作品タイトル不明
コラボカフェ
コラボカフェの約束の日、当日。
午前11時。俺は駅前で待ち合わせしていた。
さすがに女性と食事に行くので、髪は少しだけ整えた。
しかし、服はいつもとあまり変わらない、モノトーンの色合い。無難が服を着て歩いている、それが、俺の服装を見たときの妹の感想だった。
あんまり気合いを入れていくのも違うかなと思い、普段通りで行こうと考えた。
とはいえ、女性と二人で遊びに行くのなんて、大学生以来で少し緊張する。
緊張しているのは、コラボカフェが楽しみだからというのもあるが、妹以外の女性と遊びに行くというレアイベントのせいでもあるかもしれない。
少し浮ついた気持ちで待っていると、見覚えのある姿が見えてきた。
その、女性にしては高めの身長は遠目でも目立って見え、すぐに分かった。
「あの、待たせちゃいましたか」
事務所で会ったときとまた違った服装だった。肩の空いた、清涼感のあるブラウス。胸元に重なるフリルが上品なイメージを醸し出す。ボトムスはライトブルーのジーンズで、カジュアルで初夏っぽさを感じさせた。
肩まで伸びた髪は艶やかで、手入れが行き届いている。切れ長の目は、見つめていると、吸い込まれそうな透明さを持っていた。
「いや、今来たところです」
真っ赤な嘘だ。30分は待った。もちろん、おくびにも出さない。
「よかったです。ちょっと家出るの遅れちゃって……」
よくよく見ると、少しだけ息が上がっているように見えた。
道中、急いできたのかもしれない。
「どっかで休憩してからにします?」
「いえ、お気になさらず。早くコラボカフェ行きたいです!」
よほど楽しみなのか、即答だった。
「わかりました。じゃあ行きましょうか。霧島さん」
霧島凛。それが姫川ユリナの名前だった。多分本名だと思う。
コラボカフェに行くにあたってユリナと呼ぶわけにもいかないので、どう呼んだらいいかを聞いたら、帰ってきた答えだった。
「そうですね、行きましょう。一ノ瀬さん」
一ノ瀬透。俺は普通に本名を教えていた。別に隠す意味もない。それに、本名かベルン以外の名前で呼ばれて、反応できる気がしなかったからだ。
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コラボカフェは駅前にある商業ビルの6階でやっていた。時間帯の昼時で、ピークではないが、人もまずまず多い。
「結構人が多いですね」
「そうですね、まあ人気のゲームですから」
予約をしていたので、すんなりと入ることができた。
店内では暗魂のBGMがなっており、カフェとは思えない荘厳な雰囲気。
そのことに少し笑っていると、隣の霧島さんも笑みを浮かべていた。やっぱりカフェの雰囲気じゃないよな、このBGM。
正方形っぽいテーブルの、二人掛けの席に案内される。
あまり奥行きのない小さめのテーブルで、対面に座ると、距離が近く感じた。
真正面を見つめると少し照れてしまうので、ごまかすように、周囲を見渡してみる。
客層は比較的若めで、大学生くらいが多そうだった。男女比は6:4くらいで、若干男が多いかな、程度。
椅子に座って、少し落ち着いた後、気が付いたことがある。周囲から視線を感じるのだ。自分にも感じるが、特に、対面の彼女に向けた視線だ。
理由はわかっている。正直言って、霧島さんは目立つからだ。
背が高い……、というのもあるかもしれないが、単純に美人だから目立つ。
それに、独特の雰囲気を纏っているというか、なぜか気になってしまう、不思議な魅力が彼女にはあるらしい。
近くの席に座る大学生くらいの二人組が、チラチラと見ているのが視界の隅に映る。うん、気になるよね。俺もそちらの立場なら様子を伺ってしまうかもしれない。
そんな周囲の様子には気づいていないようで、霧島さんはメニューをじっと見つめていた。
こういう姿を見ると、子供っぽいというか、幼さを感じる。この前コラボをしたときの、若干抜けている感じを思い出した。
「あ、これ!エスト瓶ですよ!」
メニューを裏返して、指をさしながらこちらに見せてくる。その顔は笑みにあふれていた。
「これ、どんな味するんでしょうね」
前々から気になっていた。エストはどんな味なのか。
「私はスポーツドリンクみたいな味かと思ってます」
確かに、そういった清涼感のあるドリンクかもしれない。体力も回復しそうだ。
「僕は栄養ドリンクやエナジードリンク的なのだと思ってました」
〇ポビタンDとか。大学時代はテスト期間に〇ンスターと合わせてよく飲んでいた。
「ああ、それもありですね、栄養ドリンク!私も配信前によく飲みます!」
おいおい、配信はちょっとマズくないか?
「あ、ちょっと、霧島さん。その話題はあんまりよくないかも…」
少しだけ顔を寄せて、小声で言う。
すると、すぐさま気が付いたようで、すいません…と返す。
見た目はすごくクールな美人って感じなんだけど……。
この子、ほっとけないタイプかもしれない。
そのあとは、二人ともメニューを熟読した後、店員を呼んだ。
頼んだのは、気になっていたエスト瓶。合わせてエリンギの丸焼き、腐ったドラゴンの腕肉(本当に腐っていたらどうしよう)、白くべたつくソース付きチキンナゲットを頼んだ。
しばらくして、店員がエスト瓶を持ってくる。
コラボカフェでありがちの、コースターが付いていた。
武器が12種類の中から1種類がランダムでプリントされている。
俺のは、ツヴァイヘンダー。霧島さんのは、ロングソードだった。
先日の通話を思い出す。奇しくもお互いのお気に入り武器がコースターになっていた。
彼女も気が付いたようで、ニコニコとこちらを見て微笑む。
「交換しませんか?」
「ぜひ」
お互いのコースターを差し出す。
すらりとした指が、コースターと共に伸びてきた。
爪には、薄いピンク色のネイルをしていた。艶やかな色が照明で煌めく。
視線をコースターに戻すと、ロングソードが目立つ形で、剣を構えた騎士がプリントされているのが見えた。
「いいですね、これ」
「はい、集めたくなりますね。コースター」
普段コースター使わないけど……。そう付け加えるように言う。
確かに、と相槌を打とうとすると、後ろの席にいる、一人の女性が目に入った。
サングラスをかけ、室内であるにもかかわらず、キャップをかぶっている。
そして、マスクをして、顔はほとんど出ていなかった。
その女性が、目がサングラスに隠されているにもかかわらず、なぜかこちらを睨んでいるように感じた。
つーか、どこかで見たことある姿だった。服も見たことあるかもしれない。
少しの間、考える。脳裏に浮かぶ記憶を参照していく。
…………あいつ、紗由だ。