軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦会議

夜、紗由が家にやってきた。

リビングのソファに腰を下ろした紗由の顔が、少しむすっとしていた。

昼間のことを根に持っているらしい。

ただ、話してくれる気はあるようだった。

「で、あの人だれだったの」

「……霧島さんだよ。姫川ユリナの中の人」

紗由の動きが止まった。

それからゆっくりと俺を見た。口が半開きになっていた。

「……あの美人、ユリナ先輩だったの?」

「うん」

「本気でいってる?」

「本気だよ」

しばらく、紗由は何も言わなかった。

「ありえない」

ぽつりと一言をこぼした。

「マジでユリナ先輩狙ってたんだ」

「ちがうちがう。一緒にコラボカフェ行っただけだろ」

「男女二人で出歩いたら、それはデートでしょ」

そういう発想になるのか。

お前だって男友達の一人や二人いるだろうに。

「今回はホントにデートじゃなくて、ただ遊びに行っただけなんだって」

フーン。と紗由が冷たい目をする。信じていないのがわるわかりだ。

「ていうかさ、ユリナ先輩って、彼氏いるんじゃなかったの?お兄ちゃん、間男か何かなの?」

間男。生まれて初めて言われた言葉だった。酷い暴言だ。

「お前も知っているのか、その話」

紗由は、ユリナ先輩の彼氏がどうこうと言っていた気がする。彼氏の話は有名なのだろうか。

「まあ、事務所の人の噂とか気になって調べることあるからね。検索したら出てくるよ、彼氏がいるみたいな話は」

その彼氏がいる、というのは例のパコ姫の話と関連してそうだ。

「お兄ちゃん、大丈夫?刺されたりしない? 嫌だよ、ニュースでお兄ちゃん見るの」

口調は軽いが、本気で心配していそうな声色だった。

「多分大丈夫だ」

今日の話を聞いた限り、彼氏うんぬんの話は誤認が原因だ。

今はフリーなのだと思う。まあ、そもそも霧島さんを狙っているつもりはない……と思っているが。

そういえば、と俺は紗由に聞きたかった話を切り出すことにした。

「紗由がこういう状況になったら、どうする?」

俺今日の霧島さんとの話を、細部をぼかしながら話す。

聞きたいことは、一つだった。

「もし、違うアカウントの人物と同一人物だと疑われたら、どうやってその疑いを晴らす?」

紗由は、「なんでそんなこと聞くの?」とは言わなかった。

妹は妙に賢しいところがあるので、搔い摘んだ話で、ある程度は察しはついているのかもしれない。

「単純に考えたら、同一人物ではないって発信してもらうことだけど」

「だけど?」

「まあ、穿った見方をしたら、そう主張しているだけとしか受け取れないよね」

それはそうだ。同一人物なら、そのアカウントも自由に扱うことができるのだから。

「たとえばだけど。生放送とか、配信している最中に、同一人物と疑われているアカウントで投稿したり、メッセージを送ったりとかするのはどうだ?」

うーん、と紗由は少し考える。

「それも微妙かな。配信しながらスマホでメッセージ打つくらいなら全然できるし。まあ、多少目線とかおかしくなるかもだけど、出来なくない。あとは、SNS次第で予約投稿とかでも可能だし」

そうだよな。同一人物ではないと主張することは、かなり難しい。

「なら、これならどうだ?」

俺は考えていた案を話し始める。

「それぞれのアカウントで、配信をするんだ。配信はコメントとのやり取りが発生するから、絶対に二人は必要になる」

その時点で、同一人物説は崩れる。完璧なアリバイになると思った。

しかし、紗由は納得していなかった。

「それも、うーんって感じ」

なぜだ。しばらく考えて沸いた、なかなかのアイデアだったのに。

「だってさ、代役立てることもできるでしょ。自分が配信している最中に、自分のアカウントを別の誰かに使わせて配信させる。そう考えたら、同一人物説は崩れない」

「そこまで穿った見方をするか?」

「するんじゃないの。人は信じたいものを信じるんだから」

そっかー、と息を吐く。簡単には、同一人物説を崩すのは難しいのかもしれない。

そう思ったとき、一つだけ考えが思い浮かんだ。

「ちょっと思ったんだけど」

「なに?」

「配信している人物が、代役を立てられないような人物ならどうだ?」

言いたいことはこうだ。

インターネット上では、姉のアカウントが霧島さんの裏垢だと思われている。

つまり、あのアカウントを動かしているのは霧島さん本人だという認識だ。

だが、霧島さんが姫川ユリナとして配信している最中、同じ時刻に、前世と疑われていた人物が、別の場所で配信をしたとしたら。

一人の人間が、同時に二か所で配信をすることはできない。

「あのアカウントは霧島さんではない」という証明が、自然にできる。

紗由は、その話を聞いて、頭の中で考えを巡らせていた。しばらくして。

「お兄ちゃん、結構頭いいんだね」

感心したように言う。

「けど一個だけ。ほんとに、代役立てられないような人なの?」

そうだ。この作戦には一つ懸念がある。

前世とされている人物が、既に顔や名前が知られていて、本当に代替不可能な人物であるかどうか。

「大丈夫だ。調べた限りだと、元モデルで、顔出しで活動していた人だ。同じタイミングで顔出しのライブ配信をすれば実在する別の人間だとわかる。顔が既に知られているから、簡単に代役は立てられない」

「なるほどね。顔出しまでしていたら、さすがに別人だって証明できそうだね」

紗由はにっこりと笑った。

「お兄ちゃんさ、相変わらずおせっかい焼きだね」

俺の考えていることはお見通しなのかもしれない。

さすがはマイリトルシスターだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

その夜、紗由が帰った後。

俺は一人、部屋の明かりを落として、パソコンの前に座っていた。

インターネットで調べた情報を、改めてまとめていたのだ。

まず霧島さんの姉について。

夏目シホ。

霧島さんの裏垢と疑われているアカウントの持ち主であり、前世だと噂されている人物。

そして、おそらく霧島さんの姉だ。

一時期モデルとして活動していたらしい。今は動いていないプライベートのSNSアカウントが、その裏垢疑惑のものだった。

更新はちょうど、姫川ユリナが活動を始めた頃で止まっている。

なるほど、これは疑われるかもしれない。時期が重なっていた。

動画投稿サイトには、配信の転載動画もあった。少し後ろめたい気持ちになりつつ、それも見てみる。

題名は『himekawa yurina realface』

顔は、確かに霧島さんに似ていた。ただ、霧島さんがクールで自信のありそうな雰囲気なのに対して、姉のほうは、やわらかで、優しそうな印象を受けた。

さて、問題は、このSNSアカウントが今も生きているかどうかだ。

夏目シホに連絡を取る手段は、俺にはない。

だから、アカウントに直接メッセージを送ることにした。ダメ元だ。

これで反応がなければ、別の手を考えるしかない。

そう思って、文面を打つ。

――妹さんの、姫川ユリナさんのことで、相談したいことがあります。

メッセージリクエストのプレビューに表示されたとき、少しでも目に留まるように。興味を引く一文を、最初に書いた。そして、続きに、明かしすぎない範囲で事情を書いていく。

このメッセージに反応してくれるといいのだが。

そう思いながら、俺はスマホを手放した。

――翌朝。

9時を過ぎた、ちょっと遅い目覚めだった。

ベッドの枕元にあるスマホをつかむ、

そのまま、寝起きの目でスマホの画面を見る。

スマホの通知が目に入った。

『一度、お話しさせてください』

そう書いてあった。