作品タイトル不明
アフタートーク
ボスを倒した後、見てくれた視聴者に感謝をしつつ、キリが良いところで配信を終えた。
赤いLIVEランプが消える。
コメント欄の流れが止まり、BGMも止める。部屋に静寂が戻ってきた。時間にして5時間。死亡回数は120回。とても楽しい時間だった。
「……お疲れさまでした」
まだつながっていた通話で、先に口を開いたのはユリナだった。先ほどまでの、配信中とはまた違う声。
「こちらこそ。5時間も付き合わせてしまって、申し訳なかったです」
当初は2時間くらい、長くても3時間くらいで終わる予定だった。自分のヘタさを甘く見ていた。
「いえ、私も楽しかったので」
ユリナはすぐさま、そう返答する。
「……本当に?」
「本当に。いつの間にか、指示なんて忘れて、普通に見ちゃってました」
笑い交じりの声で言う。
「それは気づいてました」
「……やっぱりわかりましたか」
「隣で友達のゲームプレイを見てる感じでしたね」
昔、一緒に住んでいた頃。妹はゲームはしないくせに、俺がプレイしているゲームを見るのが好きだった。俺のプレイに反応するユリナの声を聞いていたら、なんとなくそれを思い出した。
「う……」
ユリナが小さく唸った。気まずそうというより、照れているような声だった。
「私、もともとゲーム実況を見るのが好きで。Vtuberのゲーム配信もよく見てたんですよ」
「それでVtuberになったんですか」
「そうです。見てるうちに、自分でもやってみたくなって」
その気持ちはわかる。俺もちょっと興味があった。
「ベルンさんの配信も、見てましたよ」
「ああ、ガルドのやつですか」
「そうです。214回死んで、9時間半かけて倒したやつ」
「……よく死んだ回数を覚えてますね」
「コメントの人が死亡回数を数えてたので、覚えちゃいました」
死亡回数を数えられていたのか。自分では気にしていなかった。
「……それはちょっと恥ずかしいですね」
「でも、あれ見てたから今日のコラボ申し込んだんです。あの粘り強さと、何度負けても折れないし、雰囲気悪くならない感じがいいなって」
あと、〇リトライネタも結構ツボでした、とそう付け加える。
よかった。渾身の〇リトライネタは滑ってなかったらしい。いや、なんか直接言われると恥ずかしいな。
そういえば、とユリナが声を上げる。
「前作の『暗魂』もやってましたか」
「やってましたよ。自分はウロムゲーで最初にやったのが『暗魂』で」
「私もそうです!」
声のトーンが、また少し変わった。少しだけ、前のめりになったような気がした。
「え、何の武器使ってましたか?」
「ロングソードですね。見つけてからは、最後までずっと」
「おー、渋いですね」
「振りが早くて使いやすいんですよ。モーションも癖がなくて」
「わかりますよ。私は、ツヴァイヘンダー使ってたんですけど」
「ツヴァイもいいですね。僕もサブで使ってました」
ツヴァイヘンダー。ロングソードよりかは重く、リーチの長い武器だ。見た目が気に入っていて、時々使っていた。
「リーチがあって、振るとちょうどいい重さみたいなのを感じるんです。見た目は派手じゃないんですけど、機能美というか、無骨なかっこよさがあると思っていて。私はすごく好きでした」
語るほどに声が弾んでいく。
「あと、振り下ろした後の、ガチャンって感じの音が好きなんですよね。ほんと、ただの好みなんですけど」
ツヴァイヘンダー語りが止まらなかった。ほんとに好きらしい。
「わかります。あの余韻というか、金属の響きが残る感じ」
あの振った後の余韻は、いいものだった。
「いいですよね。あの効果音のせいで愛着が出たところもあると思います」
「ゲームって、音で印象が変わりますよね」
自然と話が広がっていく。
「僕はパリィの音とか好きで」
「パリィ……」
一拍置いて、ユリナが少し笑った。
「すみません、今日のことを思い出しました」
「あの間違いですか」
指示に従って、完璧なパリィをしたと思ったら、そのまま叩き潰された。あの光景を思い出す。
ユリナが少し居心地悪そうに答えた。
「縦振りと横振り、見間違えちゃいました」
「あれは思わず笑っちゃいました」
「本当に申し訳なかったです……でも、最後はちゃんとパリィ決めてくれたので。言ってよかったかも」
「さすがにもうちょっと早く教えてくれてもよかったですけどね」
そう、笑い交じりに言う。
「……本当にすみません」
ユリナも、笑いを湛えた声で言う。和やかで、柔らかい雰囲気が流れていた。
あの、音の話の続きなんですけど、とユリナが切り出す。
「私も、暗魂のパリィ音好きですよ。あの気持ちよさって他にないですよね」
「あの、ドゥーンってやつですね」
「そうです、ドゥーンってやつ」
ユリナが少し間を置いてから言った。
「あの効果音を聞くと、脳汁が出るというか、生きている感じがします」
最後に聞けてよかったなあ。そう独り言のように、しみじみとつぶやく。
なぜか、その言葉が胸に残った。
「話してたらまた暗魂やりたくなってきましたね」
「私もです。もう一周したいな」
少しして、ユリナが思い出したように言った。
「そういえば——今、暗魂のコラボカフェがやってるんですよ」
「……え、マジですか」
「エスト瓶をモチーフにしたドリンクとか、白竜の腕の料理とか。あとエリンギの丸焼きも食べれるらしいです」
「エリンギの丸焼き」
「はい、エリンギの丸焼きです」
あの武闘派エリンギが頭に浮かんだ。どんな料理なのか、まったく想像がつかない。
「……それは行かないといけないですね」
「他にも、限定のTシャツとか、アクセサリーみたいなグッズもあるみたいで、気になってるんですよ」
「エスト瓶のドリンクって、本物みたいな容器に入ってるんですかね?」
「らしいです。テンション上がりますね」
2人とも、声が少し明るくなっていた。
一拍、二拍と、時間を置いてから、『あ……、あの』、とユリナが切り出す。
「一緒にコラボカフェ行ってみませんか?」
想像もしていないお誘いだった。妹をコラボのことで怒らせたばかり。リアルで遊びに行ったとバレたら、ネットの一部で炎上する可能性もあった。
しかし、同じウロムゲー好きとして、気が合いそうな人と、一緒にコラボカフェに行く。
それは、とても魅力に溢れていたのも事実だった。
一瞬の逡巡。
「一緒でよければ、是非」
言ってしまった。