが無く。

「第三王女、リリアーナの名にかけて。

この国を変える魔法を……誰もが、望む力を求められる国の第一歩となる魔法を、創りますわ」

その宣言を聞くと、彼は……ある意味で初めて、心から頭を下げて。

「──であれば、我々ハーヴィスト騎士団はこれより、貴女様に従いましょう」

その隣にでた騎士団長トアが、静かな敬礼を見せる。

「他の皆も、今の貴女様の宣言を実行してくださるのなら納得致しましょう。……いえ、させて見せます。それがきっと、今まで迷惑をかけ続けてきたあなたがたへのせめてもの償いです」

彼の言葉と態度には──ある意味でようやくの、紛れもない忠誠が感じられて。

……ようやく、初めて得た、エルメスたちが喉から手が出るほどに欲しかった軍隊としての戦力を前に。

長い苦境の果てに……ここで。

この国を取り返すためのスタートラインに立ったことを、彼ら全員が直感したのだった。

その後は、引き続きエルメス主導の解析結果の共有が行われた。

残る対策必須事項は、大司教の持つもう二つの力。

すなわち──『神罰』と、『洗脳の血統魔法』だ。

そのうち一つは、既にエルメスの手によって有効な対策が判明……と言うより、必要以上に恐れる必要はないという結論に至り。

そして、もう一つ。

大司教の自信と勢力の源となる魔法。それを突破し、大司教を打倒する最後の一手を、エルメスはこう告げたのだった。

「鍵になるのは──ニィナ様です」