軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話 勧誘と宣誓

「……ふざけろ」

予想外のタイミングで現れた、元伯爵。

『救いに来てやった』との言葉に対する兵士たちの反応は──当然ながら、拒絶だった。

「今更こちらに手を差し伸べたところで、信用するとでも思うのか」

「ああ。この中の何人が、どれだけ貴様の身勝手に振り回されたと思っている!」

これに関しては、信用以前の問題。そもそも最初に裏切ったのは向こうだ。その意思だけは共有して睨みつけてくる兵士たちに、伯爵は──

「──ふむ。まあ良い」

さして気にした風も無く、鷹揚に頷くだけだった。

「私とて、正直貴様らのことなどどうでも良い。だが大司教殿の指示だ、受け入れるかどうかは貴様らの自由だとも……そもそも、興味もないしな」

「……な」

隊長の一人が困惑の声を上げる。

何故なら──この男は強欲と狭量が服を着て歩いているような人物、自身に対する反発に逆上しないような人間ではない。……逆立ちしてもこの伯爵に忠心などはないが、一応の元主人だ、性格くらいは把握している。

その印象からすると、今の伯爵の態度はあまりにも不気味に映る。

今の言葉や態度は……まるで、 誰かに(・・・) そう(・・) させられて(・・・・・) いる(・・) かのような。

「とは言え、話くらいは聞きたまえ。ああ、それとも強引に私を排除するかね? ……貴様らにできるものなら、だが」

「っ……」

不気味さにあてられてか、或いは伯爵と……明らかに手練れの血統魔法使いと分かる両脇の護衛が相手では捕らえられないと理解してか。

大人しく聞く選択肢しか取れない兵士たちを満足そうに、優越感に満ちた表情で眺めてから伯爵は再度口を開く。

「よろしい。ならばまず前提を確認するが──私の提案は、貴様らも北部連合側に来ないかということだ。何故なら……あのエルメスという男、そしてリリアーナ第三王女が貴様らを裏切っているからだ」

「……そんな証拠がどこにある」

「あるとも」

エルメスたちを信用し切ったわけではない。

だが単純に、それ以上に伯爵の言葉を聞くわけがない。そんな反発心で告げる隊長の一人の言葉にも、伯爵は悠然と切り返す。

「まずはエルメスめが傲慢にも私を引き摺り下ろした後のことを述べよう。──奴はその後貴様らに顔を見せ……『今は信用しなくとも良い、ここを守り切るという結果で示すから』などと言っただろう?」

「なっ」

何故それを。いや、そのくらいのことは現状から推測できなくともない、それだけで証拠には程遠い──と瞬時に思考する兵士たちに追い討ちをかけるように。

「そして、奴がそう言って。その直後に、この砦に威力偵察の北部連合兵たちがやってきただろう。貴様らが疲労で動けず、奴らだけが活躍できる状況。──結果で信用させると言った直後、 恩を(・・) 売るには(・・・・) この上(・・・) なく(・・) 都合の(・・・) 良い(・・) タイミング(・・・・・) でな」

「──!」

毒を注ぎ込むように、笑って告げる。

「──あまりにも間が良すぎるとは、思わないか?」

それが示唆することは、明確だった。

「全てマッチポンプ、自作自演だ……って言うのか」

「ああ。それも教会に指示された、な。ならば私が知っていることも納得だろう?」

伯爵が笑う。邪悪に、人を誘う妖魔の如く。

「な──何のためにわざわざそんなことを!」

「それは勿論、この領地を効率よく落とすためだ。実の所、この砦に徹底的に籠られると外から落とすのは教会でも容易ではなくてな。あまり時間をかけてもいられないから一計を講じたのだよ。貴様らの勇戦の結果だ、まぁ誇れ」

「じゃあなんであんたと揉めたんだ!」

「そうした方が貴様らに疑われにくいと考えてのことだ。私が素直に指揮権を譲ったと聞けば貴様らはむしろ疑問に思うだろう?」

「いつどうやって教会と繋がったんだ! そんな機会が──」

「そんなものいつでもあるだろう。それに……フロダイト兄妹の妹の方、ニィナ・フォン・フロダイトとエルメスたちは学園での顔見知りだ。『勧誘』の機会はそれだけで十分にあったと思うが?」

辻褄を合わせていく。

兵士たちの疑念も全て分かっていると言わんばかりに、整合性のある回答で捻じ曲がった事実の裏付けをしていく。

そして。

「じゃあ……何で今、俺たちは無事なんだ。最初から教会の手の人間なら、この砦に入ったその日のうちに事を起こすだろう」

次の疑問に入った隊長の言葉に、伯爵は待っていたとばかりに頷いて。

「 奴らが(・・・) 教会をも(・・・・) 裏切った(・・・・) からだ(・・・) 」

もう一つ、事実を捻じ曲げる。

「当初の予定ではこの砦に入って教会の指示で自作自演の撃退をした後、貴様らが寝静まった夜に兵士たちを侵入させてここを落とす予定だった。私が一部始終を知っているのもそのためだ。

だが、奴らはあろうことか! 貴様らという上質な兵力と第三王女という大義名分を手中に収めたこの瞬間、教会に反旗を翻そうとしたのだ! これが奴らがここにきて、現在貴様らの信用を得ようとしている過程なのだよ」

あたかも、裏の裏を取って元通りにするかの如く。

二回の捻じ曲げで、現状と合致する状況の説明に帰着させた。

結果だけ見れば現状の認識と何も変わっていないように思える。

だが違う、明確に変わってしまったものはある。それは一応は納得できるような道程を示されたことによる、兵士たちのエルメスたちに対する印象と──

「ここまで語った上で、貴様らに問おう。

──奴らを、信用できるか?」

──そこから派生する、エルメスたちに対する信頼だ。

「確かに現在こそエルメスたちは貴様らに好意的だ。教会と戦う上で貴様らは必要不可欠だからな。

だが考えても見ろ……奴らは、一度教会を裏切った身だぞ? ならば状況が変わって、今度は貴様らを裏切らないという保証がどこにある?」

あまりにも、巧みに。

今までの伯爵では到底不可能だろう話術を駆使して、疑心暗鬼を呼び起こす。

それから、とどめを刺すように。

「そもそも、貴様らはエルメスを見てどう思った?」

「どう……とは」

「怖くはなかったか? あんな、神から授かった血統魔法を無造作に扱い、時には混ぜ合わせるなどという冒涜的な行いをする輩を。それでいて力だけは無駄に強い、まさしく神をも恐れぬ振る舞いをする化け物を!」

まさしく今しがた、隊長の一人が懸念していた恐れを増幅させる。

「奴は力に溺れている。その力を 恣(ほしいまま) に振るって権力欲に目覚め、第三王女を傀儡とし意のままに動く駒を集め、この国を乗っ取ろうとしている!

万が一、奴の目論見が成功したらどうなる? あんな得体の知れない存在が上に立つこの国が、奴以外の全員にとっての地獄にならないはずがあるか!? 奴に従っても良いことは何もない。大司教殿の言葉を聞き、私はそう確信した」

そして、最後に。

「故に、大司教殿の言葉を貴様らにも伝える。──『北部連合に加われば、貴殿らと領民の生活も保証する』だそうだ」

この上なく、甘美な誘いの言葉を告げる。

「え……」

「貴様らの戦いを、大司教殿は高く評価しておられるようだ。まぁ曲がりなりにも私のもとで戦えた者たちだ、当然だがな」

伯爵らしい調子に乗った言葉はともかく──大司教の言葉自体は、彼らにとって願ってもないものであることは変わりなかった。

ざわめく兵士たちを他所に、そこまで言い終えた伯爵は常の様子を取り戻して。

「まぁ、言った通り受けるかどうかは貴様らの自由だ。私にとっては最早どうでも良い。何せ──大司教殿からは引き入れる必要はなく勧誘するだけで良いと言われたからなぁ。これで私も幹部待遇、ようやく正しく評価してくれる者が現れたというわけだ、ははははは!」

高笑いをしたのち、言葉通り兵士たちに興味を失ったかのように背を向け。

そして、両脇に控える護衛に声をかけて。

「さぁ、早く私を案内しろ。こんな埃臭いは場所さっさと出て──」

「──行かせるわけには、いきませんわね」

固まった。

「──」

想定すら(・・・・) して(・・) いなかった(・・・・・) 。

敵地に入り込んでいながら、何故かそんな表情を浮かべる伯爵と護衛二人の前で。

第三王女リリアーナが、敵意を宿した碧眼を向けてきていた。

それでも瞬時に排除の判断を下そうとする──が、それより先に。

「……リリィ様に感謝ですね」

リリアーナの後ろから、エルメスも現れる。

「完璧なタイミングでしたよ、元伯爵。丁度僕たち全員が見張りで空けている状況で……しかも侵入できる抜け道は全て塞いだつもりでしたが、まさかあんなルートがあるとは。リリィ様が感知してくださらなければ危ないところでした」

そう語る彼の手には、既に翡翠の文字盤が。

そのままエルメスは、静かに伯爵を見据えて。

「けれど、無事尻尾は掴みました。

……貴方にも感謝します、元伯爵。泳がせたおかげさまで── 大分(・・) 絞れました(・・・・・) 」

完全な臨戦態勢に、逃げ場のない家屋の中。唯一の出口はエルメスに塞がれて、彼は既に魔法を起動済み。

──完全に、詰み。あとは逃げるだけなのに、その一歩が彼方まで遠ざかる。

「……ばか、な」

それを認識すると、伯爵はぶわりと冷や汗をかいて。

「話が──話が違う! 絶対に安全ではなかったのか大司教殿、貴方の言う通りにすれば『絶対に見つからない』のではなかったのか!?」

「……何を言われたのかは、分かりませんが」

要領を得ない動揺を見せる伯爵に、エルメスは尚も静かに。

「まさか、そんな荒唐無稽な話を鵜呑みにする人間が居るとは。大司教の話術が優れているのか、はたまた貴方が愚かなのか。……両方ですかね。むしろ単純に貴方がしくじった可能性の方が高そうです」

「く……っ、ふざけるな、あと一歩のこんなところで! おいお前たち、早くエルメスをやれ! 何のための護衛──!?」

脇に控える護衛に指示を出そうとするが──そこで驚愕する。

何故なら……既に倒れている。エルメスがここに現れる前に彼自身の手で闇夜から放った奇襲の魔法によって、既に意識を刈り取られ倒れ伏している。

根拠不明の自信も奪われ、敵地で孤立。今までの傲岸な態度の源を全て剥ぎ取られた伯爵は。

「ひ……っ、や、やめろ、くるな、来るなぁ──!」

最後は自身の血統魔法で抵抗しようとしたらしいが、当然そんなもの彼に効くはずはなく。

順当かつ速やかに捕縛され、遅れて駆けつけたカティアたちの手によって連行されていったのだった。

(……まぁ、間違いなく捨て駒だろうな)

そうして、数分後。

より厳重に伯爵を閉じ込めた後に、エルメスは心中で分析する。

何を吹き込んだのかは……大方予想がつく。しかしそうなると、尚更下手に情報を明かすわけにはいかなくなったなと心の中で呟く。

現在行っている、『得体の知れない技術』の解析。今回伯爵を泳がせた件でそれはあと一歩のところまできていると直感した。

あとはそこを詰めて、兵士たちとの信頼も築く。その二つを整えれば、いよいよ反撃に打って出ることが出来る──

──と、思っていたのだが。

「……伯爵は、どうした?」

元の場所に戻って、リリアーナと共に兵士の隊長たちと対面したエルメス。

開口一番投げかけられたその問いに、エルメスは少し首を傾げると。

「簡単には侵入できないところにもう一度閉じ込めましたが、それが何か──」

偽ることなく、素直に答えようとしたが……そこで。

「──口封じに殺したのではないのか?」

あまりにも、過激な疑念が。

別の隊長から、もたらされた。

「……え」

微かに目を見開き、隊長たちを見るエルメス。

そこには……今までよりも、遥かに強い。

伯爵の……伯爵の口を借りて放たれた大司教の言葉によって植え付けられた、エルメスに対する恐怖があった。

別の隊長が、口を開く。

「な、なぁ、エルメス殿」

「何でしょう」

「貴殿は……教会を裏切った人間なのか?」

「……何を吹き込まれたかは分かりませんが、違いますよ」

「じゃ、じゃあ! 何のために俺たちを助けるんだ、何の意図があって!」

「最初に説明したと思いますが……リリィ様の臣下としては、北部反乱を収める義務があるからですよ」

「そ、そんな!」

エルメスは、何一つ偽りなく言っている。

だが──彼らには。

これまで、貴族の腐敗をこの上なく見せつけられてきた彼らには、あまりに薄弱な根拠として映る。

「そんな! 強い魔法の持ち主がそんな、『ただの善人』みたいなことを──!」

「ッ、落ち着け」

幸いにも、それ以上の言葉は致命的な亀裂になると察したのだろう。

別の隊長によってその先は止められたが……しかし。

「……」

エルメスを見る、彼らの視線。怯えと、恐れを含んだ視線で察する。

『伯爵を泳がせて様子を見る』というエルメスの手法は、一応は成功した。向こうの手札を暴く大きなヒントとなり、反撃の準備完了に大きく近づいた。

……だが、そのために飲んだリスク。伯爵の動きによって発生する不確定要素も──大司教ヨハンは、きっちり最大限回収していったのだ。

エルメスに対する恐怖と不信という、この上ない形で。

結局その晩は、これ以上何を言っても逆効果になるとエルメスも悟り。

物言いたげなリリアーナを抑えて、その場を後にしたのだった。

「……どう、して」

あの話し合いの後、見張り交代の手続きを済ませ、自分たちの仮住居まで戻ってきたリリアーナたち。

既に他の人間が就寝の用意に入っている中……眠れずに外に出たリリアーナが、そう呆然と呟いた。

彼女の脳裏に浮かぶ──こびりついているのは、先程の兵士たちの表情。

「師匠は、あんなに頑張っているのに。あんなに全力で北部連合を退け続け、この地を守るために手を尽くしているのに……!」

疑心と、不信と、猜疑と、不安。

怪物を見るかのような、表情。

「どうしてみんな──あんな目を、するのですか……!」

大好きな師匠の砕身が、認められない不条理。

それが己のことよりも耐え難く、彼女はその可憐な容貌を泣き出す寸前にまで歪めて叫ぶ。

その言葉は、彼女の内から溢れたものであり。誰かに聞かせるためのものではなかったのだろう。

だが──今回ばかりは。それを拾い、答えを返せる者がいた。

「……怖いからですよ」

静かな声が、横合いから響く。

びくりと肩を震わせて、首を横に向け──そこにいた意外な人物に、リリアーナは目を見開く。

「……アルバート?」

彼女にとっては、一行の中で一番馴染みのない少年だった。

むしろ、彼の方から意図して距離を保っているように思う。というか……色々と距離感がおかしいあの一行の中ではある意味で最も『普通の臣下』らしい態度を取る少年だ。

だからこそ、こんな場で声をかけてきたことが意外で。けれどそれ以上に言葉の内容が気になって続きを促す。

「失礼。……個人的に、馴染みのある話題だったもので」

対してアルバートは一度きっちりと非礼を詫びてから、こう続けてきた。

「 訳の(・・) 分からない(・・・・・) 強い(・・) 力を(・・) 持った(・・・) 存在が(・・・) すぐ(・・) 近くに(・・・) いる(・・) 。その事実は、想像以上に普通の人間にとって恐怖を覚えるものなのです」

「で、でも──師匠はきちんと、北部の皆さんを守り続けているではありませんか!」

「はい。……それでも、関係ないのです。──『いつ牙を剥くか分からない』。『牙を剥かれたら自分に成す術はない』。その恐れがある限り、人はそのような存在を簡単には受け入れることができないのです」

例えるなら、自分の部屋の中に人食い虎がいるようなものだ。

いくら人を襲わないと保証されていても、どれほど頑丈な檻に入っていようとも。

自らを簡単に殺戮できる力を持って──かつ得体の知れない存在がいる以上、人は容易には安心できないものだ。

リリアーナはそれを理解しつつ……そう語るアルバートの口調が気になって問いかける。

「それは……あなたの経験談ですか?」

「……お恥ずかしながら。俺もかつてはエルメスに、同じような印象を抱いていました。だからこそ分かるのです。恐れる心も──そして同時に、『ならば殺されるより先に排除してしまえ』という思考に、容易に流れてしまうことも」

「ッ!」

それは。

今の自分たちにとっては、あまりに残酷な未来予想図。

「特にあの男は……近しい人間以外の周りを顧みない傾向にある。それよりも研鑽を、進歩を、己の道を進むことに力を注ぐ類の人間だ。

だからこそ簡単には理解されず……故に。きっと少し目を離せばすぐに、誰も知らないところまで飛んで行ってしまうのでしょう」

「……そん、な」

そうして、最後には誰の理解も得られることはなく。

ただただ、ひとりぼっちで。寄り添う人もなく、ついていく人もなく。

前人未到の地へと、孤独のままに飛んで行く、そんな存在が。

──彼女が伝説でのみ知る、血縁の魔女の姿と合致した。

「…………あ」

そこで、リリアーナは悟る。

今、エルメスが置かれている状況。大司教ヨハンの手によって孤立させられた状況。それを誰も阻めることなく、突き詰められてしまった結果が──

きっと。空の魔女、ローズの辿った道なのだろうと。

リリアーナはローズについて詳しくは知らない。けれどエルメスの師でありユルゲンの友人であることは知っているし、かつての同じ王族として普通の人よりは知識もある。

故にこそ、分かる。この直感は限りなく正しいと。

そして今、エルメスが。

自分の師匠が、同じ道を辿る──辿らされようとしている。

きっとそう在ることを望む者の手によって、排除されようとしている。

ならば。

弟子として──自分のやることは、決まっている。

「……わたくしが」

「殿下?」

今までとは違う、静かな決意を含んだ声。

それを感じ取って問いかけるアルバートを他所に、リリアーナは前を見据えて告げる。

「わたくしが……師匠を一人には、させません」

教えてもらったではないか。

守られるだけでは足りないと。自ら動かなければ掴めないと。

そう決意して、少しだけの成果を上げて。

……けれどそれ以降は結局、何もできなくて。ずっと歯痒い想いをしていた。

ならば今、もう一度。飛び立つ勇気を持つ時だ。

それに、何より。

敬愛する師匠が。自分の心と魔法と、未来を捧げた師匠が。

自分の元から飛び去ってしまうなんて──絶対に、絶っ対に、嫌だ。

その一番強い想いを、彼女は心の中で燃やす。

「──感謝しますわ、アルバート」

振り向いて、目立たないけれど実直な。

実力は足りないのだろうけれど……だからこそ見える視点を持った少年にも、礼を告げる。

彼もやはり、ユルゲンに選ばれるだけのものはあるのだと。

加えて。

「おかげさまで……ようやく。わたくしの進む先が、見えました」

同時に、ずっと迷っていたものにも先が見えた。

ここまで流されるままに、王都を飛び出して。このままではだめだと、玉座を奪還する宣言をした。

……けれど。自分がその座を欲するものとして、何を目指せばいいか、どこに向かえばいいかが分からなかった。

それにも、光が差した。

無論、どうしたらいいかは分からない。足りないものもあまりにも多すぎる。

だけど……次に踏み出す一歩の先だけは、迷うことがなくなった。

彼女の要領を得ない宣言に、呆けていたアルバートだったが……すぐに察したのだろう。再度静かに、丁寧な臣下の礼をする。

彼女ももう一度感謝を述べると、吹っ切れた様子で自室へと戻っていった。

そうして。

彼を、ひとりぼっちにさせないために。この国を、変えるために。

──未来の王が、動き出す。