軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 雌伏

──また、夢を見る。

ここ最近、変わらない夢。形は様々なれど、結論だけは変わらない。

彼女にとっては、最悪の。何度も何度も強制的に見せられる、見たくもないもの。思い出す度に心が削られる、あってはならない未来。

すなわち── エルメスが死ぬ(・・・・・・・) 、という結末を。

そこで、目が覚める。

絶望が、疲労が、色濃く滲んだ顔で、ニィナ・フォン・フロダイトは起き上がり。

「まだ……まだ、『変わらない』かぁ」

夢が、変わらないこと。

すなわち己の尽力が実を結んでいないことを、否応なしに確認させられて、呟く。

そうして、彼女は。

絶対に起こって欲しくない──けれど自分が何もしなければ絶対に起こってしまうだろう未来を変えるべく。

今日も立ち上がり、孤独な戦いに赴くのだった。

この『魔法』を得たのは、ある意味で偶然であり、幸運でありそれ以上に不運だっただろう。

フロダイト家で過ごしていた時、兄が急に何処かおかしな言動をするようになって。

間髪入れずに北部反乱を起こすことを持ちかけるべく、家にやってきた大司教ヨハン。

──こいつが全ての元凶だ、と確信した。

フロダイト家の中心は兄ルキウスだ。どうやったのかは知らないがその兄が既に毒牙にかかってしまっている以上、自分達に争う術はない。

そのまま北部反乱に参加することを半ば以上強制的に確約させられ、両親はその準備に奔走させられることになった。

……ならば、自分が。

自分を拾ってくれたフロダイト家への恩を返すべく、ニィナは行動を開始した。

魔力を用いた高い身体能力を駆使して、兄と両親にばかり目を光らせている大司教の監視を潜り抜けて。

なんとか奴の支配を崩す突破口を探すべく、奴の周辺を嗅ぎ回って。奴が不自然に足繁く通うとある建物を突き止め、そこに侵入し。

そして──見つけて、しまった。

そこにあった、祭壇に飾られていたとある魔道具。

意匠を端的に説明するなら、『翼の生えた書物と栞』になるだろう。

だが、肝心なのはそこではない。

その魔道具から放たれる──圧倒的なまでに神聖な、魔力の奔流。

ただの道具であるはずなのに、思わず一も二もなくその場に平伏してしまうような。そんな暴力的なオーラとでも呼ぶべきものが、祭壇を中心に建物全体に広がっていた。

問答無用で、『おそろしいもの』だと分かるその魔道具。

だが、同時に直感する。大司教の得体の知れない力の源は間違いなくこれだと。

故に彼女は、その場から逃げ出したい思いを堪えて一歩踏み出し。祭壇の上にあるその書物の形をしたものに……触れて。

流れ込む情報と共に、理解した。

その書物の名は、スカルドロギア。

『未来予知』という規格外の能力を持ち主に与える、異常な魔道具だと。

「…………なに、これ」

戦慄した。

ニィナとて貴族の端くれ、血統魔法に関して多少の知識は有している。

血統魔法の性質も、そしてその限界も。分かっているからこそ信じがたい──予知能力なんて、血統魔法ですら不可能な領域を可能にするその魔道具の存在に。

この威圧、そしてこの能力。間違いなく 古代魔道具(アーティファクト) ──いや。

魔道具について詳しくは知らないが……果たしてこれは。

古代魔道具(・・・・・) などという(・・・・・) 括りにすら(・・・・・) 収まりうる(・・・・・) ものなのか(・・・・・) ──?

「──驚いた。よもや貴様がここを突き止めるとは」

そこで。

背後から、致命的な声。

「これは私も『読めなかった』な。まぁ読めなかったということはさしたる問題ではないのだろうが」

普段のニィナなら気付けただろう。

だが、今の彼女は得体の知れないものを見て激しく動揺しており、加えてこのスカルドロギアの魔力に満ちた空間では彼女の感知能力も阻害される。

故に、気付けなかった。背後、入口から現れた大司教ヨハンに。

動揺と共に身構えるニィナ。しかしそれとは対照的に、ヨハンは思索の表情を浮かべる。

言った通り驚きはあるのだろうが……同時に、この程度大したことではないと考えているのも分かる、余裕のある仕草で。

「……ふむ。これを知られた以上、本来なら始末するべきなのだろうが……」

「っ!」

不穏な言葉に身構えるが、そこで大司教は顔を上げ。

「しかし、貴様の立場。そして貴様の血統魔法は極めて有用だ。貴様を始末するとルキウスがどうなるか分からない懸念もあるし──そうだな」

赤銅の瞳に恐ろしい眼光を宿し、顔に不気味な薄笑みを貼り付けて。

大司教ヨハンは、自分の力の源を知ったニィナに対し、こう持ちかけてきたのだった。

「──取引をしないか? ニィナ・フォン・フロダイト」

「……ふむ、ご苦労」

かくして、ニィナはこの北部反乱で……いや、それより前から。

『取引』に従い、大司教の命を受けて行動している。

現在は北部ハーヴィスト領及び第三王女派を崩すべく、兵士たちを利用した工作の真っ最中。エルメスたちが和解する、少し前のことである。

それに関連する報告を受けたヨハンが、何処か嘲弄するような薄笑と共に告げてきた。

「──随分従順ではないか。貴様も神の下に付く用意ができたのか?」

「馬鹿じゃないの」

返すニィナの声は冷たい。

当然だ。だって、そうさせているのはお前だろうとの意思を込めて。

「ボクはそっちの言うことを聞くことに加えて、予知関連の情報を外部に漏らすことができない。代わりにそっちはボクとボクの家族を害することはできない──」

内容を、告げる。取引の……いや、

「──そういう『 契約(ギアス) 』なんでしょ」

そう言葉にすると同時、彼女は自身の首元を指差す。

そこにはうっすらと、黒い鎖を象った痣のようなものが浮かんでいる。

大司教の首元にも同様の紋様が刻まれているはずだ。

これも、魔道具によるもの。ヨハンは教会の重鎮なだけあって、国のあちこちから集められた希少な魔道具を多数所持している。

今回はそれを用いて、今しがたニィナが言ったような契約を専用の魔道具を用いて行った。破ったペナルティは死であり、双方の合意がなければ解除も不可能。

その辺りに偽りはない。ニィナの感知能力は極めて高いため、魔法に不備があれば流石に気付く。

どうやら、大司教としても予知の件をばらされるのはかなり面倒なことになるらしく、こうしてある種の譲歩をしてきた結果今に至るのである。

……だからと言って、安心できるものではないが。

むしろ、ヨハンがこうして余裕ありげでありながらも自身の行動を縛る形で譲歩してきたのは不気味だ。恐らく、いや、確実にこの契約の裏でなにかしらを企んでいるだろう。

だが、望むところだ。

どうにかして相手を出し抜こうとしているのは互いに承知の上。その上で自分はこの契約の中で、抜け道を見つけ出す。

彼女の視線を受け、それでも大司教は馬鹿にするように笑うと、

「補足すると、貴様も同様に私を害することは出来ん。

……まぁあくまで物理的、肉体的にではあるがな。例えば──そうだな、貴様の血統魔法を私に使ってみるか? ひょっとすると可能性があるのではないかね?」

「……はは。安心してよ」

失笑する。大司教も答えは分かっているだろうから。

「ボクの魔法──あなたには、絶ッ対に効かないから」

ニィナの血統魔法、『 妖精の夢宮(イル・フェルリナ) 』。

効果は 魅了(チャーム) 。特性は、対象への好意によって効果が変動する。

すなわち、好きな相手にほど魅了の効果は高くなり。

逆に── 嫌いな(・・・) 相手には(・・・・) 通用しない(・・・・・) 。

そんな、ある意味でひどく厄介な特性を持った魔法。

それを利用したニィナの皮肉まじりの嫌悪宣言だったが──当然、大司教は意に介した様子もなく。

そのまま、言うべきことは済んだとばかりに。

執務室を後にしたニィナを、大司教ヨハンは底知れない表情で見送ったのだった。

……ヨハンをどう出し抜くか。

それはニィナがこの状況に陥ってから考え続けていることの一つだ。

真っ先に考え真っ先に却下した案は、先ほどヨハンも言った通りヨハンに『 妖精の夢宮(イル・フェルリナ) 』を試すこと。

理由は、あの大司教はどう足掻いても好きになれるわけがないことに加えてもう一つ。

それは──ヨハン自身の血統魔法だ。

奴の魔法の効果は洗脳。対象の思考を操作する……大枠で言えば、ニィナと同系統の魔法。

そして、思考操作系の魔法に関する特徴の一つ目。

──『同系統の魔法持ちには基本効かない』のである。

恐らく、その系統の魔法持ちは無意識のうちに心理的な防壁を張っているのだろう。

それがある故に、仮に魔法発動に必要な条件を満たしたとしても、余程のことがなければ同系統の魔法を所持している限り絡め取るのは難しい。

それは逆に、『ニィナが洗脳される』という最悪の事態に対する警戒をそこまでしなくて良いという点で安心材料でもあるのだが……しかし、向こうを出し抜く手段が一つ絶たれたことに変わりはない。

続いて考えたのが、ルキウスの洗脳を解くこと。

……しかし、それも難しい。

何故なら、思考操作系の魔法に関する特徴の二つ目。

──『最初にかけた方が圧倒的に有利』である。

すなわち、同系統の魔法をかけ直す『上書き』の方が極めて難易度が高いのだ。

余程の実力差がなければそれを覆すことは能わず──そして血統魔法の術者としては、ヨハンの方がニィナよりも桁外れに上。

逆ならばともかく、ヨハンの洗脳をニィナの魅了で上書きすることは、いくらルキウスが家族であっても不可能なのだ。

……だからこその、この閉塞した現状。

どうするか、と考えながら砦の中を歩き──そこで気付く。

(…………ああ、またかぁ)

彼女が感知し、視認もしたのは周囲の陰。

そこからひそひそと聞こえる、文字通りの陰口だ。

「──見ろよ、悪魔の血統魔法持ち。フロダイトの妹が歩いているぞ」

「本当ね。邪悪な存在でありながらどうしてああも堂々としていられるのかしら」

「穢らわしいなぁ。ああはならないように俺たちも励まなければ」

……ニィナが生かされている理由の一つがこれだ。

嫌われ者であること。反面教師であること。悪しき規範であること。

外部に加えて、内部にも明確な『敵』を用意することで。内側の不満を逃す 生贄の羊(スケープゴート) を作る。

ヨハンのいつものやり方であり……集団をまとめ上げる上では非常に有用な手段。

『魅了』というひどく外聞の悪い血統魔法を持つニィナは、その格好の対象だ。

自身に向けられる悪意の言葉、嫌悪の視線、侮蔑の気配。

相手するだけくだらないとは分かっているものの……

(……いざ自分が向けられる側になると、想像以上にきついなぁ……)

──だが、弱音を吐いてもいられない。

無視するに限る。そう思って歩き出したが……しかし。

今日ばかりは、どうやら勝手が違ったようだ。

「──よぉ、 淫魔(サキュバス) 」

陰口ではなく、面と向かって。

真正面から歩いてきた北部連合兵の一人が、そう声をかけてきた。

「…………何かな?」

初手から蔑称を使ったところを見るに、真っ当な用事ではないだろう。

声をかけてきた兵士、そしてその脇に控える二人の兵士の顔にも一様に浮かんだ苛立ち混じりの嘲笑からもその確信を深める。

「はっ、相変わらず口調も態度も身の程を弁えちゃいないな」

「ああそうだぜ、大司教様直属だからって調子に乗ってるんじゃねぇのか?」

「お前の立場はここで一番下なんだよ、分かってんのかおい」

……彼らの体にある傷跡等から察するに。

現在進行中のハーヴィスト領攻略作戦に出ていて──それに派手に失敗し。上官に叱責されて溜まった鬱憤をぶつけにきた、と言ったところか。

怒りはしないし、怯えもしない。

そんな感情をぶつけるまでもない程くだらない相手だし……全く脅威にも感じない。ニィナの剣の腕なら三人まとめて秒で転がせる。

──だが、それは出来ない。

何故なら……『兵士たちは傷つけるな』と大司教に指示されているからだ。

彼女の無表情にさらなる苛立ちを刺激されてか。

「……分かってねぇようだな。なら──直接教え込んでやるしかねぇなぁ!」

実力行使に出るべく、兵士たちが一歩を踏み出す。苛立ちに加えて、彼女の体を見る視線に邪なものも混じり始める。

周りの人間は止めはしない。むしろその光景を見て溜飲を下げようとさえしているものもいる。

何故なら──大司教がそう定めたから。

彼女が受けるべき不満や鬱憤の中には、『そういうもの』も含まれていいと言葉にせずとも決められていたから。

……改めて、味方などこの場の何処にもいないのだと認識させられて。

冷え切った心が軋むのを感じつつ──傷つけることはできないから、適当に逃げるしかないかなぁと諦念混じりに考えた、その時だった。

「──がッ!?」

がしり、と。

ニィナに詰め寄ろうとしていた兵士の頭が『片手で』掴まれる。

そのまま凄まじい握力と腕力で、片腕で兵士を宙吊りに持ち上げた。

そんな俄には信じがたい膂力を発揮した、その男は周囲の驚愕の視線を受けながら。

「──人の家族に何をしている?」

ルキウス・フォン・フロダイトは冷ややかに告げるのだった。

「だ、団長!」

現れたルキウス──北部連合騎士団長を前に、ニィナに近寄っていた三人の兵士たちが驚きの声をあげる。

……だが。

続けて彼らの表情に浮かんだのは、怯えではなく──不満だった。

「──なんでそいつを庇うんですか!」

「そうです、そいつは邪悪なる淫魔だ! 立場を弁えるべき存在のはずだ!」

「…… だが(・・) 、 私の妹だ(・・・・) 」

しかし、それにもルキウスは動じず。

「邪悪であろうとも、軽蔑されるべき存在であろうとも、私の家族だ。庇うのにそれ以上の理由が必要か?」

淡々と述べる。兵士たちは一瞬怯むが──すぐにまた、正義はこちらにあるのだと叫ぶかのように。

「で、でも! ──大司教様が直々にそう決めたのですよ!」

「ああそうです、こいつを軽蔑すること、軽蔑し、自分達はこうならないようにしようと戒めにすること! それこそが大司教様のお言葉、神のご意志のはずだ! あんたは──それにすら逆らうって言うんですか!」

その、この場で絶対の存在である大司教の言葉を借りての反論。

──だが、それでも。

「 ああ(・・) 」

ルキウス・フォン・フロダイトは。

大司教ヨハンに洗脳されているはずの男は。

「── 例え(・・) 大司教の(・・・・) お言葉で(・・・・) あろうとも(・・・・・) 。私は私の妹を、家族を守ることを優先する。その上で改心と更正を促す。それが私の判断だが、どうかしたか?」

そう、偽りなく言い切った。

「────」

思考操作系の魔法に関する特徴の、三つ目。

──『 対象の(・・・) 性質や(・・・) 性格を(・・・) 著しく(・・・) 変える(・・・) ことは(・・・) できない(・・・・) 』。

つまり、ルキウスにとって。家族を守ることは。

例え思考をいじられようとも変わらない、あの大司教の力をもってしてもどう足掻いても変えられない。それほどの、確固たるものであるということ。

「……ほう? まだ文句がありそうな顔だな。ならば私にぶつけてこい。上官への叛逆をこの場では咎めん。さぁ、言いたいことを言うと良い。

──抵抗を許されないものを嬉々として嬲る。騎士としてその在り方を良しとするべきか否かも含めて、な」

そう語るルキウスの、あまりにも揺るぎない雰囲気に圧され。

加えて最後の言葉に何も言い返せず……周りの人間諸共に、男たちもその場から退散していくのだった。

「……お兄、ちゃん」

ようやく驚愕から復帰したニィナは、それだけを絞り出す。

思考操作の魔法を持っているからこそ、彼女には分かる。

今の言葉を、迷いなく言い切れる意志の強さ。心の揺るがなさが──如何に希少な凄まじいものであるかを。

「えっと……あり、がとう」

とりあえず、それだけは言いたいと。そんな思いで続けて告げた言葉に、ルキウスは振り向いて笑みを見せる。

「何、気にするな妹よ。当然のことだとも──それに」

続けて、今までとは違う何処か高ぶった……普段の彼に近い雰囲気で。

「私としても、今は下手な水を差されたくない。……個人的に、楽しみなことができたのでな」

「…………え?」

改めての驚愕の声が出た。

ニィナの見ている限り、ルキウスはこの北部反乱に然程乗り気ではなかった、逆らうことは勿論無いが、大司教の指示だからやっているだけという認識だったはず。

一体どうして……とのニィナの疑問を読んだか、ルキウスは。

「ああ、無論ハーヴィスト領崩しに手を抜くつもりはないとも。戦うより前に相手を降伏させられるならそれに越したことはない。──だが」

更なる活力に高揚した……これまでと明らかに違う表情を見せて。

「──個人的には。あの少年とは是非また、刃を交えてみたいと思うからな」

……『あの少年』が。

誰を指しているのかは、言われるまでもなく分かった。

言葉を失うニィナに、ルキウスは何かに気付いた表情を見せると。

「……おっと。必要以上に話してはならないと言われていたのだった。

ではな、ニィナ。──ああ、また今回のようなことがあれば私に言うと良い!」

洗脳の影響下にありつつ、それでも心から家族を気遣う表情で。

ルキウスはそう告げて、足早に去っていくのだった。

「………………」

しばし、それを見送った後。ニィナは、自分の胸に手を当てる。

……先ほどまで感じていた冷たく暗いものが、幾分か和らいでいるのを感じた。

「……ありがとう、お兄ちゃん」

兄のことは、心から尊敬している。

行き場のなくなってしまった自分を拾ってくれたフロダイト家の一員で、嫌な顔ひとつせず自分を家族として受け入れてくれたこと。

加えて今見せたあの在り方も含めて、本当にすごい人だと思う。

そのまま、ニィナは歩き出す。先ほどよりも、幾分か軽い足取りで。何故なら、今の出来事を目にしたことに加えて……

「……ああ。だめだなぁ」

現状を抜け出すまでは、心の奥底に封じておこうと思っていたのに。

少しだけ、希望が見えて。大司教の作った檻も完璧ではないと分かって、光が差してしまって。

おまけに、その当人を話題に上げられてしまえば──どうしても、想いが溢れる。

「……会いたいなぁ、エル君」

出会った時から、不思議と気が合った人。

そこから交流を深めるうちにその信念を見て、自分に無かったものに憧れて、好きになった人。

そして──この先、命を落とす未来がこのままでは決まってしまう人。

彼が不覚をとるなんて、考えられないし考えたくもない。

だが──それでも、あの大司教ならきっと不可能ではない。実力云々の問題ではない。彼と奴では、それ以前に致命的に相性が悪い。

……させる、ものかと。

彼がそんな結末を迎えることなど、断じて許容できない。

そんな未来が──あって良いはずがない。

「……今度は、ボクが救うんだ」

だからこそ、彼女は今まで以上に。

非力な自分でも……否、今回は非力な自分だからこそできることがあるはずだと。

ひどい状況でも、過酷な環境でも前を向き。悪夢を打ち破る一手を、探り続けるのだった。