軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

死闘の果て

48回目。第二形態で粘れるようになってきた。

しかし、第二形態に移行した敵の猛攻を受けきるのが、かなり難しい。

焦って多少強引にエストを飲んでいるところに、なめてんじゃねーぞとでも言うかのように、エスト狩りが繰り出される。

『YOU DIED』

「惜しい!あとすこし!」

「すまない、エストを飲むタイミングが軽率だった……」

《眼の前でドヤエストはあかーん》

《いやー、ほんと惜しい》

《成長を感じてます》

《ベルン様、段々と貴族の風格出て来たな》

死亡回数、57回。気づけば2時間が経っていた。

第二形態が思いのほか手ごわい。動きが早くなることで、ローリングのタイミングがずらされてしまうのだ。

一度タイミングを覚えても、今までの手癖でボタンを押すと間に合わなくなる。

逆に、第二形態に慣れると、最初の形態でも目押しのタイミングミスをするようになる。

死亡回数、81回。倒せないまま、3時間が経った。

「姫川先輩。もう予定の配信時間を過ぎているが、時間は大丈夫だろうか」

「私は全然大丈夫ですよ」

声に疲れた感じはなく、やる気に満ち溢れていた。

この人もウロムゲーが好きらしいので、こんなヘタクソなプレイを見ていても楽しめるのかもしれない。

何時間も付き合わせて申し訳ないので、後で謝っておこう。そう思った。

《2人ともやる気やん》

《最初、2時間くらいの予定って言ってなかった?》

《ユリナ姫、ベルン沼に引きずり込まれてて草》

何度もリトライする中で、ユリナの言葉使いが変わってきた。

「ジャンプ突き」

短い。遠慮さがなくなって、簡潔になった。

そして、時折こんな声が混じるようになった。

「あ——そこで攻撃できたのに」

「……すまない。タイミングを逃した」

「えっと。あの、独り言みたいな感じなので、聞き流してください」

か細い声で、ユリナが答える。

先ほどの声は、助言や指示ではなく、一緒に見ている人の感想・ガヤみたいなものらしい。

死亡回数、98回。4時間が経っていた。

霧の扉に入る前、ユリナが言った。

「頑張ってください」

攻撃パターンの説明でも、タイミングの指示でもなく、ただそれだけ。

戦闘中も、指示はほとんど出なくなっていた。代わりに、

「あ——」

被弾するたびに、小さく声が出る。

「そこ——あ、ちょっと遅い」

まるで配信を見て、独り言を言っているようだった。

《ユリナ姫、最近指示してなくない?》

《応援配信かな?》

《もはやベルン様のリスナーと化してる》

死亡回数、119回。5時間が経っていた。

霧の扉をくぐった。

その1秒ほどの間で、ユリナと言葉を交わす。

「頑張りましょう」

「そうだな」

近づいていくと、開幕、ヴォルカが唸る。声に合わせてローリング。その隙に攻撃。

時たま、相手のモーションを見て、ユリナが声を出す。

「見飽きたぞ、そのモーション」

ジャンプの着地に合わせ、横にローリングした。炎が後方を走っていく。

「いい感じです」

ユリナが称える。

ヴォルカのHPゲージは残り1割程度。

「もう少しです!」

ユリナの声が少し大きくなる。

ヴォルカが大きく腕を振り上げた。縦振りの予備動作だ。

「パリィ——」

突然聞こえたその声に、素直に反応していた。

ユリナの指示に任せて、自分では何も考えない。

完璧なタイミングで、パリィボタンに指をかけた。

「——あっ、回避! 回避です!!」

まさかの撤回。致命的な指示ミスだった。

「え」

既に動き始めていた指は、しっかりとパリィボタンを押していた。

タイミングとしては、完璧ではあった。しかし、残念ながら、縦振りにパリィは通らない。

パリィのモーションの上から、ヴォルカの剣が俺のキャラクターを叩き潰した。

『YOU DIED』

真っ暗なロード画面の中、沈黙が流れた。

「…………ごめんなさい」

「……ふっ」

堪えるつもりだった。

「くっ、くくっ……」

無理だった。

「はははっ……ごめん、今のは——」

止まらなかった。ボス戦に入ってから、変な指示はなかったはずなのに。

ユリナも長時間見守り続けて、疲れが出たのか、突然飛び出た失策だった。薄々わかっていたが、彼女はちょっと抜けたところがあるらしい。

《ベルン様の素の笑い声、始めて聞いたわ》

《縦振りをパリィさせようとするのやめてね》

《やっぱこの姫、ベルン様を殺そうとしているだろwww》

《ベルン様の貴族キャラ崩壊してて草》

「……ベルンさん」

笑いを堪えようとして、余計に肩が揺れた。

「……コホン、すまない。だが——ははっ」

「笑いすぎです……」

叱るような声だったが、語尾が少し揺れていた。

ふふっ、と小さな笑い声が聞こえた。

《ユリナ姫もつられて笑ってるやん》

《二人ともほぼ素になってる》

しばらく、2人とも黙っていた。

先に口を開いたのはユリナだった。

「……あの」

「なんだ」

「実は……横振りは、パリィができるんです」

思わず手が止まった。そんなこと、一言も聞いていなかった。

「……なぜ今まで言わなかったんだ」

「慣れてから言おうと思っていて。タイミングを逃しました」

声のトーンが、少し申し訳なさそうだった。

《今さら言うんかいwww》

《5時間後に明かされる攻略情報》

《ユリナ姫の情報開示遅すぎ草》

「……そうか」

確かに、最初のころにパリィがどうこう言われたら、覚えることが多すぎて、頭がパンクしていたかもしれない。

だから、あとで教えよう、というその考えは間違っていなかったと思う。

しかし、もうちょっと早く教えてくれてもよかったかもしれない。パリィが効くということは強制的にこちらのターンを作れるということだ。攻略がグッと楽になる。

リトライボタンを押した。

「よし、もう一度やろう」

霧の扉をくぐった。ヴォルカが姿を現す。

基本に忠実に、声を聞いてローリング。出の早い攻撃は予備動作に注意して回避。じりじりとHPゲージを削っていく。

ユリナは固唾をのんで、黙って見守っていた。

時折、思い出したように、ジャンプ突きとだけ声をかける。

言うのが早いか、行動するのが早いか。もはや脊髄反射のように横にローリングした。後方へ炎が走って過ぎ去っていく。

気が付くと、ヴォルカのHPゲージは残りわずかだ。

ヴォルカが大きく腕を引き、体を捩じる。この予備動作はずっと見てきた。次に来るのは横振りだ。

俺はパリィボタンを押した。今度は、ユリナは何も言わなかった。

『ドゥーン』

パリィが決まった。体制が崩れ、片膝をついたヴォルカは無防備だ。その隙に溜め攻撃を叩き込む。

すると、さらにヴォルカが倒れこみ、背中の弱点が露出する。ゆっくりと、R1ボタンが暴発しないように近くに近づき、致命の一撃を決める。

ついに、HPゲージがゼロになった。

《うおおおおお!!》

《やったああああ!》

《死亡回数120回……普通だな!(ベルン様比)》

《最後パリィで締めるのやっぱかっこいい》

《5時間お疲れ様でした》

《ユリナ姫とのコンビ結構よかったわ》

俺はコントローラーを置いた。

しばらく、ユリナも何も言わなかった。

「……やりましたね」

静かな声だった。

「ああ」

得も言われぬ達成感が、そこにはあった。

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【コラボ】没落貴族のボス攻略、クールな姫の参謀が助けてくれるらしい

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