軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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巨人との対面を終えた僕らは、あの部屋を出て、建造物で一晩泊り、それから再び雲の上を、教えられた場所を目指して歩いてる。

知りたい事は、概ね知れた。

最初は驚いたし、怖くも思ったが、そういう物だと割り切れば、巨人のネットワークは便利な代物だ。

何せあの部屋で知りたい事を思い浮かべれば、その答えが自然と僕の中に入って来る。

それが自分の中に元からあった知識ではなく、巨人のネットワークより与えられた物だと自覚して区別すれば、それは話を聞くのと何も変わらない。

知識、記憶は自分を構成する要素だから、己の知識とネットワークより与えられた知識、それらを混同すれば自分が歪む。

そういう怖さは確かにあるけれど、僕は、うん、元より他のハイエルフよりも抱えてる記憶が多いのだ。

頭の中の整理には、多分きっと慣れているから。

巨人のコルデスが驚いたくらいには、僕は彼らのネットワークから知りたかった答えを得る事ができた。

どうして巨人は他の古の種族と違って、時に大きくこの世界に干渉するのか。

それは彼らの世界への愛が、とても強い物だからである。

竜は世界を護る者であり、同時に焼いて滅ぼす者だ。

故に竜は自らが役目を果たさなければならない時まで眠り、必要以上に世界に関わらないし、情を移さない。

不死なる鳥が関わりを持つのは、主にハイエルフと巨人である。

故に不死なる鳥は同じ古の種族には強い愛情を抱くが、それ以外の存在への執着は薄い。

ハイエルフは地上で暮らすから、目が届く範囲はごく狭く、その外側への興味が薄かった。

精霊は世界にあまねく満ち、時に生きる何かを慈しむ。

しかし精霊の個は薄く、自発的に現状を変える意思はない。

だから巨人だけだった。

世界中に目が届いてしまうから、地に暮らす存在を愛しく思ってしまい、どうにか今の現状を変えようと躍起になっているのは。

けれども巨人は全能ではなく、その試みは、今も失敗を続けてる。

例えば巨人は、新しい人の成長を促す為に、自然の力の使い方を教えたという。

そう、仙術だ。

だが仙術を会得できたのは、ごく一部のほんの僅かな人のみ。

しかもそんな僅かな人ですら、多くは途中で挫折をして諦めたり、道を間違え他者を食らう邪仙となる。

また本当に一握りの、自然の力を己の物として進化した人、そう、仙人は……、けれども繁殖して増える機能を失った。

それ故に巨人は、新しい人に自然の力を扱わせる事を諦め、その中でも特に変化を起こし易い要素である魔力を用いる術、魔術を代わりに人に与えたのだ。

神が、新しい人を生み出す際に、変化を起こし易い要素である魔力を多用したように。

でも魔術を得た人は更なる力を求め、己の身を魔力によって変質させた。

獣が魔物となるように、人は魔族になったのだ。

巨人が魔術を人に与えなければ、魔族は生まれなかっただろう。

なので不死なる鳥は、巨人の実験で魔族が生まれたと称した。

不死なる鳥は、魔族が生まれたのは巨人の失敗、罪だと考えてる。

あぁ、それも決して間違いではない。

何故なら巨人が人に与えた魔術は、今の人々が扱う物よりも、ずっと高度だったから。

長い年月と試行錯誤を積み重ねた訳でもなく、高度な力を与えられただけの人が、そうなってしまうのも無理はなかった。

仙術や魔術ばかりでなく、その他にも色々と巨人は失敗を重ねてる。

要するに彼らは、人に対して甘すぎたのだ。

地上で懸命に暮らす人々を、雲の上から眺める巨人は、本当に愛しく思っているから。

彼らは決して正しくはない。

だが間違ってるとも、僕には言えない。

だって石と化した休眠中の巨人達は、どうすれば世界が燃えず、人々が安らかに暮らし続けられるかを、今も議論し続けている。

「私は、エイサー様は巨人に挑む心算なのだと、そう思ってました」

雲の上を、僕と並んで歩くアイレナが、そんな言葉を口にした。

どうやら、アイレナの思う僕は随分と好戦的らしい。

ただ、実際にそうなる可能性は高いんじゃないかと思って、備えていたのは事実だ。

巨人が傲慢さから、人を弄んでいたならば、僕は殴り飛ばす心算だった。

でも彼らは、ただ焼かれる世界を変えたくて、どうにかしようと足掻いてるだけ。

巨人の行動は決して正解ではなく、時に大きな犠牲が出る事もあるけれど、彼らはその先に、積み重ねた物の上に、焼かれる事のない世界を作ろうとしてる。

対案を持たぬ僕に、彼らを咎める言葉は吐けない。

出てしまった犠牲に一番心を痛めているのは、その詳細を見て、記録して、何時までも覚えてる巨人達だ。

「勝てるかどうか、怪しかったしね。僕の事も、アイレナの事も、コルデスは見縊ってなかったし」

僕は戯けた風に、大袈裟に肩をすくめて見せて、そう返す。

巨人がもっと傲慢だったら付け入る隙も、そもそも殴り飛ばす理由だってあっただろう。

例えば巨人がアイレナを軽く見てたり、或いは眼中にも入れてなければ、彼女の力で一撃を入れてやる心算だった。

確かにエルフであるアイレナが、精霊に助力を求めたところで、巨人の脅威にはなり得ない。

でもそれは、精霊がエルフに貸す力の量、つまりは出力の問題だ。

アイレナの制御は精密で、仮に精霊がより多くの力を貸してくれたとしても、ある程度までは制御して見せるだろう。

だったら後は簡単な話で、ハイエルフである僕が、精霊に対してアイレナにもっと多くの力を貸してやってくれと頼めばいい。

そうすれば、巨人の胆を冷やせるくらいの出力は、彼女にも出せる筈だった。

しかし僕の考えも、コルデスは見抜いてたんじゃないかと思う。

ハイエルフがエルフの限界を取り払う。

それは実に危険な裏技だけれど、……僕に考え付くなら、過去のハイエルフの中には同じ事を考えた者もいた筈だ。

巨人はきっと、それも既に記録済みだろうから。

「喧嘩にならずに済んで、良かったと思うよ」

僕は心からそう思う。

お互いに単に相手を排除したいだけなら、手は幾らでもあったのだ。

巨人はそれこそ、あの建造物の機構を活かせば、僕らを抵抗の余地なく殺せただろう。

逆に僕だって、巨人に痛い目を見せるなら、あの建造物の真下の雲を水に戻して、地に落としてやればいい。

だけど僕らは、別に手段を選ばない不毛な戦いがしたい訳じゃない。

コルデスは、僕にどうして旅を続けるのかと問うた。

何時立ち止まっても良かったのに。

実際に、それなりの時間を一ヵ所に留まる事も少なくないのに、それでも僕は旅を続けてる。

それは一体何故なのかと。

本当に難しい問い掛けだった。

だってそれに、答えなんてないのだ。

短期的には、目的はある。

森を出るだとか、魔術を習いに行くだとか、ヨソギ流の源流を探すだとか、ウィンに会うだとか。

でもずっと旅を続ける理由は、それが僕の生き方だから、としか言いようがない。

生きる事に目的はない。

短期的な目的は作るが、それがなくても生きる事はできる。

また過ぎ去った時間を見て、そこに意義を見出す事はできるけれど、事前にそれがわかる筈はない。

つまり僕は、自分が自分らしく、思うように生きたいだけで、その形の一つが旅だった。

見たい物が見たい。

食べたい物が食べたい。

会いたい人に会いたい。

僕は単に、我儘なのだ。

この雲の上の旅が終われば、暫くは一つ所に落ち着くかもしれない。

いや、それがずっと続くかもしれない。

或いは明日にでも、別の場所に向かって旅立つかもしれない。

我ながら度し難いとは思うけれども、僕はそういうハイエルフだった。

だから今回は色々と知れて良かったと思う。

別に僕が巨人達の気持ちを知ったからって、何かが変わる訳じゃない。

でも空を、雲を見上げる時に、そこから見守ってくれている彼らの事を思い出せる。

僕はそれで満足だ。

故にこの雲の上での用事は、残るは後一つ。