軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

297

螺旋階段に運ばれて上へ上へと進んでいくと、辺りの様子が変わり出す。

周囲を覆っていた壁から徐々に色味が薄れていって、やがてガラスのように完全に透明となった。

風が入って来ないから、外と中が区切られているのは間違いない。

だけど陽光が、遮る物なく中へと差し込んできて、まるで世界が輝いているかのように、眩い光に包まれる。

そう、ここは雲の上、天の世界なのだと、改めて再認識させられた。

光の中を、螺旋階段は止まる事なく動き続け、そして僕らはそこへと辿り着く。

床も、壁も、天井も、全てが透明なその部屋に。

部屋の中央には大きな円卓と、それを囲んで座る、やはりとても大きな人影。

だけどその人影は、僕らの来訪に何の反応も示さない。

何故ならその人影は、

「……い、石?」

アイレナの呟き通りに、どれもが石の肌の石像だったから。

あぁ、いや、でも違う。

円卓を囲んで座る人影の数は十三。

しかしその中の一つだけは、温かみを感じる肉の肌を持ち、ずいっと動いて、僕らの方に視線を向けた。

「会合中だったのでな。出迎える事ができずに済まない。私が現在活動中の巨人、コルデスだ。放浪のハイエルフ、エイサー。それから新しい人、エルフのアイレナ。君達の事は知っている。ようこそ雲の上、我らの世界へ」

巨人が発した声は大きく、けれども静かに穏やかで、強い威に満ちている。

でも問題はそこじゃない。

目の前の巨人、コルデスが、僕だけでなくアイレナの呼び名すらも知っていた事だ。

つまり巨人は、少なくともコルデスは、エルフの中のアイレナという個を認識していて、恐らく侮ってもいない。

天より地を見続ける巨人の目は、一体どこまで届いているのだろうか。

「巨人に呼び名を知られてるなんて、……光栄だけれど、少し怖いね」

相手の威に、場の雰囲気に飲まれぬように、僕は少し戯けた風に言葉を返す。

アイレナは、この場は僕に任せるべきと判断したのだろう。

巨人の言葉には一礼で応え、僕の一歩後ろで控えてる。

「森を出たハイエルフ達は、世界という水面に大きな波紋を起こす岩だ。その波紋は我らにとって実に興味深い観察対象となる。故に君達の旅立ちは、最初から目にしていた」

やはり大きいけれど静かな声で、巨人は穏やかにそう言った。

でもその言葉には、強烈な違和感がある。

……達?

達とはどういう事だろうか。

僕と、アイレナ?

いいや、違う。

それだと言葉の意味が繋がらない。

ならば僕以外にも、深い森を出たハイエルフがいるのだろうか?

しかしそんな事は、ハイエルフの長老であるサリックスは、一言も口にしなかった。

だとすれば、それは過去のハイエルフを意味するのか?

どうにも、妙に引っ掛かる。

だがそれよりも、今、僕が気にするべきは、旅立ちを最初から見られてたって事の方だ。

尤も、別にそれを悪いという心算はない。

深い森の外に出たハイエルフが、世界にとって大きな影響をもたらしかねないというのは紛れもない事実であるし、それを観察するのも確かに巨人の役割だろう。

見られて気分が良いとは思わないけれど、きちんと理の通った話に短絡的に文句をつける事はしない。

「そう、それは話が早いね。じゃあ僕らがここに来た理由も、もうわかってるんだ?」

ただ、その話が本当ならば、どうやって僕の旅立ちを知ったのか。

疑問は色々と、次から次へと湧いてくる。

ぐるりと、円卓を囲む人影、椅子に腰かけた石の像を、僕は見回す。

さっき、コルデスは活動中の巨人は自分だと言っていた。

ならばこの石の像は、休眠中の巨人だろうか。

それから、会合中だったとも言っていたが……、だったら石の像と会合をしていた?

その時、ふと思い浮かんだのは、妖精の存在だ。

妖精は、意識を共有して、一人一人を端末とするネットワークを築いてる。

もしかすると巨人も、似たような事ができるんじゃないだろうか。

いいや、むしろ妖精の生態も、巨人によって作られた物なのかもしれない。

だとしたら巨人のネットワークは妖精よりもずっと高度で、個を捨てる事はなく、しかしネットワークを通じて情報を共有し、世界の記録を蓄積してる。

ふと、そんな風に思ってしまった。

あぁ、違う。

思わされたのか。

見えないけれど、この場に存在するであろう巨人のネットワークに、僕の感覚が何らかの影響を受けた。

だからこんな突拍子もない事を、不意に考えてしまったのだ。

流石に、これは怖すぎる。

するりと、あまりにも自然に僕の中に情報が差し込まれた。

でもそこに、巨人の悪意は感じない。

或いはこの場所が、精霊が入って来ないように作られてる理由は、さっきの僕のように精霊が巨人のネットワークの影響を受けてしまわないようにする為なんじゃないだろうか。

僕、ハイエルフがそうであるように、同じ古の種族である精霊は、存在としては巨人と決して遠くないから。

特に個が薄い傾向にある精霊が、自分達の影響を受けてしまう事を、巨人は望まなかったのだろう。

彼らは彼らなりに優しく、それからこの世界を愛していると、巨人のネットワークに触れた僕は知る。

「あぁ、君でも、あまりここに長居をするのはよくないか。もちろん、君達の目的は知っている。だが私も、君に一つ問いたい事がある」

コルデスの穏やかな声に、ほんの少しだけ苦い物が混じった。

寂しさと心配の入り混じった、その苦味は、親しみの裏返しか。

もちろん僕とこの巨人、コルデスは出会ったばかりだ。

だけど彼は、もうそれなりの時間、僕の旅路を見守っていて、親しみと思い入れを持ってくれているのだろう。

例えば物語の読者が、登場人物に親しみと思い入れを抱くように。

それ故にコルデスは、僕にそれを問うたのだ。

「エイサー、全ての古の種族と出会ったハイエルフよ、どうして君は、旅をする?」

……と、そんな風に。